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第1章 ゆうゆうじてき部
おさななじみ
しおりを挟むゆうゆうじてき部
F県片山市立第九中学校に存在するなぞの部活名。
詳細については、以下の本文参照のこと。
***
レイは小さいころ、私のママが作るホットケーキが大好きだった。
お店で売っている粉を使っているだけだよって笑ったけど、マーガリンの塩味と、安物のケーキシロップの甘味が気に入っていたらしい。
レイのお父さんは開業のお医者さんで、大きくて素敵なおうちに住んでいて、お母さんも美人でオシャレで、遊びにいくと出してくれる手作りのお菓子も高級品の味がしたけど、「お母さんの作るのは、オレにはちょっと違うんだ」と言っていた。
そういえば、幼稚園の頃は「ボク」って言っていたはずだけど、小学校に入ってからは「オレ」と言うようになっていた。
変化はそれだけじゃなかった。
2年生の終わりくらいまでは、よくうちやレイのお家で一緒に遊んだけど、3年生くらいになると、だんだん男の子同士、女の子同士の付き合いが増え、5年生からはレイが塾に通うようになって、ほとんど遊ばなくなってしまった。
そのせいかレイは桃花学園を受験するというウワサも立った。
桃花はこの地区では唯一の私立の六年制一貫校で、卒業生は大体、地元の医大か、都会の有名大学に行く。
つまり中学校が別々になったら、もうレイとは接点はないんだろうなと残念に思っていた。
しかし、彼は結局受験すらせず、私と同じ片山市立第九中学校(通称「九中」)に入学した。
後で聞いたら、「勉強はちゃんとするし、必要なら塾にも通い続けるから、みんなと一緒の公立に行きたい」とお母さんを説得したらしい。
といっても、多分高校は公立の最難関校に行くだろうから、そこでお別れだろう。それでも3年は同じ学校に通えるのはうれしい。
◇◇◇
「レイってやっぱりお父さんみたいにお医者さんになるの?」
と聞いたら、
「今のところはあんまり考えていないなあ」
とだけ言ったから、なる気が全くないわけでもなさそうだ。
レイはもともと頭がいい上に、大変な努力家なので、きっとなりたいと思ったら大抵のものになれるだろう。
中学校入学のときに既に174センチあり、顔立ちも美しい斉木怜というこの男子は、同学年はもちろん上級生の女子の注目も集めた。
うちの中学校にはざっくり言って4つの小学校から生徒が集まっているんだけど、私はもともとレイと家が近所で仲がよく、一緒に登校したりしていたので、他校から来た子にはすごくうらやましがられたり、「ブスが調子乗んじゃねえよ」とすれ違いざまに言われたりした。
こんな少女漫画みたいな(“負”の部分だけど)経験を自分がするとは想像もしなかったけれど、口ばかりで、ひどいいじめを受けたわけでもない。気にしなければ気にならないレベルだった。
――それでもやっぱり人並みに傷つきはするんだけどね。
少なくとも、特別かわいいわけでもないのは自分が一番知っているし。
◇◇◇
九中にも、「新入生は必ず何らかの部活に入ること」というありがちな規則があった。
例えばいったん入部して1日で辞めて、あとは帰宅部を決め込むこともできたけれど、実際一度入った部活を辞めるのは意外とハードルが高い。
ただ、運動があまり得意でない身としては、「運動部」ではなく「部活」という幅を取った言い方は助かった。
私は合唱部に入部した。
小学校でも特設部に入ってコンクールに出たりしていたし、部活にも小学校時代の先輩が何人かいる。
毎日の発声練習を兼ねた母音唱法(作曲者の名前をとって「コンコーネ」と呼んでいた)のほかに、腹筋やサーキットトレーニング、学校の外周を走るなんていうのも活動の一部としてあったけど、ガチ運動部と比べたら全然きつくない。仲のいい部員もできて、最初のうちは楽しかった。
南原優香という子と特に仲良くなった。
背が高くてボブスタイルの髪で、眼鏡をかけていて、ちょっと大人っぽい雰囲気だけど、なかなかのオタクで冗談も大好きという子だ。
「私合唱やってますって言うと、みんな「アルトでしょ?」って言うんだよね。そんなにアルトっぽい顔してるかな?――あ、声のせいか」と、大真面目に低い声で言う。
字に書き起こしても、口に出されてもわかりづらいが、彼女なりのノリツッコミだったらしい。
私は何だかツボに入ってしまい、声に出して笑ったら、彼女にとても気に入られてしまったようだ。
優香はレイには及ばないものの成績優秀だった。桃花に行く気はなかったの?と聞いたら、「うちにはそんなお金ないもん」ってけろっと返された。
そうか…。うちは決して富裕層ではないけれど、「近所の斉木さんち」目線で物を言っちゃいがちになっていたのかもしれない。ちょっと反省。
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