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【後日談】何を見ても何かを思い出す
レイとの子供時代
しおりを挟むご飯の後、日高君が行きたいと言ったのは、おもちゃ売り場だった。
ゲームソフトでも見るのかなと思ったら、小さな女の子が好きそうな着せ替え人形や、「森の赤い屋根のおうち」的なものがあるコーナーに行って、「まつりも小さい頃、こういうので遊んでたの?」と尋ねた。
「あ、うん。『シルバニアンかぞく』とか好きだった」
「凝ってるよなあ。こういうの、ちょっと欲しくなる」
日高君は自分自身が男の子だし、お兄さんしかいない。
それに小さい頃はほとんど女の子と遊ばなかったから、女の子のおもちゃにはなじみがなかったらしい。
愛らしいリスの赤ちゃんの人形とか、キッチングッズみたいな小物を手に取って見詰めながらそう言った。
私は、「大人の人でもコレクターは多いんじゃないかな。遠藤さんちの張り出し窓…」と言いかけてやめた。
遠藤さんというのは、うちの近所の50代ぐらいの二人暮らしのご夫婦で、通りから見える張り出し窓のところに月替わり(周期は正確に分からない)くらいで、シルバニアンかぞくとか、ミカちゃん人形とか、フィギュアとかを、家や小物と一緒にディスプレイしていて、面白がって写真を撮っていく人もいる。ちょっとした町内の名物なのだ。
「ああ。ひょっとしてまつりんちに行く途中の、あの緑と白の家か?」
「そうそう、そのおうち」
「あれ、結構楽しみなんだよ」
「全部お子さんが小さい頃のおもちゃらしいよ」
「なるほど」
言いかけてやめたのは、「レイのことを思い出していた」からだ。
◇◇◇
お姉ちゃんの小学校入学と同時期に今の家に来て、私は3歳のときからあそこに住んでいる。
近所のおうちに挨拶に回ったとき、「3軒隣」という微妙な距離感ではあったけれど、ちょうどレイのお母さんが、自治会のブロック当番だったので、顔を出すように会長さんに勧められたんだった。
レイのお母さんはすごく若くてきれいで、お母さんというよりお姉さんという感じだった。
「うちの上の子も今度小学校なんですよ。それに男の子だけど、お嬢ちゃんくらいの子もいますよ。仲よくしてやってくださいね」
とかなんとか美人さんににっこり笑いかけられて、幼心に緊張した。
こんな細かいセリフをちゃんと覚えていられるほど賢い子ではなかったので、ママから聞いた話でつくられた記憶も多いけど、レイのお母さんが笑いかけてくれたことはよく覚えている。
そこに「ママー、これ見たい」って言いながら、手にDVDのソフトを持ってやってきたのがレイだった。
レイが私の方をちらっと見て、「だあれ?」とお母さんに聞いたので、「何てお名前なの?」と改めて尋ねられた。
「まつり…」って答えたけど、舌足らずだったから、「まちゅり」になっていたかもしれない。
おませだったレイは、「僕はさいきれい。ねえ、一緒にこれ見ようよ」って、私に近付いてきて手を取った。
私のママは恐縮し、レイのお母さんは「あらあら」って感じだったけれど、結局私はそのままリビングに手を引っ張っていかれ、「海の生き物ずかん」みたいなDVDを見ながら一緒におやつを食べて、レイとレイのお母さんに家まで送ってもらった。
「明日また遊ぼうよ」って言われて、この子といると楽しいと思えたから、私は「うん!」と元気よく答えた。
実はこの当時、私はレイを女の子だと思っていたんだ。
何しろかわいい顔をしていたし、ヘアスタイルは私と同じようなおかっぱだったし、うちに来ると、「シルバニアンかぞく」みたいなおもちゃも嫌がらないで――むしろノリノリで遊んでいたから。
翌年、幼稚園に入園するとき、レイがズボンを履いていたから「あれ?」ってなったんだった。
ずっと「僕」って言ってたけど、そういう女の子もいるだろうし、レイのお母さんが「私ぐらいの男の子」って言ったのも、目の前の美少女とイコールでつなげなかったんだと思う。ぼんやりした子だったから。
遠藤さんちのディスプレイは、お子さんたちが家を出てから始まったはずだから、私たちが小学校の中学年ぐらいの頃だと思う。
その頃私はレイとあまり遊んだり話したりしなくなっていたけれど、レイが遠藤さんちの張り出し窓をじーっと見ているのを見かけたことがある。「レイ」って声をかけたら走って逃げちゃったんだけど、レイの目線の先には、「バーベキューをするシルバニアンかぞく(ハイイロウサギの一家)」がいた。
私たちが住んでいる地方には、「芋煮会」という習慣があって、秋になるとスーパーでは薪が売られたり、大鍋を貸し出したりして、ある意味バーベキューよりおなじみのイベントだ。
だから、中学生になって何となくまた口を利くようになってから、「シルバニアンかぞく 河川敷の芋煮会」とか出ないかな?なんて話をして笑ったことがあった。
◇◇◇
そんな感じで、小さい頃の記憶はほぼレイとセットだから、日高君に「こういうので遊んだ?」とか、「これお前好きそう」なんて振られると、うっかり「レイが…」という思い出話をしそうになって、思ったように話が弾まない。
「…なんか、聞いちゃいけないことに触れちゃってる?俺」
「そんなことないよ。ごめんね、何だかぼうっとしちゃってて」
「ひょっとして、疲れてんのか?」
「じゃないけど…」
「あのさ、あっちで座って話そうや」
日高君はそう言って、通路の真ん中に点在している休憩用の木製長椅子のうちの一つを指さした。
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