結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

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本編

一話 初夜

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 レーヴェンハイト王国とヴォルティア帝国の長年にわたる戦争の終結。
 円満かつ分かりやすくそれを示すために行われたのが、婚姻だった。

 そのために選ばれたのが、現レーヴェンハイト王国国王の弟の家系、リリエンハイト公爵家の三男、カイル・リリエンハイト。
 そして、ヴォルティア帝国皇帝、ライナルト・ヴォルティア。
 両者ともに男だったが、男女以外にも第二の性があるこの世界、同性でもその第二性によっては婚姻が結ばれることが可能だ。
 そしてレーヴェンハイトの王家にいる二人の王子は共に既婚であったため、現王の弟であるリリエンハイト公爵、その息子でΩのカイルと、未婚であったαのライナルトが結婚することとなった。

 レーヴェンハイトからは王家の血筋の人間とヴォルティアの皇帝。
 その二人の間で子でも産まれれば、両国間での関係をこれ以上なく示せるだろう。
 因みに、ライナルトは終戦の少し前、前皇帝が不慮の事故で死んだために、つい最近皇帝の位に就いた。
 不慮の事故にどこまで人為的な思惑があったのかは不明だが、今回の終戦はライナルトの即位してからスムーズに進んでいる。

 さてそんな思惑とか裏事情とかがたっぷりの結婚が行われた現在、面倒でかたっ苦しい式典をどうにか静かにやり過ごし、そうしていよいよ夜。
 カイルとライナルトは寝室で顔を合わせていた。
 所謂あれだ、初夜とか言う奴。

「チッ」

 一言もしゃべらないまま、精悍な顔に苛立たしげな表情を浮かべ、ライナルトは舌打ち一つ零して寝室から出て行こうとする。

「へぇ」

 そんなライナルトの様子を、愉快そうに眺めるカイル。
 椅子の上に足を組んで座り、片手に持ったワイングラスを軽く揺らし、顎を上げてちょっと見下ろし気味に、ワイングラス越しにライナルトの姿を見る。
 なんだかとても偉そうな姿、部屋に入ってきたときからなので、実のところライナルトは大変驚いたが表情には出さなかった。

 そんな偉そうなカイルだが、実はちょっと困ったなぁっと思っていた。
 困った。
 このまま出ていかれたら色々諸々がパーになる。
 折角面倒で退屈で気に入らない式典とかを黙って大人しくやり過ごしたのに、その苦労が目の前の男の行動一つで無駄になるのは我慢できないのだ。
 そんなことになれば、うっかり殺してやりたくなってしまう。

 カイルが視線をちょっと横のテーブルに向ける。
 そこに置いてあるワインのボトルを見て、ちょっと魔が差しそうだったので目を逸らした。
 だってこのまま酒瓶で頭をカチ割る、というのもカイルとしては悪くないと思ったが、流石に初日から殴るのはよろしくないと思ったのでやめた。
 自分が暴れまわって戦争が再開するのは、別に悪いとは全然思ってなかったけど、むしろアリなのではないかと思ったけど、ワンチャン魔法で治せず死んだら面倒だし。

 なので、手に持っていたグラスの中身を、ライナルトに向けて思い切りかけた。
 とはいえ、距離があるから本来なら届かない筈だった。
 けれどワインは空中で僅かに光を帯び、鎖のような形をとってライナルトに巻き付いた。

 拘束用の魔法だ、数日前から、酒を媒介に仕込んでいた。
 どうしてそんなもんがこんなところにあるのかというと、勿論カイルがこっそり持ち込んでいたからだ。
 自国のものを国境辺りで全て置いてけって言われたが、カイルにはそれを突破してものを持ち込む能力があったし、残念ながら素直に従う気はなかった。

 故に現在、他国においても名の知れた魔導師であり武人、雷帝とか呼ばれてるライナルトをあっさり拘束することに成功している。
 なぜこんなもんを持ち込んだのかってそりゃもちろん、カイルにだってこの部屋で大人しく初夜なんてやる気はなかったのだ。
 そんなことになったら自爆してでも相手を殺す自信がある。
 結婚初日からライナルトとガチの殺し合いをするよりも、穏便に拘束して床に転がしておく方がいいだろう。

「何をするんだ!? いきなり!」
「いきなり出て行こうとする方が悪くない?」
「ふざけるな!」

 溢れる魔力により光を帯びた金色の目を鋭くさせ、ライナルトは拘束を解こうとその場で藻掻く。
 けれども数日かけた魔法だ、そう簡単には解けないと余裕の表情を浮かべるカイルはライナルトに近寄り、人差し指で一層強く締め付けられている腕の部分を指し示す。

「大人しくしなよ、腕、とれちゃうよ?」
「ふざけんなっ!!」

 抗議の声はより一層強くなったが、大人しくなったライナルトに、カイルは満足そうに微笑んで首根っこ引っ掴みベッドに放り投げた。
 カイルは勿論、こんな状況で人が入ってこないように扉を魔法で封じ、防音の結界も張った。
 これで万が一にも、この状況を誰かが目撃することも止めることもない。

「俺さぁ、実家にもう帰ってくるなって言われてるんだよね」
「ア?」
「でも正直言うこと聞く気はないから、このままの足で帰ってやってもいいんだけどさ」
「何だいきなり」

 何が言いたい、という感じのライナルト、突然身の上話などをされればそんな感じにもなるだろう。
 なのでカイルは一切気にせずベッドの上に登り、ライナルトの襟元を掴んで持ち上げた。

「でも正直面倒な結婚を押し付けてくれやがった国にも実家にも怒りはあるから、このまま帰ったら殺しちゃうかも♪」
「ハ?」
「個人的にはそれも全然ありなんだけどさ、流石に殺しちゃったら俺も無罪で済まないでしょ?」
「そりゃ、当たり前だろ」
「だから、俺の怒りが落ち着くまで結婚ごっこしようよ♡」

 ちょっとなら大人しくしててあべげるからさ。

 頭の下にしっかり枕が来る位置までしっかり持ち上げてから、カイルはライナルトの腹の上に乗りあげた。
 その時、ライナルトは初めてカイルの姿をしっかり見た。
 長い金色の髪を後ろに払い、端整な顔にほんのり笑みを浮かべているカイルは、美しいと形容できるだろう。
 けれどその琥珀色の目は細められ、心底愉快気にライナルトを見下してきている。

「何する気だ」
「仲良ししてたように見えるように?」
「ふざけんなっ」
「暴れるなよ、優しくしてやるからさ」

 ニコニコと笑いながら、ライナルトのシャツのボタンを外そうとしているカイルは、途中で面倒になって思いっきり引き裂いだ。
 あらわになった肌の鎖骨の辺りに顔を近付け、吸い付いていくつか跡を残すと、そのまま肩にかみついた。
 鋭い痛みを感じて、顔を顰めたライナルトは身をよじるが、拘束が邪魔をして上手く動けない。

 顔を上げたカイルは、唇に付いた血を舌で舐めて、顔を顰めてマズいと呟く。
 カイルの見た目はΩらしい、中性的で線の細い美形だが、その姿はどう贔屓目に見ても得物を追いつめる捕食者のようだった。

 正直容姿が綺麗とかよりも、命の危機の方を感じるって感想が浮かんでくるライナルトは、とんでもないものを送り付けてくれた王国に心の中で恨み言をぶつけた。
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