4 / 78
夢見るマリーゴールド
カフェ「アカネ」
しおりを挟む
学校から駅に向かう途中の道で、小さなカフェを見つけた。
小ぢんまりとして感じのいい外観で、几帳面そうな手書き文字の「スタッフ募集」の張り紙があった。
いっそ授業以外の時間はバイトに精を出すのも悪くない。
時間帯も、うまく調整すれば入れそう――と思って足元を見たら、お店の前のプランターにマリーゴールドが咲いていた。
園芸好きのおばあちゃんが、「この花は虫よけになるんだよ。かわいくって役に立って、すごいね」って教えてくれたことを思い出した。
ピンクのベゴニアとの寄せ植えで、とてもかわいらしい。
こんな話をしても、高校時代の彼なら右から左に流していたろうし、別れたばかりの彼は「ふうん。園芸好きの男か」ってところかな。
◇◇◇
店の前のブラックボードを書き直すために出てきた男性が、「ひょっとして面接の人?」と声をかけてきた。
背が高くて30歳くらい?で、モスグリーンのエプロンをしている。
クールな雰囲気の切れ長の目で端正な顔立ち、さっぱりとした切りっぱなしの髪。全体的に細長い。
ちょっとすてきだけど、ひょっとして冷たい人なのでは…という印象なのに、目が離せなくなった。
「え?あの…」
「あ、違った?ごめんなさいね。約束の時間から30分も経ってるんだけど」
面接ということは、アルバイトのかな。
「あのっ、まだバイトの方決まっていないんですか?」
「え?ああ――そうね。今日の人がいい感じだったらと思っていたけど、連絡も来なくてドタキャンぽいしなあ…」
「私、面接していただけませんか?」
「え?」
「履歴書とかはないんですけど、そこの北城大学の学生で、カフェの経験はあります」
私はそのとき、どんな顔をしていたのか、さすがに自分では分からない。
でも少なくとも、「ふざけて言っているわけではありませんよ」を顔全体で表現していた自信はある。
男性(店長)は少し驚いた顔をした後、表情を和らげてこう言ってくれた。
「そう?じゃ、ちょっとお話ししようか」
◇◇◇
男性経験は今まで2人。
でも、今まで自分から人を好きになったことはありません。
あなたに一目ぼれしました――なんて言ったら、即「帰れ!」かな。
バイトの面接だと割とあることだけれど、志望動機などは特に聞かれなかった。
まずは「どれくらいの時間入れるか」とという確認とか、「時給はこのくらいだから、たくさん稼ぎたいなら向かないかも」的な内情説明。多分、何よりも質問に答える態度を見ているのだと思う。
「君はとても感じがいいと思うけど、若い子にはちょっと退屈な仕事かもしれないな」
「あの――お花がきれいだったので」
「花?」
「プランターのマリーゴールドとか」
のっぽ店長はそれを聞いて、控え目に笑って言った。
「君、なんだか面白いね。うちの店に向いているかも」
私はその翌々日からそのカフェ「アカネ」で働くことになった。
名前の由来はコーヒーノキがアカネ科だからだそうだ。
私が少し興味を示したのに気をよくして(だと思う)、コーヒーについての蘊蓄を語り始めた。
素直に面白いと思って、ちょっとずつ質問をしながら聞いていたら、中年女性の2人組のお客さんが入ってきた。
時計を見ると、店長と私はどうやら40分くらい話していたみたいだ。
「ああ、何だか時間取っちゃってごめんね」
「いえ、あの、では履歴書は明後日にでも…」
「ああ、急がなくていいよ。でも、よろしくね」
小ぢんまりとして感じのいい外観で、几帳面そうな手書き文字の「スタッフ募集」の張り紙があった。
いっそ授業以外の時間はバイトに精を出すのも悪くない。
時間帯も、うまく調整すれば入れそう――と思って足元を見たら、お店の前のプランターにマリーゴールドが咲いていた。
園芸好きのおばあちゃんが、「この花は虫よけになるんだよ。かわいくって役に立って、すごいね」って教えてくれたことを思い出した。
ピンクのベゴニアとの寄せ植えで、とてもかわいらしい。
こんな話をしても、高校時代の彼なら右から左に流していたろうし、別れたばかりの彼は「ふうん。園芸好きの男か」ってところかな。
◇◇◇
店の前のブラックボードを書き直すために出てきた男性が、「ひょっとして面接の人?」と声をかけてきた。
背が高くて30歳くらい?で、モスグリーンのエプロンをしている。
クールな雰囲気の切れ長の目で端正な顔立ち、さっぱりとした切りっぱなしの髪。全体的に細長い。
ちょっとすてきだけど、ひょっとして冷たい人なのでは…という印象なのに、目が離せなくなった。
「え?あの…」
「あ、違った?ごめんなさいね。約束の時間から30分も経ってるんだけど」
面接ということは、アルバイトのかな。
「あのっ、まだバイトの方決まっていないんですか?」
「え?ああ――そうね。今日の人がいい感じだったらと思っていたけど、連絡も来なくてドタキャンぽいしなあ…」
「私、面接していただけませんか?」
「え?」
「履歴書とかはないんですけど、そこの北城大学の学生で、カフェの経験はあります」
私はそのとき、どんな顔をしていたのか、さすがに自分では分からない。
でも少なくとも、「ふざけて言っているわけではありませんよ」を顔全体で表現していた自信はある。
男性(店長)は少し驚いた顔をした後、表情を和らげてこう言ってくれた。
「そう?じゃ、ちょっとお話ししようか」
◇◇◇
男性経験は今まで2人。
でも、今まで自分から人を好きになったことはありません。
あなたに一目ぼれしました――なんて言ったら、即「帰れ!」かな。
バイトの面接だと割とあることだけれど、志望動機などは特に聞かれなかった。
まずは「どれくらいの時間入れるか」とという確認とか、「時給はこのくらいだから、たくさん稼ぎたいなら向かないかも」的な内情説明。多分、何よりも質問に答える態度を見ているのだと思う。
「君はとても感じがいいと思うけど、若い子にはちょっと退屈な仕事かもしれないな」
「あの――お花がきれいだったので」
「花?」
「プランターのマリーゴールドとか」
のっぽ店長はそれを聞いて、控え目に笑って言った。
「君、なんだか面白いね。うちの店に向いているかも」
私はその翌々日からそのカフェ「アカネ」で働くことになった。
名前の由来はコーヒーノキがアカネ科だからだそうだ。
私が少し興味を示したのに気をよくして(だと思う)、コーヒーについての蘊蓄を語り始めた。
素直に面白いと思って、ちょっとずつ質問をしながら聞いていたら、中年女性の2人組のお客さんが入ってきた。
時計を見ると、店長と私はどうやら40分くらい話していたみたいだ。
「ああ、何だか時間取っちゃってごめんね」
「いえ、あの、では履歴書は明後日にでも…」
「ああ、急がなくていいよ。でも、よろしくね」
1
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
課長と私のほのぼの婚
藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。
舘林陽一35歳。
仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。
ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。
※他サイトにも投稿。
※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる