29 / 78
いつものカフェオレ
見えてるものを見落として
しおりを挟む
ちゃんと見ていたつもりでも、見落としていることがあったのかも
大好きだった恋人に、突然別れを告げられた高校生の「私」は…
本作中の彼氏は恋愛のたたみ方が雑過ぎるというか、多分「私」が友人たちに顛末を話したら、「最低男」のレッテルを貼られるたぐいであろうと思い、この短編集に入れました。
***
2日前、星が見えなかったから曇り、20時ちょっと過ぎ、自宅すぐ近くの公園。
高校生の女の子が呼び出されて家を出ようとして、親から言われる言葉が「早く帰ってきなさいよ」程度で済むギリギリの線だ。
「ちょっと渡したいものがあるって言われて…友達に…」
歯切れ悪く言いながら出た。
カレとのおつき合いを家族に隠しているわけではないけれど、何か照れくさくて。
そのくせお気に入りのパフュームをシュッと吹いたりして(お風呂入る前だし)。
◇◇◇
その公園(っていうか、小さい緑地帯)は私の部屋の窓からも見えるから、彼が既に5分前には来ていたことを私は知っていた。
正確に言うと、あかりで照らされたベンチに腰掛ける人影が見えた、だけど。
彼は私が近づいていくと、ぱっと立ち上がり、ぐっと体を90度に折り曲げた。
「ごめん、別れよう。君より好きなコができたんだ」
それだけ言うと、私と目も合わさずに走って立ち去った。
パーカーのフードをかぶって、頭のあたりが寝袋に入っている人みたいに埋まって見えた。
下はジーンズたったかスウェットだったか覚えていないけど、そんな姿で走っていると、ロードワーク中のボクサーみたいだろうな。
私はあまりにも唐突な出来事が受け入れられず、どうでもいいことを考えて、しばらくベンチに腰掛けていたけれど、多分5分(体感1時間)くらいしてから立ち上がって、「ただいま」も言わずに家に入り、自分の部屋に戻ってから泣いた。
翌日は「頭痛と吐き気」を理由に学校を休んだ。
◇◇◇
翌々日は登校したけれど、別クラスにいるカレ改め元カレは、廊下で会っても私に声すらかけなかった。
ちょっとちょっと、挨拶は基本じゃないの?駄目だよ、「好きな人」に幻滅されるよ?
そんな私の考えてることなんて想像もしていないだろうけど、余計なお世話とばかりに、同じクラスの女子A(顔は知ってるけど名前の記憶が不完全)を、学校内で堂々と羽交い絞めにして、「ちょっとー、びっくりするじゃーん」「ゴメン☆」って調子でじゃれ合っていた。
つき合って半年の間、私にあんなふうに絡んできたことはなかったなあ。
◇◇◇
その夜は10時頃、お風呂に入って自分で髪を切った。
別に元カレへの当てこすりとか、失恋の儀式とか、そんなつもりはなくて、単なる衝動だった。
見られたもんじゃない仕上がりだろうから、すぐ美容院行かなきゃな。
思い切ったから、セミロングからショートボブぐらいの長さになった。20センチくらいイッちゃったかな?
長い部分だけまとめて、細かい毛はシャワーで流した。
まあ、そのために全裸でお風呂で切ったんだけど。
家族はもう寝ているか、リビングでテレビを見ているかだから、私のこの悲惨なショートボブを見るのは明朝だろう。
明朝、か。
そもそも今夜、眠れるかなあ。
◇◇◇
彼の率直で単純なところが好きだった。
言葉の裏を読まなくていいから、「好き」って言われれば信じられた。
その分それなりに傷つきもしたけれど、そんなことさえ大事な思い出になっちゃった。
ベッドに横たわってみるけど、やっぱり眠れない。
スマホでゲームとかしていると、知らずに寝落ちしてることが多いのに、今夜は駄目っぽい。
そんなふうにして、午前2時まで過ごした。
といっても「フミキリに大げさな荷物しょっていって」会う約束をしている相手もいないので、思いつきでコンビニに行った。
お気に入りのカフェオレが飲みたくなったのだ。
私は今、普通の精神状態じゃないので、こんな時間にコンビニに行って、それが家族にバレても、意味不明の笑顔を浮かべて小言を聞き流せるだろう。
◇◇◇
「袋はお使いですか?」
「そのままでいいです…」
120円払って、おつりもらって店を出た。
そしてその場でストローを挿して、少しずつ飲み始めた。
こんなに気分が落ちているときでも、やっぱりおいしいなあ。
吸い上げるとじじゅっと音がするようになった頃、家に着いたので、台所のごみ箱にパッケージを捨てようとして初めて気づいた。
「王月乳業 むちゃうまカフェオレ “カフェインレス”タイプ」
いつものノーマルタイプを手に取ったつもりなのに、カフェインレスの方を間違って買っちゃったようだ。
味は特に変わらなかった気がする。
手に取るとき間違えたのは、パッケージが似ているからか、(寝てなくて?)判断力が鈍っていたからか――両方かな。
眠れない夜にカフェインレスなんか買っちゃって。しかもあんまり意味がない感じ。
何だか少し可笑しくなって、ひとりで声を立てて笑った。
再びベッドに横になったら、今さら眠気が来た。
【『いつものカフェオレ』 了】
あとがきもどうぞ
大好きだった恋人に、突然別れを告げられた高校生の「私」は…
本作中の彼氏は恋愛のたたみ方が雑過ぎるというか、多分「私」が友人たちに顛末を話したら、「最低男」のレッテルを貼られるたぐいであろうと思い、この短編集に入れました。
