短編集『サイテー彼氏』

じまんのボロネーズソース

プロローグ

「ねえ、私のどこが好き？」

小顔でぱっちりお目々、やや巨乳。だけど性格は割とドライ。
そんなミソノにとっての理想の彼氏とは。

＊＊＊

　昔読んだ本――結構オジサンのエッセイだったと思う――で、こんなことが書いてあった。好きな女の子の落とし方、みたいな章。
　私もたまたまうちにあった本を読んだだけなんで、詳細は覚えていないし、確かめるつもりもない。

「目がぱっちりしているとか髪がきれいとか、誰が見ても分かるような美点を褒めるのは、褒め方としては二流です。ちょっと上を向いた鼻、太り気味の体型など、本人が劣等感コンプレックスを抱いていそうなところを積極的に褒めよう。」

　この人の本は（内容は薄っぺらだけど）多くの読者がいて、その発言はよく話題になる。
　だから、読者がこれを真に受けて、大好きな女の子にやらかしたりしていないといいなと、ただそれだけが気がかりだ。

　小学校時代、「豚鼻」なんてあだ名がついて悲しかったとか、現在進行形でダイエットに苦しんでいるとか、そんな子が、それが君の個性だの、ぽっちゃりがかわいいからやせる必要ないだの言われて、うれしいって素直に思えるかな。

　あと、ありのままの自分を見てほしい、好きになってほしいって言う人もいるけど、私にはあの感覚が分かんない。
　多少無理して取り繕う必要があったとしても、「見てほしい自分」っていうのがあるんじゃないのかな。
　だから彼氏と会うときは、体のケアして、メイクして、おしゃれな洋服を着るし、ズボラなところとかイジワルなところも隠して、本音もなかなか言わないじゃん。

　現在20歳の私、ミソノは、若さ以外にも、みんなにうらやましがられる要素をいっぱい持っていて、その自覚もある。
　小顔、ぱっちりお目々、質のいいストレートの髪、やや巨乳（トップ88アンダー70Dカップ）。
　芸能人のレベルには及ばないだろうけど、大抵のコミュニティーで「かわいい子といえば」で名前が挙がる程度だと思う。要するに男にモテる。

　でも彼氏はいない。
　つくろうと思えばつくれるけど、まあいろいろ様子見中。

　中途半端な彼氏に束縛されるより、いろんな人にちやほやされたり、うわさされたりする方が絶対気持ちいいでしょ。
　誰もが欲しがるような高スペックイケメン君が声をかけてきたら、ま、応えてやらないでもないけどね。