結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

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本編

三十一話 現状

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「それで」

 顔を机に伏せたまま、そう言い出したライナルトの声色は冷静なように思えた。
 まだ顔を上げられないから、全然混乱しているんだろうけど。

「どうするんだ?」
「どうって、何がですか?」
「俺があいつを好きだとして、どうしたらいいんだ?」
「……さぁ」

 顔を上げたライナルトの、まだ若干焦点の合っていない目を向けられて、そう聞かれたジークは、顎に指を当てて小首を傾げる。
 どうしたらいいと聞いてくるライナルトを、無言で見つめ返し、目を瞬かせて思案する。

 どうって、何だろうか。
 どうやらこれからの自分の行動を、ジークに聞いているらしい。
 何というか、ライナルトらしくないというか。
 弱気になってるのかな、それとも身動きが取れなくなってるのか、あるいは向き合いたくないのか。
 やめて欲しいなぁ。

 ジークは素直にそう思ったし、口には出さなかったが目を細めて、いつもの笑みを消した表情で見つめ返したものだから、ライナルトも察したのか気まずそうに目を逸らした。

 だって別にジークはライナルトじゃない、なのにライナルトの行動を決めさせようとするのは、何だろう。
 あまりにも、無責任じゃないか。
 ライナルトを自分の思うとおりにしたい人間は他にいるだろうし、自分の意思で他者に選択をゆだねたいのなら、そういう人間を頼るべきだろう。

 ジークはちょっと、自分の行動や意見を他人にゆだねるライナルトというのが許せないらしい。
 所謂あれ、解釈違いって奴。
 後は純粋に、ライナルトには常に、自分の生きる道を自分の思うがままに歩んで欲しい、という願いもちょっとある。

 そう思っちゃったもので、うっかりちょっと冷めた表情で、無言で見つめ返してしまったのだ。

 そんなジークに、流石にマズったなと思ったライナルト、目を逸らしてから息を吐いて、冷静になろうと思った。
 冷静になって、自分の言動を振り返って。

「ぅぁああ……」

 自分の言動が耐え切れなくなって呻いた後、もう一度頭を抱えた。
 魔力の揺らぎのようなものを感じとり、咄嗟に羽交い締めした後、ちょっと抱え上げて自分ごと回転してライナルトの正面を壁に向ける。
 次の瞬間にはライナルトの衝動的な攻撃により大穴が開いた壁、衝撃で後ろに吹っ飛ぶ室内の家具類、急に風通しが異常に良くなった室内に吹き荒れる風。
 そして攻撃の発生源に至近距離に居たのにピクリとも動いてないジークと、そのジークに抑えられて息を荒げるライナルト。

「落ち着きました?」

 この部屋はもう駄目だなと呑気に考えながら、ライナルトを開放したジークはそういった。

「……それなりに」

 そう言いながらジークを見るライナルトの顔は、おおよそ正常な様子だった。ちょっと目は座ってるけど。
 でも声は平然としてるし、顔色も元通り、表情もスンって感じのすまし顔。
 とてもさっきまでと同じ人間とは思えないが、ライナルトは結構こういうところがあった。
 ひとしきり精神がガチャついたら一周回って冷静になるというか、一定以上に乱れたら無理矢理リセットするというか。
 ライナルトはそんな感じに、自分のコントロールするというのが中々うまかった。

 そんなライナルトがそれなりに落ちついたというのだから、多分、ようやっと冷静な思考を取り戻したのだろう。

 冷静になったライナルトは、ひっくり返った机と椅子を無視して、ちょっと位置がずれてしまったソファにドカッと腰掛ける。
 それから前髪を掻き上げて、息を吐きながら背もたれに身を預け、脱力したように天井を見上げる。