***
2日前、星が見えなかったから曇り、20時ちょっと過ぎ、自宅すぐ近くの公園。
高校生の女の子が呼び出されて家を出ようとして、親から言われる言葉が「早く帰ってきなさいよ」程度で済むギリギリの線だ。
「ちょっと渡したいものがあるって言われて…友達に…」
歯切れ悪く言いながら出た。
カレとのおつき合いを家族に隠しているわけではないけれど、何か照れくさくて。
そのくせお気に入りのパフュームをシュッと吹いたりして(お風呂入る前だし)。
◇◇◇
その公園(っていうか、小さい緑地帯)は私の部屋の窓からも見えるから、彼が既に5分前には来ていたことを私は知っていた。
正確に言うと、あかりで照らされたベンチに腰掛ける人影が見えた、だけど。
彼は私が近づいていくと、ぱっと立ち上がり、ぐっと体を90度に折り曲げた。
「ごめん、別れよう。君より好きなコができたんだ」
それだけ言うと、私と目も合わさずに走って立ち去った。
パーカーのフードをかぶって、頭のあたりが寝袋に入っている人みたいに埋まって見えた。
下はジーンズたったかスウェットだったか覚えていないけど、そんな姿で走っていると、ロードワーク中のボクサーみたいだろうな。
私はあまりにも唐突な出来事が受け入れられず、どうでもいいことを考えて、しばらくベンチに腰掛けていたけれど、多分5分(体感1時間)くらいしてから立ち上がって、「ただいま」も言わずに家に入り、自分の部屋に戻ってから泣いた。
翌日は「頭痛と吐き気」を理由に学校を休んだ。
◇◇◇
翌々日は登校したけれど、別クラスにいるカレ改め元カレは、廊下で会っても私に声すらかけなかった。
ちょっとちょっと、挨拶は基本じゃないの?駄目だよ、「好きな人」に幻滅されるよ?
そんな私の考えてることなんて想像もしていないだろうけど、余計なお世話とばかりに、同じクラスの女子A(顔は知ってるけど名前の記憶が不完全)を、学校内で堂々と羽交い絞めにして、「ちょっとー、びっくりするじゃーん」「ゴメン☆」って調子でじゃれ合っていた。
つき合って半年の間、私にあんなふうに絡んできたことはなかったなあ。
◇◇◇
その夜は10時頃、お風呂に入って自分で髪を切った。
別に元カレへの当てこすりとか、失恋の儀式とか、そんなつもりはなくて、単なる衝動だった。
見られたもんじゃない仕上がりだろうから、すぐ美容院行かなきゃな。
思い切ったから、セミロングからショートボブぐらいの長さになった。20センチくらいイッちゃったかな?
長い部分だけまとめて、細かい毛はシャワーで流した。
まあ、そのために全裸でお風呂で切ったんだけど。
家族はもう寝ているか、リビングでテレビを見ているかだから、私のこの悲惨なショートボブを見るのは明朝だろう。
明朝、か。
そもそも今夜、眠れるかなあ。
◇◇◇
彼の率直で単純なところが好きだった。
言葉の裏を読まなくていいから、「好き」って言われれば信じられた。
その分それなりに傷つきもしたけれど、そんなことさえ大事な思い出になっちゃった。
ベッドに横たわってみるけど、やっぱり眠れない。
スマホでゲームとかしていると、知らずに寝落ちしてることが多いのに、今夜は駄目っぽい。
そんなふうにして、午前2時まで過ごした。
といっても「フミキリに大げさな荷物しょっていって」会う約束をしている相手もいないので、思いつきでコンビニに行った。
お気に入りのカフェオレが飲みたくなったのだ。
私は今、普通の精神状態じゃないので、こんな時間にコンビニに行って、それが家族にバレても、意味不明の笑顔を浮かべて小言を聞き流せるだろう。
◇◇◇
「袋はお使いですか?」
「そのままでいいです…」
120円払って、おつりもらって店を出た。
そしてその場でストローを挿して、少しずつ飲み始めた。
こんなに気分が落ちているときでも、やっぱりおいしいなあ。
吸い上げるとじじゅっと音がするようになった頃、家に着いたので、台所のごみ箱にパッケージを捨てようとして初めて気づいた。
「王月乳業 むちゃうまカフェオレ “カフェインレス”タイプ」
いつものノーマルタイプを手に取ったつもりなのに、カフェインレスの方を間違って買っちゃったようだ。
味は特に変わらなかった気がする。
手に取るとき間違えたのは、パッケージが似ているからか、(寝てなくて?)判断力が鈍っていたからか――両方かな。
眠れない夜にカフェインレスなんか買っちゃって。しかもあんまり意味がない感じ。
何だか少し可笑しくなって、ひとりで声を立てて笑った。
再びベッドに横になったら、今さら眠気が来た。
【『いつものカフェオレ』 了】
あとがきもどうぞ
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
課長と私のほのぼの婚
藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。
舘林陽一35歳。
仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。
ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。
※他サイトにも投稿。
※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる