農民の少年は混沌竜と契約しました

アルセクト

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第三章 農民が動かす物語

仕留めの儀

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 今から4年前の3月、少しだけ暖かくなってきた頃にそれは行われる。
 僕を含む同い年の5人は全員10歳となり、来年には11になる年に村の広場に集まる。
 その場の空気は従魔召喚の儀の時とは違い、とても重い。
 僕も含めた誰もがこれから行われる儀式を思い、緊張に体をすくませる。

 そんな中村長が舞台に上がり、儀式の開始を述べる。



「では、これより『仕留めの儀』を始める」



 その言葉に僕と同い年の皆と、更に仕留めの儀の為に居る大人も皆気を張り詰める。



 『仕留めの儀』とは、簡潔に言えば『生き物を殺す』事を目的とした儀式である。



 これから行う事は舞台の上に用意されているはずの、足の筋肉を切って動けなくしただけの弾丸兎の首筋にナイフを刺すことだ。

 勿論こんな事を行うのにはそれ相応の理由がある。

 まず第一に挙げられる理由としては『食への感謝を強める』と言うものだ。

 人は皆肉も野菜も両方摂らなければ生きていく事は出来ない。
 そしてその肉も野菜も、元は一つの命を持っていたものだ。
 植物である野菜は生きているという実感が薄く、調理しても『命をいただく』という実感が沸かないため命を貰っていることを意識出来ない。
 しかし、肉は草木から生えるのではなく動物から得るものである。
 その為肉は動物を殺して得るものであるため野菜と比べ、遥かに実感を得られるのだ。

 しかしこの理由はよく挙げられる物だけど、仕留めの儀を行う最たる理由ではない。

 第二の理由は『命を奪う経験を積む』と言うものだ。

 それは日照りや病気等で凶作になってしまった時、それも一つの村ではなく国のレベルで発生した場合、村全体で狩りを行う必要が出てくる。
 そうなった時に「殺すのは無理」と言って狩りに出れない人が多くてはどうしようも無くなってしまう。
 僕が生まれる前に発生した日照りで農作物の殆どが収穫出来なかった年があったらしく、その時は国の備蓄を全地域に配る事で何とか飢えはしなかったみたいだけど、やはりそれだけでは足りないので狩りはしたらしい。
 またこの村では無かったけどあまりに食料が無い時は、狼を狩ってその固くて食べられたものでは無い肉をひたすらに噛んで飢えを凌ぐ事もあると言う。

 この仕留めの儀は例え僕達が嫌だと泣き叫んでも、絶対に殺さずに舞台から降りる事は許されない。
 最悪、大人が子供の手にナイフを無理矢理握らせて、その手の上から強く握って首筋に突き立てる。
 その上で、その命への感謝を忘れないために殺した弾丸兎の肉をすぐに調理して、最悪吐いてしまっても構わないから一口は食べるのだ。



 そして、僕達は舞台へと上がる。

 舞台には僕達の人数と同じ5匹の弾丸兎が用意されていた。
 これは村人では生きたまま捕らえるのは難しいので、毎年冒険者に依頼を出している。
 その弾丸兎の足の根本の辺には赤い線が走っていて、肉が切られている事が一目でわかる。

「い、嫌、やりたくない……」
 無言で大人から手渡されたナイフを握ったミリアが涙目でそう訴える。
「お、俺はこれくらい、へ、へへ平気だぜ?」
 そんなミリアにコールが震え声で強がる。
 ブロウとソフィは無言のまま、手に持ったナイフを震わせる。

 皆、これから行う事の意味を理解してその場に立ちすくむしか出来なかった。



「ごめんね、ありがとう」
 グチュリ



 ……僕を除いて。

 手に持っていたナイフを弾丸兎の首に刺した瞬間、肉の切れる嫌な感覚が伝わってくる。
 自分の手で目の前の弾丸兎の命を奪った事がありありと伝わってきて、その事実への拒否感からか微かに吐き気がする。

「ほぅ、あのロイが一番とな?」
 その結果に、村長が呟く声が静かなこの場に響く。

「は、お、おいロイ?」
 それにブロウが驚きと心配が混ざった視線を向けてくる。
「俺がい1番にやるはずだったのに、なに先にややってんだよ……てかロイ、大丈夫なのか?」
 コールが強がりと共に僕の心配をしてくれる。
 ソフィとミリアは驚きと恐怖を顔に浮かべて見ていた。

 正直、僕もこんなにアッサリとやれるとは思わなかった。
 仕留めの儀の前に皆で話した時、この中で1番最後になるのは僕だろうと言って笑っていた。

 でも、僕はこの弾丸兎を見てこう思ったんだ。



「うん、大丈夫だよ。この子はもう長く生きられないから、ちゃんと殺してあげるのも一つの優しさかなって」



 そう、あの弾丸兎は足を切られてもう動けなくなっていた。
 例えこの後僕が仕留めずに野に還されたとしても、動けないのではすぐに死んでしまうだろう。
 だから足を切られて苦しんでいるこの弾丸兎の首にナイフを突き立てるのは一つの優しさなんだって思うと、不思議と殺すことへの恐怖心と忌避感が薄まったのだ。



「ふむ、そのような事があったのか」
「うん。それで、今でもなんであの時刺すことが優しさになるって思ったのかわからないんだ」
「そうであったか」
「あと、これがもしユンと出会う前だったら、もしかしたら助けなかったかもって思うんだ」
「ふむ……例えどうなっていたであろうと、今が良ければ良いのではないか?」
「そうだね」
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