短編集『サイテー彼氏』

あおみなみ

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アネモネ TRICOLOR+「三者三様 それぞれ身勝手」

白――妻「真実」「期待」

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「ねえ、覚えてる?私と初めて会ったときのこと」

「もちろんだよ。君はセーラー襟の後ろから、布が出ない巻き方をしていたよね?おでこににきびができて、みんなにからかわれて、『もうチョコ食べない!』って言ってたのもかわいかった」

「…そう。何だか恥ずかしいな」

◇◇◇

 なーんて、残念でした。
 多分、スカーフの件はあずみちゃんと間違えてるのね。
 確かにヘアスタイルとか背格好とか似ていたから、当時間違えられることは多かったかな。

 ニキビとチョコはわかんない。
 中学生の女の子なら、誰でも言いそうなセリフ。
 ただし残念ながら、私はニキビで悩んだことはないの。
 それだけが取り柄だったし。

「うれしい。みんなが憧れていたあなたが、
 私を覚えていてくれたなんて」

「クラスいちかわいかった君を忘れるわけないよ」

 本当に調子いいね。
 さわやか過ぎる笑顔もあのときのまま。
 今は、その白い歯と、重要でない点は端折って考えられる「能力」で、仕事えいぎょうもばりばりこなしこなしているんだよね。

◇◇◇

 気づけば私はホテルの一室で、彼の腕の中にいた。

「ダンナとうまくいってなくて」
「だろうね」
「前はあんな人じゃなかったのに」
「僕なら君に悲しい顔はさせないのに」
「今からでもあなたと一緒に生きていきたい」
「いいよ、いつでもおいで」

「本気にするよ?」
「本気にしてよ」

◇◇◇

 夫は同じテンポで歩ける人だと思って結婚した。
 今まで私に合わせてくれているだけだったと分かったのは、結婚した後だった。

 サーフィン、山歩き、自転車、アウトドアに多趣味で、私が誘う美術館や映画なんて、本当は退屈だったんだね。

 劇場で私の肩にもたれて眠って、
「ごめん、昨日までの疲れが出ちゃったみたい」
 美術館や博物館で、私を置いて自分のペースでさっさと歩いて、
「ああ、何だかじっとしていられなくて」

 そのどちらも、何だか誇らしげに言っているのはなぜ?

 ごめんなさい。
 今の私には、美術館の同じ絵の前で立ち止まって見入ってくれる人が必要みたい。
 それがたとえポーズでも構わない。

 きっとあなたのことだから、「不満があれば、言ってくれればいいのに」って言うよね。

 確かに言えばしばらくの間は少しだけマシになるけど、すぐ戻っちゃうの。
 洗濯ものの出し方、部屋の電気スイッチのオンオフ、アクセサリーはあまり好きじゃないってこと、口癖、全部そうだった。

 もう、いろいろ疲れちゃった。

 さようなら。
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