短編集『サイテー彼氏』

あおみなみ

文字の大きさ
27 / 78
アネモネ TRICOLOR+「三者三様 それぞれ身勝手」

赤――男「君を愛す」

しおりを挟む


「ねえ、覚えてる?私のこと」

 正直なところ、多分あまり目立たなかった彼女のことは、よく覚えていない。
 ただ、出先で偶然会って、「私、中3のとき同じクラスだった…」と言ってきたその女性を、はっきり言えばまあまあタイプだと思ったので、話をすり合わせながら、何とか当時の顔と名前を思い出した。
 当時のというのは、どうやら結婚して今は姓が変わったようだから。

「せっかくだから、お茶でもどう?」ということになり、人妻相手にお茶くらい飲んだところで罰せられはしないだろうと、軽い気持ちで付き合うことにした。

◇◇◇

 ああ…そういえば、セーラー襟の後ろから白いスカーフがほとんど見えていなかったのって、この子じゃなかったかな。
 女性はほかの男が気づかないようなことに気づく男に弱いものだ。これは使えるかも。

「もちろん覚えているよ」と、スカーフの話や、ニキビの話を例に挙げてみた。

 ニキビが出ると分かっていても、お菓子を我慢できないのが女子中学生ってもんだから、彼女だって例外ではないだろう。

 具体的に言われた方が信憑性が増すというものだ。

 彼女の「そう。何だか恥ずかしいな…」という表情は、大人の妖艶さの中にいじらしい幼さがあって、ちょっとイケナイ気持ちになった。
 人妻とベッドを共にするのも、なかなか刺激的だ。

◇◇◇

 彼女はダンナに不満たらたら。
 まあ、ちょっと誘ったらすぐ乗ってくる時点で、「夫婦仲は円満です」と言われても、全く説得力ないけどね。

 詳しくは言わないが、「自分をちっとも見てくれない」のが不満だと言うから、浮氣でもしているのかな?
 寝てみて分かったけれど、こんな魅力的な奥様を放っておくなんてね。

◇◇◇

 セックスだけじゃない。会話もずいぶんお粗末そうだ。
 だから、彼女がかつて言ったことを万一覚えていなくても、「ああ、そういえば言ってたね」とか言うと、少し晴れやかな顔になる。
 逆に世間のダンナって、このくらいのことすらしていないのか?
 結婚する気なんてさらさらないけど、夫婦円満って意外とちょろいんじゃないの、なんて思ってしまう。

 だから調子に乗って言っちゃったんだ、「俺なら…」とか「本気にしてよ」とかさ。

 そしてベッドを3度、4度と共にすれば、「好きだ、愛してる」くらいのことは簡単に言う。
 どうせ彼女は、そのうち俺との関係に飽きて、目が覚めて、不満だらけのダンナのところに戻るだろう。
 それまで夢を見てもらって、自分もまあまあいい思いができるなら悪くない。

◇◇◇

 このところ例の人妻ちゃんから連絡がない。
「ダンナに不満たらたら期」を過ぎたのかな。結構なことだ。

 そんなことを考えつつ、誰か部屋に呼ぼうかなどと考えていたら、

「ねえ、あなたの家って〇〇駅のそばって言ってたよね?迎えにきてくれない?」

 と人妻ちゃんから電話が来たんだが――え?このタイミングでいったい何の用だよ…
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

処理中です...