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10.その愛は有償で
しおりを挟むわたくしが他の方との婚約が決まりそうになったからという理由で、急に機嫌をとろうとなさってきたあなた・・・。
そのお考えが、わたくしには理解できないのです。
今更、そんなことをなさるなら、はじめから優しくしてくださったら良かったのに・・・。
あなたは素直に愛情を表現することが、ひどく恥ずかしかったのだと仰いました。
けれど、もしそれが正しいのだとすれば、そこにご自身が『一方的に愛を享受なさることに対する恥』についてのお考えは無かったのでしょうか?
わたくしはあなたへの愛情を表現することを、恥だと思たことはありません。
わたくしは常々思っているのです。
愛は無償ではないと。
こんなことを考えているなど、冷たい女だと思われるかもしれません。
けれども、やはり無形の愛情であっても、それを受け取り続けるには、何らかの対価が必要だとわたくしは思うのです。
それは同等の愛情であれば至上でしょう。
けれど、それがかなわないというのであれば、別のものでも間に合わせることは可能でしょう。
とにかく、どちらかが一方的に何かを負担するという関係は、長くは成り立たないのです。
一時は上手くいっていると思うかもしれませんが、必ずいつか破綻する時が来るのです。
あなたは、わたくしの気持ちが無くなってしまったと嘆くけれども、それは当然のことなのです。
あなたは一度たりとも、わたくしの差し上げた気持ちに相応しいだけの愛情も、それに代わる何かも、わたくしに与えてくださることはなかった。
ですから、何一つ気に病む必要はないのです。
ただ、自分のしたことが廻ってきただけではありませんか?
これはあなたの不運でも何でもないのです。
ご自分がなさったことに対しての、ごく当たり前の結果に過ぎないのですから・・・。
代金を支払わずに店の品物を何度も持ち出すような人は、たとえ裁かれなかったとしても、やがてその店に出入り禁止になるのと同じことです。
あなたのなさったことは、それと同等の事というだけなのですよ。
あたらしく婚約者に決まった方は、それはそれはわたくしを大切にしてくださいます。
いつでもきちんと、わたくしの気持ちに相応の対価を払ってくださる。
だから、わたくしも惜しみなく相手を愛することができる。
きっと、この方とは長く良い関係を続けていくことができるでしょう。
ただ、わたくしはひとつだけ心配があるのです。
何も自覚をなさっていないあなたの次の相手になってしまう女性のことが・・・。
どうか、あなたによって苦しむ女性は、わたくしで最後にしてほしいものです。
そうしなくては、可哀そうなあなたは、いつか独りぼっちになってしまうでしょうから・・・。
わたくしは冷たい女ですが、まだそれくらいの憐みの心は残っているのです。
それにしても、もういい加減、あなたについて書き綴るのも時間が勿体ないような気がしてまいりました。
もう終わったことですから、これ以上続けるのは止めにいたしましょう・・・。
fin.
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