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ピザ以外のデリバリー、何年頼んでいないだろう
しおりを挟む芦原すなおさんの小説『山桃寺まえみち』は、病気のおばあさんが経営していた居酒屋を、孫の大学生ミラが引き継いで切り盛りするというお話です。
今手元にないので細部は間違っているかもしれませんが、たしかこのお店、昼は純喫茶的な構えで、客の1人がコーヒーを注文しつつ、「あと、出前頼める?」と言うシーンがあったと思うのです。
近所の店にカツ丼だったかラーメンだったかを注文して、ミラちゃんのお店まで運んでもらい、客は自席でそれを食べながら、コーヒーも飲んじゃうのでした。
私は自分ではこういう経験がないし、実際に頼んでいる人も見たことがないのですが、こういう文化というか習慣があったらしいことは、恐らくこの小説を読む前から知っていた――ような記憶があります。
というのも、このシーンに何らの違和感も覚えなかったし、ミラちゃん(93年初出の本で大学生なので、自分より少し年下程度)も「はい、どうぞ」程度に受け入れていたからです。
もしもこの感覚のままスターバックスなどに入り、飲み物の注文の後に「あと、カツ丼取れる?」などと付け加えたら、スタッフさんは「Pardon?」状態でしょうが、「はい。お品書きごらんになります?」とか言いつつ、他店のメニューを差し出してくる――なんて風景を想像して、少し笑ってしまいます。というか、そんなスタバなら(面白がって)足しげく通ってしまいそう。
◇◇◇
あるライターさんの「自分の娘は町の食堂の出前みたいな概念が理解できないらしい」という趣旨のツイートを見かけました。
出前館やUber Eatsの普及などで、「外食を家で食べる」選択の幅はむしろ昔より広い昨今ですが、その一方で、「ごく限られたエリアで、お店のスタッフが(サービス料なしで)運んできてくれる」というのが理解できないと言います。
我が実家でも、ちょっとしたお祝い事のときにお寿司を持ってきてもらったり、ラーメン屋さんに「ギョウザとタンメンと焼きそばと…」といろいろと注目したら、「ばらばらはお断り」だと電話口でぴしゃっと言われ、「じゃ、ラーメン(しょうゆ)四つで」と不本意ながら変更したり、届いたラーメンの輪ゴムラップを取るとき、「熱いのがはねませんように」と細心の注意を払ったり――といった程度の思い出はあります。
私はいわゆる大都会に住んだ経験がありません。東京でも23区内とはいえ住宅地でした。
かといって、地方でもある程度は便利な場所ばかりで、いわゆる「ど田舎」の経験もありません。
つまりデリバリーでいえば、ある程度サービス対象になるところばかりということです。
一方、私の旦那は高校を卒業して家を出るまで、飲食店はおろか隣の家までも1キロ以上離れているような環境だったので、「近所の食堂に出前を頼む」という発想がなかったそうで、輪ゴムラップを外した経験もありませんでした。
そんな2人が80年代末、ちょうど日本での宅配ピザサービスが都市部でようやっと始まった頃につき合い初め、同棲を始めたのはとある地方都市の郊外。ピザデビューはさらにその後。正式に結婚して郷里に戻り、アパート暮らしを始めた1992年のことでした。
今現在住んでいるところよりも飲食店も多い地区だったので、探せば出前対応しているところもあったのでしょうが、「麺類はお店で食べたい」「寿司は回っているやつでいい」となると、わざわざ持ってきてもらう意義を感じたのは、焼きたて熱々ピザ以外になかったのです。
こんな感覚のまま30年引っ張ってしまったので、Uber EatsもWoltも無縁の生活を送っています。
それでもまだこういうサービスは今後利用する可能性もあるのですが、「喫茶店でカツ丼」は多分、メニューにカツ丼がある喫茶店でも探さなきゃ経験できないのでしょう。
やってみたかったなあ、ブレンドすすりながらスポーツ紙広げて、「ネエちゃん、カツ…いや、今日は金ねえから玉子丼にすっか」などと言ってみるおじさんプレイ。
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