初恋ガチ勢

あおみなみ

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第20章 好きってそういうことじゃないですか?【メグと大輔】

海岸で説教

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 日本茶のセットは350円で、檜さんんが俺の分も払った。
 
 多分だが、檜さんはいつもはもっと長く店に居つくのではないだろうか。
 会計の際、「ひょっとして、今日は待ち合わせだったの?」「まあ――そんなところです。また後でゆっくりお邪魔します」などと会話をしていた。
 
 「一見客のくせに」とみみっちい文句を言われてムカついたので、350円でも恩に着られたらたまらない。
 俺は店を出てから硬貨を4枚、檜さんに渡したが、「今回は俺に付き合ってもらうんだから、おごらせてくれ」と言って受け取らなかった。

 付き合ってもらう――とは、どういう意味だ?と思いつつ、俺は檜さんに続いた。
 俺より10センチ近く身長が高く、細いのに何となく広く、越え難さを感じる背中。
 俺が普段行動をともにしている羽鳥はもっと長身なのに、これほどの威圧感はない。

 そんなふうに感じるのは、強豪校のナンバー3で、恐ろしく頭の切れる男だという評判を嫌というほど聞いているからか。
 それとも、「俺のメグ」の母親と、まるで対等な関係であるかのように会話をしているのを見たせいか…?

◇◇◇

 しかし妙なことになった。
 サーファーが来るポイントでもないし、この時間なら人はあまりいないと言われたが、何でライバル校の上級生、それも今までろくに口を利いたこともない人と2人で海岸を散歩しなければならないんだ。

 天気はよく、風も穏やかで、波音が耳にここちよい。
 これで隣にいるのが(もちろん、もっと近い距離で)メグだったら言うことはないのだが。

「さっきの店長さん、どう思った?」

 そんな問いかけをしながら、檜さんが何となく俺に歩幅を合わせている気がした。
 くそっ、身長差はあるが、そこまで脚の長さは――まあ、言わないでおこう。

「どうって――きれいな人ですね。感じがいいし、声もきれいだし」
「だよな、やっぱりそう思うよな」
「…いったい何が言いたいんですか?」
「俺はあの人に惚れている。片思いももう今年で3年目だが、いずれは付き合いたい」

「はあ?だってあの人、だいぶ年上じゃないですか?子供がいるなら、結婚だって…」
「ご主人は若い頃に亡くされたらしい」
「ああ…」

 ということは、メグには父親がいないのか。
 不用意に家族の話題を振らなくてよかった。

「つまり、俺にとって芽久美ちゃんは娘も同然なんだ」

 何かまた危ないことを言い出したぞ。

「まあ俺には姉がいるから、娘に男が接近してきたとき、父親がどんな態度をとるのかも目の当たりにしている」
「…で?」
「お前は芽久美ちゃんのことが好きなんだろう?」
「はい」

 率直に聞かれたら、率直に答えるまでだ。

「どんなところが好きだ?」
「律儀で礼儀正しくて、だけど危なっかしくて放っておけない。人の話を真剣に聞く表情がいいし、恥ずかしそうにするところもかわいい。うまく言えないけど、俺の周りにいる女子とは全然違うんです」
「まあ、そんな感じだよな」
「でも、あそこまでかわいくなかったら、興味も持たなかったと思います」
「正直なやつだな」

 俺は何となく会話の主導権を取られているのが面白くなくて、こう問い返した。

「檜さんだって、あの店長がただのおばさんだったら興味持ちましたか?」
「初めて会ったときは20代半ばぐらいだと思っていた。きれいですてきな人だと思って惹かれた。中身はだんだん好きになっていった」
「好きってそういうことじゃないですか?さっきから一体何が言いたいんですか?」

 檜さんはそこで足を止め、一呼吸置いてから話し始めた。

「そうか。それを聞いたら放置できないな。一応言っておこう」
「何をですか?
「『芽久美ちゃんのことはあきらめろ。手を出すな』とな」
「…なんで檜さんにそんな指図されなきゃいけないんですか?」
「俺は彼女のカレシの相談に乗っているんだ。彼は陸上部で少し伸び悩んでいる。そのことで上級生にあてこすりを言われたことがもとで、芽久美ちゃんとはぎくしゃくしているようだ」
「(とんだどヘタレじゃないか…)」

 何となく、あまり挑発的なことを言わない方がいい気がして、とりあえず心の中にとどめておいた、のだが。

「お前は「とんだどヘタレじゃないか」と思ったかもしれないが…」

 頭が切れる、勘がよい。それは確かにプレイにも表れているけれど。
 本当にこの人のこういうところは気持ち悪い。妖怪サトリじゃあるまいし。

「一方で彼は、芽久美ちゃんの存在があるから部活を頑張れるとも言っている。彼女もそれを理解してくれたそうだ」
「はあ…」
「そういう状況を知っていながら、お前の接近を見過ごすことはできないんだ」
「ふうん…」

◇◇◇

 これは――やり方さえ間違えなければ、俺に有利に運ぶかもしれない。
 檜さんが、何の権利があると勘違いしてこんな分別くさいことを言うのか知らないが、全て無視してやろう。

 まずはメグに、ちゃんと俺の思いを伝えなければならない。

「檜さん、ご忠告ありがとうございます。おかげで腹が決まりましたよ」
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