農民の少年は混沌竜と契約しました

アルセクト

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第三章 農民が動かす物語

隠し事

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《コンside》

 ああ、やっと話す事が出来た。

 我がいかにしてロイの従魔となったのか黙っていたことが、これまでの永き生の中で最も辛く苦しいことであったと断言できる。
 無論我は神と同時期に生を受けた者として世界の成り立ちから神々の仕事や生活などといったことを知っており、こことは違う世界、イツキの住んでいたという日本のような所謂『異世界』の存在など話せぬことは数多い。
 だがそれらを話さぬことはなにも辛いことはなかった。
 それにロイの側に来てからも隠し事が増えていたりする。
 まずはソフィの気持ちがそうであるし、ユンを助ける際に影からこっそりとロイに力を貸していたとある存在に、ユンが王種の中でも極めて高い潜在能力を秘めている事などである。
 それらを隠していることは今も辛さを感じる事はなかった。



 だがロイの従魔になる為だけにズルをしていたことだけは、我の心の中で大きなわだかまりとなり、心が痛み続けていたのだ。



 我はロイの従魔になったことはとても幸せで、従魔になってからほんの半年足らずの時であったにも関わらず、ただ無為に過ごしていた億単位の年月よりも余程濃厚な時であったと感じていたのだ。

 だがそれも、ユンと出会って我の身勝手さを知るまでの話だ。

 我が幸せであった時は、本来ユンか他の従魔となった者が得られる時間であったはずなのだ。
 それを公正な場を通さずに横から掠め取った泥棒である我が甘受しておったことはあまりにも卑怯で、今となってみれば何故そのような事をしたのかと日々自らを問い詰める日々だ。

 だがそうした理由はわかっておるのだ、あの時の奴の言葉が影響しておると。



 それは今から五百と十数年程前の話。

「なぁ混沌竜、そんな真剣な顔なんかしてどうしたよ?」

 初めて我の元に来てから十数年後のこと、いつものように下手な鼻歌を歌いながら現れたセーゼントがこれまたいつものように旅の話をしていた時、不意に言葉を切ってそんなことを言ったのだ。
「……わかるのか?」
「うんや、顔はいつもとおんなじだけど雰囲気がこう、なんつーか真面目って感じ?」
 なぜわからぬのに真剣な顔等と言ったのかと聞きたかったが、いつもの事なので呑み込んで、我は次セーゼントが来た時に話そうと思っていた事を口にする。
「セーゼントよ、我はこの住処から滅多に離れる事なく永き時を生きておる。だがそのどの時よりも、お主の話を聞いている時が最も幸せだと感じておる」
「そりゃあ嬉しいな!いっつも一方的だから嫌われてるかもとも思ってたぜ」
「ならばもっと抑え……いや、それは今更と言うものか」
 セーゼントのマイペースさに流されそうになるが、ここはグッと抑え込む。

「だから、我はお主と共に旅をしたい。決してお主に迷惑はかけぬと誓う、どのような事であっても叶えてみせよう。だから、どうか我をセーゼントの従魔にしては貰えぬだろうか」
「うん、ダメ」

 それは我が言い終えると同時に聞こえた言葉である。
「な、何故だ?我が言うのもなんだが、我ほど強く、頼りになるものもそうはおらぬだろう?知恵だって様々な物を持ち合わせておる、決してお主の邪魔にーー」
「そういう問題じゃねぇんだよ」
 我はなぜ断られたのかわからず戸惑っておると、セーゼントは呆れたように両腕を左右に曲げ気味に伸ばし、手のひらを上に向けて首を左右に振る。
「確かに混沌竜と話すのは楽しいし、力も知恵もあることは知ってるから迷惑になるなんてこれっぽっちも思っていねぇよ」
「であれば」
「でもな、たった1つ忘れてることがある」



「それは俺には既にこのシェリーが居て、こいつ以外に従魔なんて要らねぇって事だ」



 それは、今の我にはどうしようもない事であった。
「こいつかわいいだろ?ゆっくりと撫でてやると目を細めて嬉しそうにするんだぜ?飛ぶ姿なんて白いお腹の毛と足の裏の肉球が見えて超可愛いんだ!」
 セーゼントはそう言って右手でガッツポーズを取る。
「俺はこいつと一緒に旅をするのが好きでな、まー混沌竜と旅すんのもいいとは思わんこともないがそうなるとシェリーに構う時間が減っちまうだろ?そうなったらシェリーに申し訳ねぇからな」
 そう言って笑うセーゼントに対して我はなんと言っていいかわからず黙り込むと、セーゼントはちょっとだけ考え込むように右手で顎を掻く。

「まーそんな訳で俺は契約しねぇけどさ、混沌竜なら俺なんかよりもっと良い奴と契約出来ると思うぜ?」

 セーゼントはそう言うと、考えながらだからか苦味の混ざったような笑みを浮かべた。



「そうだな、俺みたいな自己中的な奴じゃなくてさ、もっとこう人を思いやれるような優しい奴だけどそれでいて、誰とでも別け隔てなく接してお前も特別扱いしねぇ、そんな奴と出会ったら契約を持ちかけてみるといいさ」



「ま、そんなやつ居ると思えんけどな」
 そう言ってセーゼントは笑う。
「ふ、お主のように礼を欠いた者はそう居らぬだろうからな」
 我は契約を断られた事への意趣返しに皮肉を言うが、当の本人はそれを聞いてまた笑う。
「んじゃそんな礼を欠いた野郎に従魔契約を持ちかける野郎は相当の変わりもんだな」
「野郎とは失礼な、我に性別は無いのだぞ?」
「え、マジかよ!?」
「うむ、話した事なかったか?」
「聞いたことねぇよんな事」
「では今話したぞ?」



 そう言ってお互いに笑いあっていた中、我は考えていたのだ。
 従魔が決まる前ならば、きっと従魔になれたのであろうと。
 だから急いだのだ、ロイの従魔となれる機会はこれが最初で最後であるのだと思い込み。

 その結果が今なのだ。

 本来縁のない王都の中心にあるお城へ行き国王と会い、悪人に誘われた路地でイツキという日本からの転移者と出会い、揚げパン関連で様々な事が起き、我と揚げパンによりロイが父側の祖父に目を付けられ皆が傷付いた。

 これらは全て我が従魔となった事が原因で起きたこと。
 ロイの望む穏やかな農民生活とはあまりにもかけ離れた事態。
 これらは決して赦されて良いはずがないことだ。



 だから我は今、ロイに別れを持ちだしたのだ。
 これ以上迷惑をかけてしまう前に。


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