結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

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本編

二十九話 ダメかも

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 クーデターは無事制圧できたが、制圧したらすぐおしまい、というわけには行かなかった、世の中そんな簡単じゃないんだよな。
 例えば今回の騒動に直接的な関わりがあった貴族連中の処罰とかね、殆どは処刑台のシミになったが、その連中から取り上げた財産とか土地とか、そういう資産をどうするのか決めねばならないし。
 あとそれなりの役職についてた奴もいたので、空いた席に誰を据えるか考えて、役職丸ごと消してしまおうかな。マジでやったらいくつかの大臣職と、あと将校の席がなくなるが。
 生き延びた家の対応はもっと面倒だ、取り潰した方が手っ取り早いのにそうも行かない、政治っていうのは本当に面倒。
 ライナルトは三回ほど玉座と王冠を叩き壊してやりたくなった。

 というか、なぜ国と軍の上層部が揃いも揃って国に逆らおうとしてんだよ、暇なのか、手足擦り切れて無くなるまで働かせておくべきだったらしい。
 反省したので、これからの国家運営は余計なことを考える暇もなくなるくらい、ひたすら働かせる事となった。
 疲労で思考能力を落とし、現状に不満はあっても打開するために行動する気力を削り、この状況が普通であると思わせるとしようか。洗脳かな。

 それと、行方不明者も多数出た。
 皇宮で行方不明者、話を聞いたところどうやら地震が起きて地面が割れ、そこに吸い込まれていった人間が何人も出たらしい。
 その件に関しては、マァ犯人は見当がついてるし、ちょっとうやむやにした方がいいので深くは追求せず行方不明となった。
 落ちた奴の多くが襲撃者だったし。

 そんな面倒な後処理を、一応は片付けて一息つけるようになった頃。
 正確には、まだ処理しないといけない案件はそれこそ山のように積み重なってるが、その処理をしながらも休憩時間を捻出して茶くらいは飲めるようになった頃。

 そこまで来て、ライナルトはなんだか頭が回らず、何にも手がつかなくなり、上の空でひたすら天井を見つめるしか出来なくなっていた。

 働かせすぎたのかもしれない。
 ちょっと心配になったジークは、ひとまず書類を全部片付けた。
 疲れてる状態のライナルトに書類を見せると、そのまま流れるように焚き火を始めるので、しかも室内で窓も開けずに。
 煙に覆われた部屋、一面火の海の中で一人、無表情でマシュマロ焼いてるライナルトは、少し恐ろしさを感じるので見たくない。

 書類を片付けてから、紅茶を入れて目の前に差し出してやる。
 ボーっと、見てるんだからわからん目がカップに向き、しばらくしてから手が伸びる。

「陛下?」

 カップを持ち、口に紅茶を流し込もうとしてるらしいライナルト。
 その姿を見て、ジークが少し、困惑したような声で呼ぶ。
 けれど残念なことに、ライナルトには聞こえていないらしい。
 ボォーっと部屋の、隅っこのあたりをぼんやりした目で見つめているだけで、身動きどころか瞬きすらほとんどしていない。

「陛下!」

 もう一度声をかける、今度は少し語気を強めて。
 やっぱり聞こえていないらしい。
 これはいよいよ、少しおかしいのかもしれないと思い、少し焦ったように執務机に片手をついて身を乗り出す。

「ライナルト」

 名前を呼びながらライナルトの手を掴むジーク。
 呼びながら、懐かしいなぁとも思った。
 ここ最近は陛下だったから名前なんて、久しく呼んでいなかったので。
 今回名前を呼んだのは、別に特別な理由はない、ちょっと焦っていただけだ。

 焦っている、正確には驚いてるが正しいかな。
 否ほら、だって、ねぇ。
 ライナルトが口だと思って紅茶を飲ませてる先が、世一般的には腹と呼ばれる部位だったもので、いきなりトチ狂ったことやらかすから流石に驚いたのだ。
 驚いたジークはライナルトに対してうっかり名前で呼びかけ、それでも反応しない物だから物理的に止める事にした。

 そのまま腹に飲ませるのは良くないので。
 ライナルトが腹の、臍の辺りから飲み食い出来るとかじゃなきゃ、飲み物は口から飲んだ方がいいだろう。
 そして当然だが、ライナルトは臍から物を食える生物じゃないので、この紅茶はただ無意味に床と服を濡らしてるだけだ。
 可哀想に、皇帝に出されてるのだからそれないの代物だというのに、飲まれることなくただこぼされるだけだなんて。

 もちろん口から飲んだところで、食道を通ってたどり着く先は腹部なのだから、流す先としてはそこまで間違ってはいないのかもしれないが。
 けれどやっぱり、体外と体内とではやはりどこまでも違いがあるじゃないか。
 例えば服が濡れたり、後は火傷したり。

「ライっ!」
「あ?……あ、あぁうん、どうしたんだ?」

 カップを取り上げてから、肩に手を置いて揺らしながらさらに強く呼びかける。
 今度はようやく反応したライナルトに、ちょっと安堵して息を吐く。

「大丈夫ですか?」
「何が?」
「何? 何か、まず火傷してないんですか?」
「火傷? 否、全然、無傷」
「それは良かった」

 ならばよし、究極的に言えば、茶がこぼれようが服が濡れようが床が濡れようが、ライナルトが火傷してなきゃどうでもいい事なので。
 無傷で元気ならばそれが一番だ。
 では次。

「それで、精神か頭の方はどうです?」
「それは……」
「それは?」

 それは。
 大丈夫ではなく、なにかあるらしい言葉だ。
 一体。
 一体どうしたのだろうか。
 何か頭か精神がちょっと、駄目な何かでもあるのだろうか。
 問い詰めたいところだが、言いたくない事は言わないとも分かっているのでライナルトが言葉を続けるのを待つ。

「……ジーク」
「はい、どうしました?」
「俺はもうだめかもしれない」

 両手で頭を抱え、とんでもなく深刻そうに言うもんだから、流石に何かヤバいことになってるんじゃなかろうかと心配になったジーク。
 膝を曲げて腰を落とし、視線を合わせるようにして目を覗き込みながら、一体どうしたのかと尋ねる。
 まずは、状況を確認するところからだ、一体何があったのかを聞き出してからじゃないと何もできないだろう。
 どこか悪いんなら治療方法を探し、なにかに頭を悩ませてるならどうにかその憂いを消す。
 さぁどんとこい、ライナルトが正気に戻るんなら何でもやって見せよう。

「カイルが」
「はい」

 カイル。
 そう切り出したライナルトは、少なくともここ数日はカイルと会っていない筈だし、そもそもカイルの方だって部屋から出てきてすらいない筈だが、一体どうしたのだろうか。

「何をするにもカイルの顔がチラついて頭が可笑しくなりそうだ!! もう誰でもいいからいっそ俺の記憶を消してほしいッ!!」
「……へ?」

 ちょっと予想外の方向からぶん殴られたもんだから、ジークはちょっと理解が追い付かず、うっかり気の抜けた声を出してポカンと呆けてしまった。
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