短編集「熱血!脱力?ジュニアハイ日記」

あおみなみ

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昼休みのアイマスク

キリの昼休み

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人との関わりが苦手で、昼休みはいつも教室を抜け出して昼寝をしているキリ
社交的なクラスの人気者だけども、そんなキリをつい目で追ってしまうカエデ

午後0時45分、屋上に出る手前の階段の踊り場で、2人は…。

他の小説サイトで「5月23日キスの日」をテーマに小説の自主企画があったので、
乗っからせていただいたものです。

***

 俺の学校は給食もなければ学食もないので、昼は弁当か購買のパンやおにぎりという生徒が多いが、俺は大体、学校に行く前に適当なパンをコンビニで買う。
 食うのが嫌いなわけでも、腹が減らないわけでもないけれど、昼飯に時間を使うのがもったいない。5分で焼きそばパンとあんパンを食って、あとは昼寝したいのだ。

 教室は騒がしいし、そもそも人と話をしたいとも思わないので、俺は大抵教室を出てパンを食い、あとは100均で買った黒いアイマスクをつけて、壁によりかかって腕を組む――というのがいつもの格好スタイルだ。

 場所は階段の踊り場、それも屋上に出る出口のそばと決まっている。
 漫画やアニメと違い、屋上の出入り口は鍵がかかったままで外には出られないので、ここには意外と人が寄り付かないし、教室からはそう遠くない。5分前の予鈴も本鈴もよく聞こえる。

 授業をサボって寝るんだったら、もっと人目に付かないところを探して横になるけど、別にサボりたいわけではないので、そういうふうにしている。
 壁によりかかって寝るのも、寝心地が悪い方が熟睡せずに済むからだ。これで心おきなく仮眠うつらうつらできる。

 すとん、と眠りポケットに入ってしまう寸前に、絶妙なタイミングで予鈴が鳴ったりするのが最高だ。午後の授業をかなりすっきりした頭で受けられる。

◇◇◇

 ところで、この方法を思いついたのは2年に進級してすぐだったので、もう1カ月くらいになるかな。
 気温がまあまあ上がってきたタイミングだったからいいけど、冬とかはどうしよう。毛布でも持ち込むか(なんてな…)などと考える今日のこの頃。

 短時間の仮眠だって、リアルなようなあり得ないようなが結構脳内に浮かび、映画を見たみたいなお得な気持ちになることもよくある。


◇◇◇

 5月下旬のある日、いつものスタイルで寝ていると、きゅっきゅっという音が近づいてきた――気がした。
 頭が睡眠モードに入りかけているので、正しい判断はできないが、誰か近づいてきたの…か…?

 などと考えているうちに、ふわっとフルーツのような花のようないい香りがして、かすかな熱とやわらかい何かが、俺の唇にそっと触れた。

 え?え?え?おい、ちょっ…!

 驚いてアイマスクを取るより先に、「きゅっきゅっ」の持ち主(多分)は、今度ははっきりとした足音を立てて行っていまった。

 「きゅっきゅ」は、上履きのゴム底とリノリュームの床がこすれる音。
 だから、同じような上履きを履いている「生徒の誰か」がしたのだろう。

 いやでも、いたずらでするか? その、ちゅ…チューとか。

 いい香りがして、柔らかかったから、女子だと思う。思いたい。
 さすがに男子ヤローとチューするのはハードルが高い。芸人とかじゃないんだから。

 それもできれば、同じクラスのカエデ子がいいな。
 あいつは俺と違って陽キャで人気者だけど、ほかの連中と違って普通に話しかけてくるし、それでいて厚かましくも口うるさくもないし、何よりめちゃくちゃかわいい。

(いや、素直になろう。断然カエデいい)

 初めてのチューだし、それくらい夢見てもいいよな。

◇◇◇

 ところで、正常性バイアスって言葉、聞いたことある?
 あれって何か非常事態があったとき、パニクり過ぎて、「こんなのふつう」って思い込もうとしているコトだって解釈なんだけど、合ってるかな。

 多分俺、アレに邪魔されておかしくなっていた。

 相手がカエデだろうが誰だろうが、寝込み襲われてチューされたことには違いないのに、なんか普通のこととして流しちゃった…ってことに気づいたのは、家に帰って風呂に入ったときだった。
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