「とりあえず……」
「はい」
「とりあえずは、現状維持という事で」
「そうですか」

 これからどうするのか、そんな自分の疑問に出した答えが現状維持だったらしい、マァよろしいだろう。
 どんな思考を経ての結論かは知らないが、それでもライナルトがそうすべきだと思ったのなら、そうするのが一番さ。
 なのでただはいと頷いた。
 はい、そうですね、それがいいと思いますよ、貴方が決めたことなんですから。
 ジークは、ライナルトの決めたことなら、何も考えずに頷くところがあった。
 ライナルトが決めたのなら間違いはないだろうって、信じているってことだ、そして死ぬまで信じ切る気もある。

 マァ現状維持と言っても、カイルとライナルトの二人は一応既に婚姻関係にある訳で、現状がいわゆる恋愛関係のゴール地点なのだけど。
 たとえそこに感情が伴っていなくとも、その事実があるのとないのとでは別だろう。
 そこまで考えて、ジークにちょっとした疑問が湧いた。

「ところで」
「何だ?」
「二人は」
「あぁ」
「番になってるんですか?」
「……」

 この番が成立しているのといないのとでは大分、現状に対する捉え方というのが違ってくるので聞いてみたんだが、何故か無言になってジークを見ようとしないライナルト。

「番関係、成立してるんですか?」
「…………」

 聞こえてないのかともう一度聞いてみたら、今度は顔まで逸らしやがったライナルト。
 自分の口で答えたくないけど、誤魔化す気も起きないから態度で読み取れって事だろう。
 なるほど、そうか、わかりやすい反応をありがとう。

 どうやら番になっていないらしい二人、これはちょっと、話が変わってくるな。

***

「あの」
「……なんだ?」
「僕の記憶が正しければ、一応は結婚した後一夜を共に過ごしてましたよね?」
「あぁ、マァ、そうだな……」

 酷く歯切れ悪く、なんとも苦い顔をしたライナルト。
 何かあるらしいな。

 確かあの時は、そう、まだカイルという人間がよく分かってなかった時期だ。
 よく分かってなかったので、ライナルトが何かやらかさないかな、やらかしたらどうやって有耶無耶にしたものかという不安を抱えて一夜が明け、二人がいる寝室で轟音が響いて駆けつけたのだっけか。
 正直ジークは、ライナルトが素直に他人と一夜を共に過ごすとは思ってなかったので、結構近場で待機していたのだ。
 なのに一体どういう奇跡が起きたのか、見事一夜を共にしたものだから凄い驚いたっけ、その後の轟音にはさらに驚いたけど。

 今みたいに、激情を取りあえず物理的な破壊で抑えたライナルトと、室内が丸コゲになった寝室しかなくって焦ったな。
 この部屋もう一人いたはずだが、一体カイルはどこにいったのか、まさかこの部屋に転がっている炭の内の一つになってはいないよなと、頭を抱える羽目になった。
 流石に結婚数日でレーヴェンハイトから嫁いできた人間が死ぬってのはちょっと、とんでもなくマズかったので。
 マァ実際はそのあとすぐに、カイルが後宮で離宮ぶっ壊したりしてるって話を聞き、別の意味で頭を抱えたけど。

 でもだいぶアレな部類の人間らしいカイルだからこそ、上手くやれてたのかもしれないとも、思ったわけだ。
 よく見たらライナルトの肩に歯型があったり、鎖骨の辺りにうっ血痕があったので。

「何があったんですか?」
「あの日、か……」

 それが別となると、ひとまずいった何があったのかを確認したいジークに、ライナルトは何とも言えない、どんな感情なのか分からない微妙な顔をする。
 否本当に、そんな反応をするっていったい何があったのだろう。
 寝室で殺し合いでもしたのだろうか、ありえそうだな。

「はい」
「なんか部屋入った瞬間気に入らねぇってなって、そのまま部屋出よって思ったらいきなり魔法で拘束され、ベッドに転がされてシャツ破られて肩の辺り噛まれて、そのままアイツは一人勝手に満足したのか寝て俺は床に蹴り落されたな」
「……はぁ」
「まじあの時はこいつマジで無理って思ったものだ」
「…………何というか、思ったより混沌としてた」

 いくつか言いたい事はあったが、最終的にライナルトの話を聞いたジークの口から出たのはそんな言葉だった。
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