結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

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本編

二十話 カイル

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「お前さ、したいこととかある?」

 色々迷った末に何も言わないことにして、改めて竜に向き合ったところでカイルにそんな事を聞かれた。

「なんだ、いきなり」
「ちょっとした疑問、なんか目標とか、夢とか、そういうのある?」
「……そうだな、今はちょっと、父親と兄を殺して、皇帝になってみたい」
「そうか」

 ジャやってみろ。
 その言葉と共に、小瓶を一つ取り出したカイルは、それをライナルトに渡して背中を蹴った。
 ちょっとしたプレゼントだ、使おうが使わなかろうがいいが、一応使用説明は付けておいたので困ることはないだろう。
 そして勿論だが、蹴ったのだってただ無意味に蹴っただけじゃない。
 魔法でちょっと浮かせて、直線方向に真っ直ぐ高速移動するよう蹴ったし、いくつかの加速も仕掛けている。
 その上で、なんと安全性に配慮して障壁まで張っていた。優しいな。
 カイルとは思えない程の優しさだ。

 だってちゃんと、森の外まで送ってやると約束しちゃったので、傷も治ったし体調ももう悪くないから、約束を守らないと。
 あと単純に邪魔だったので。
 うっかりプチっとやっちゃったら困るじゃないか、これからの夢というか、目標があるらしいし、果たさせてやろうって感じだった。実に優しい。

 現在、この森にはカイルの数日間たっぷり放出した魔力が溢れ、魔素と溶け合いながらも完全には混ざってない状態だ。
 空気から植物、土も水も、しばらくの間はカイルの支配下に置けることだろう。
 こんな場所で、真っ向から対峙して、カイルが負けるわけがない。
 そうだろう?

 なぁ。

***

「ヴォルティアの、皇帝が変わったらしいよ」
「へぇ」

 伯父に呼ばれたカイルは、出会いがしらにそんな事を言われた。

 伯父。
 この伯父と、カイルは少しばかり交流があり、そしてとんでもなく苦手だった。
 理由は特に特別なものはないが、強いて言うなら理解できないからだろう。
 愛情も慈悲も深く、朗らかで優しく、民と国を思う素晴らしい人間。
 厳格で判断力もあり、誰もが認める素晴らしい王様。
 伯父はそう言われる人間だったが、カイルにとってはどこまでも理解できない不気味な何かだった。
 だってカイルの目から見た伯父は、人々が評するような人間ではなく、どこまでも人間の真似事をしているだけの何かだったので。
 伯父は確かに優秀で有能だが、けれど優しいとか愛情とか慈悲ってなると話は別だった。
 あれは単に人間の真似をしているだけだ。
 人が優しいと、慈悲深いと感じる言動を演じているだけ、愛情なんてないのに、何にも感じていないのに、それでも弟を思う兄、息子を愛する父親、妻を愛する夫、国を愛する王のような顔を作る。
 気持ち悪いなぁと、素直にそう思った。

 伯父の事をそう認識したきっかけは、確か年が十歳前後の頃だったか。
 初めて会った時に、近くにしゃがんで視線を合わせた伯父に言われた言葉。
 あの愚かな連中の愚行を、笑って酒の肴に出来るようになったら、全員処刑してやろう。
 にこにこ笑って、内緒話をするかのように囁いてきた伯父の顔は、いつもと何ら変わらなかった。
 その時からもうカイルは伯父がダメになった、別に酷い奴だって非難したいわけじゃないし、逆に味方かもって期待したわけでもないが、それでもこれは駄目だと思った。
 これはなんだろうか、人間かな、どうだろう、化け物かもしれない。
 人間の姿を真似ているのか、それとも人間の中身を喰って成りすましているのか、そんなことを考えるくらいには、そういった伯父が理解できない何かに見えたのだ。

 そのくせ伯父は何でも知っているかのようで、もう本当に駄目だった。

 今回だってそうだ。
 一体何をどこまで知っているのか知らないが、何やらとても楽しそうな伯父は、その新皇帝即位に関して色々言っている。
 暗殺がどうの、今後の戦況がどうとか、正直もう戦争に参加する気が全くないカイルには関係ない話だったけど。
 でも、まるで直接見てきたかのように詳しい伯父は果たして、何を知っていてどこまで関わっているのだろうか。
 知りたくなかったので一切深くは聞かなかったけど、本当にこの人苦手だと本心から思いながら茶菓子を齧った。美味しい。

 あの森での一件以来、早々に前線から引っ込んだカイルは死亡説とかが色々流れた、というか流した。
 これ以上はどちらの味方もする気が起きなかったので、仕方ないさ。
 伯父とてその件は一切何も言わないのだから、別に問題ないだろう。

「どうしたい?」
「どうって?」
「今終戦交渉しててね、うちの国から新皇帝に誰か嫁がせようって話になってるんだよ」
「それで?」
「だからさ、君、行きたい?」
「……」

 にこにこと、穏やかな顔して聞いてくる伯父を見て、カイルは思わず顔をしかめた。
 もうホントこの人嫌だという、素直な感情の現れだった。

 新しく即位した皇帝と面識があるとか言ったことないのに、何で当たり前のように知っているのだろうか。
 しかもちょっと、あいつが皇帝になったらちょっと国の様子を見に行こうかなって思っていたことまで知っていたらしい。
 一体、何なのだろうか。

「どこまで」
「ん?」
「どこまで知っているんです? というかどこまでアンタの掌の上?」
「えぇ、何の事?」
「もういい、素直に言ってください、どこまで計画していたんです? 俺が刺されてアイツに会うの知ってました? やっぱり未来を見る何かあるんでしょ? もう素直に言って」
「そんな断定しなくても、未来なんて見えないし、人の行動を操ったりもしてないって」
「ぅぐぬぬぁ」

 何も言えなくなってただ唸ったカイルを、伯父は愉快そうに眺める。
 一体、何がそんなに面白いのだろうか。

 面白いんだろうなぁ、だっていつもこんな感じだもの。
 カイルは伯父が苦手だったが、実は伯父の方は、カイルを気に入って、その結果交流が細々と続いている。
 その度に「この人本当に無理」って感情が更新されていくカイルを、伯父は今みたいに愉快そうに眺めていた。

 なお、伯父がカイルを気に入ったのは単純に、自分に似ていると思ったからだ。
 自分の実の子よりも、自分寄りの存在だったので。
 ちょっと話がしたかったし、どんな生き方をするのか、どんな反応をするのか気になった。
 何を考えてるんだろう。何が好きなんだろう。何が嫌いだろうか。何に怒り、何に喜び、何に悲しみ。何を愛し何を憎み。何を気に入って、何を気に入らず。どれだけの残酷さがあって、どれだけ人間として破綻していて。
 どれだけ人間らしいのだろう。

 つまり、伯父はカイルに興味があったのだ。

「それで? どうしたい?」
「……離婚は出来るの?」
「状況次第じゃない?」
「……」

 伯父の言葉に、カイルは無言でひたすら悩んでから、絞り出すように小さい声で行くとこぼした。
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