いつかは さようなら~よかれと思うことをしてくれなくていい。嫌なことをしないで。

あおみなみ

文字の大きさ
63 / 101
第21章 再び…

密会

しおりを挟む

 この間、千奈美とここを貸してもらったときとは状況が違う。
 家からそう遠くない場所、男性のひとり暮らしの部屋に勝手に入る。
 何となく、宗太と会っていたときのことを思い出す。

 といっても、小さなケーキ屋さんの裏手の、よほどの事情通でなければ、そこにアパートがあることすら分からない場所でもあるし、人目につきにくい。
 第一「彼」自身が、どこの誰だか分からない女とよろしくやっている真っ最中だろう。それにひきかえ私は神谷君と話すだけなのだから――と、べったりと言い訳を張りつけ、彼の部屋に勝手に上がらせてもらった。

◇◇◇

 この間は「適度な生活感があるがすっきりした部屋」程度の印象だったが、今回はぐるりと見渡した後、書棚の本に目が行った。
 私はあまりミステリーは読まないが、彼は有名なミステリーのレーベルの文庫本をたくさん持っているようだ。それとビジネス書が数冊に、漫画も少しだけある。
 実は神谷君のことをそんなによく知っているわけでもないのに、何だか「らしいなあ」と思ってしまうラインナップだ。

 少し背の高い本が入れられるスペースに、A4サイズで厚さ1センチあるかないかの本があった。写真集とか、ピアノの楽譜集みたいな質感の本。
 背表紙には、市内にある単位制高校の名前があった。どうやらいわゆる「卒業アルバム」というものらしい。そういう学校でもアルバムを作るというのは意外だった。
 興味が湧いて開いたら、そのタイミングで神谷君がドアを開けて入ってきたので、反射的に本棚に戻してしまった。

「お待たせ。店の方は何とからなりそうだから、サボらせてもらったよ」
「いいの?」
「いつも真面目にやってるし、ここのところ休暇も取ってなかったから」
「そうなんだ…」

◇◇◇

「実はこの間の話…ちょっと聞こえちゃってね…」
「だよね」
「あの――天野さんは相原って先輩と結婚したんだね?」
「――うん」
 幸助、という名前から、千奈美と「彼」、そして私との相関関係も想像してしまったようだ。やっぱり彼は勘がいい。

「オレ、財布盗ったって疑いかけられるちょっと前に、あの先輩と廊下ですれ違うとき、気になることを言われたんだ」
「気になること?」
は頭が悪いから、個人教授も骨が折れるだろう?」って」
「ああ…」

 いかにも「彼」が言いそうなことだ。
「あのときは正直、オレに話しかけてきたのかどうかも分からない状況だったから、「え?」と思っているうちに相原さんは離れていったんだけど、妙にひっかかる言い方だったから」
「話したいことって――そのこと?」
「それだけではないんだけど、まあそうかな」

 どうしようか迷ったけれど、私は財布盗難の真相について自分が思うところを正直に言った。
 もうKamiyaにケーキを食べにくることもできなくなるだろうが、それは自分が蒔いた種だ――あんな男と付き合っていたのが悪い。ましてや今は、その男の妻ときた。どの面下げて店に来られるか。

「多分そういうことだろうね。正直言うと、あのとき天野さんの顔をチラ見したのも、それがあったからというのは否定できない」
「…」
「でも、誤解しないで?オレあのときの天野さんの顔を見て、この子は何も知らないって確信したんだ。第一、相原さんがオレをハメたって証拠は何もないでしょ?」
 自分をハメたかもしれない先輩に「さん」付け。
 私はやっぱりもうこの人と関わってはいけないと思った。

「ごめんなさい。どうわびても足りないくらいのことをしてしまったかもしれないけれど、ごめんなさい」
「だから君が悪いわけじゃ…」
「あの…全然償いにはならないんだけど、もうお店にはお邪魔しません」
 そう言って私は立ち去ろうとしたが、神谷君に左手首をつかまれた。

「それは困る!せめてお店にお金落としてくれないと!」
「え…?」
「それに、君の顔が見られなくなる方が、オレにしてみたらペナルティーだし」
「そんな…」
「ずっと君のことが好きだったし、再会できてうれしかった。こんなときに言うべき言葉じゃないのは分かってるけど」

 この先どうなるか、簡単に想像できる。
 この期に及んで「私たち、友達でしょ?」なんてきれいごとは言いたくない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...