短編集『サイテー彼氏』

あおみなみ

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彼女はギンモクセイ

金と銀

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華やかで強気な「ナツコ」、おっとりおだやかな「ミズキ」、そして、2人の美少女をキンモクセイとギンモクセイのようだと思って傍観している“私”こと「チアキ」の物語です。

***

 小学校の隣に公民館があって、秋になると、建物前の植え込みに白い可憐な花が咲いていた。

 近くまで行ってよく見ると、色こそ違うけれど「あの花」に形が似ているし、何だかとてもいい香りがする。
 花に詳しいおじいちゃんに聞いてみたら、「ギンモクセイだと思うよ」って教えてくれて、ちょうど秋の町内文化祭で私のお習字が貼り出されていたので一緒に見にいって、確かめてもらったら、「やっぱりそうだ」とお墨付きをもらった。

「ギンモクセイってあるんだ。キンモクセイなら知ってたけど」
 私は家から歩いて5分の銀行の近くにある、まあるく刈り込まれた木を思い出しながら言った。
「そうだねえ。キンモクセイは町内に1本あると、
 かなり広く香りが分かるからなあ。色も派手だし」

 キンモクセイの咲く季節――秋は台風も結構来るから、その影響で雨や風が強くなったりすると、せっかく咲いた花が、下に全部落ちちゃったりすることもある。
 いつだったか父が「こういうチーズおろしただけのパスタ、食ってみたかったんだよ」と言って、デパ地下でオレンジ色の固いチーズとチーズおろしを買ってきたことがあったんだけど、母は「こんなのどうせ、すぐ飽きるくせにねえ」って文句を言いながら、ごりごりおろしていた。
 あのときの、おろしがねから降ってきたチーズみたいな色をしているので、何だか見ているとお腹が空く。「ミモレット」って袋に書いてあった。

 そんなふうに、キンモクセイって何かと存在感があると思う。
 花のにおいって青臭いよねってひとまとめにするような人でも、キンモクセイの香りだけは知っていたりするしね。

 私は「まち全体がトイレみたいなにおいになる」って言ったら、ナツコちゃんに「バカじゃないの?そういう言い方はダメだよ!」って怒られた。
 ナツコちゃんは美人で気が強くて、自分が気に入らないことを言った人に当たりが強いから、時々ちょっと怖かった。
 私が多分、「やっちまった」みたいな顔していたのを見かねたのか、ナツコちゃんとなかよしのミズキちゃんは、「うちのはラベンダーだよ。トイレのにおい、いろいろあって面白いよね」って笑ってくれた。

+++

 ミズキちゃんも、ナツコちゃんと同じくらいかわいい――と私は思うんだけど、性格がナツコちゃんより控え目なせいか、あんまりそういうふうに言われない気がする。
 ナツコちゃんちはお金持ちなので、『プチフール』(女の子向けの雑誌)とかに載っているような最新流行の洋服を着て学校に来ることもあったけど、ミズキちゃんはいつもシンプルなシャツとズボンとかで、雑誌の洋服を「こういうの似合いそう」って指さしても、「恥ずかしいよ。きっとナッちゃんみたいに似合わないもん」ってうつむいちゃう。
 でも、私はミズキちゃんのそんな顔や態度が大好きだった。

 ギンモクセイという花を知ってから、私はナツコちゃんがキンモクセイ、ミズキちゃんはギンモクセイみたいだなって思った。
 形が似ているし、どちらも香りもいいけれど、華やかと控え目で、個性が正反対なのが面白い。
 私は内心、ギンモクセイの方がかわいくてすてきだなと思っていた。
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