友達も一人がいない、ぼっちでも最強になれます！ 多分

第7話 ぼっちでも援軍に向かいます

　リリアさん、彼女はこのギルド協会で一際目立つ人物だ。名前を聞いたとき、その明るい笑顔と陽気な雰囲気が、僕にとってはちょっとした驚きだった。リリアさんは年上らしく、僕は自然と彼女を「さん」付けで呼ぶことにした。

　依頼の話をする前に、リリアさんは「かんぱーい！」と声を高らかに上げた。彼女の手には酒の入ったグラスが、僕の手にはジュースがある。僕たちはお互いのグラスを軽く合わせた。リリアさんの酒臭さが僕の鼻をくすぐるが、その場の雰囲気に引き込まれて、それも気にならなくなった。

「それで、依頼の内容は何ですか？」

　僕は少し緊張しながら尋ねた。リリアさんは酒を一口飲み干すと、にっこりと微笑んで僕に向かって詳細を語り始めた。彼女の言葉は明るく、しかし何か重要な意味を含んでいるように感じられた。彼女の話に耳を傾けながら、僕は自分がこれから何に挑むのかをじっくりと考えた。

　リリアさんが僕に伝えた依頼内容に、僕はただただ驚くばかりだった。「援軍」だって。僕が？援軍？

「え？　本当に？　僕に援軍の任務が……？」

　半信半疑でリリアさんに確認を求める。この異世界での経験もまだ浅い僕に、こんな重要な役割が果たせるのかと、不安がよぎる。

　リリアさんは、僕の心配そうな表情を見て、心強い笑顔で応じる。

「あー大丈夫、大丈夫！　楽勝楽勝だから！」

　彼女の言葉は自信に満ち溢れていて、まるで何も問題ないかのようだ。

「でも、僕はまだ新米で……」

　僕は自分の不安を口にする。しかしリリアさんはさらに励ますように言う。

「新米だからこそ新しい視点があるわ。大丈夫、あなたならできる」


　リリアさんから受け取った援軍のリストを見て、僕は思わず息をのんだ。そこにはクラスメイトの名前が複数並んでいて、その中には七海さんの名前もあった。彼女たちが今、危機的な状況にあるのかと思うと、心がざわつく。

　リリアさんは続ける。

「依頼によるとね、本来はそれほど難しいものじゃなかったんだけど、急に現れた魔物によって状況が変わっちゃったみたい。みんな、かなり苦戦しているらしいわ」

　リリアさんの口調は相変わらず楽観的だけど、僕の中では不安が渦巻いている。

　七海さんや他のクラスメイトたちが無事でいてくれることを願う。でも、同時に自分の立場に悲しみと焦りがこみ上げる。なぜ僕はこの重要な情報を最初に知らなかったのだろう？誰からも気づかれず、誘われもしなかった。こんなにもクラスの中で存在感がないなんて、本当に情けない。

「……でも、僕が行くしかないんだ。」

　僕は自分に言い聞かせた。このチャンスは、僕にとってクラスメイトたちとの距離を縮める機会にもなる。もし彼らを助けることができたら、僕の存在を少しでも認識してもらえるかもしれない。それに、何よりも今は彼らの安全が最優先だ。


　その時、僕はふと我に返った。

「いやいや！　何をかっこつけているんだ、僕は！　」

　心の中でつぶやく。僕はコミュ障で、クラスでは友達も一人もいない。助けに行っても、「でしゃばるな、陰キャ」と思われるんじゃないかという恐れが頭をよぎる。

　しかも七海さんのグループは、クラスの中でもカースト上位にいるような人たちばかり。僕があそこに顔を出したら、余計に浮いてしまうかもしれない。考えただけで心が痛む。

　そんな僕の内心の葛藤に気づいたのか、リリアさんが言う。

「また妄想に入ってるね、あははは！」

　彼女の声は相変わらず明るい。

「大丈夫よ。確かにみんな苦戦はしてるけど、死んでる人はいないから。それに今回は人手不足なの。君の実力、私が見込んでるんだから」


　リリアさんからの意外な告白に、僕は驚きと同時に少し心が軽くなる。

「エルと親友……？」

　そんなことを全く知らなかった。そして、エルが僕の実力を認めてくれていたなんて、正直驚きだった。

「君の実力はね、最近来た新人の中で一番だって。エルがそこまで褒めるのは珍しいからね！」

　リリアさんの言葉には力があった。僕は内心、エルに感謝の気持ちでいっぱいだった。

　しかし、リリアさんの言葉はまだ続いていた。

「まぁ、少し気持ち悪くて独り言が多くて他人と関われないのが致命的だけどね」

　それを聞いて、僕は思わず「それだめじゃん……」と心の中でつぶやいた。僕の最大の弱点を、彼女はあっさりと指摘してしまった。

　それでもリリアさんは、僕を励ますように言った。

「大丈夫、大丈夫！　それも君の個性だし、それを変えようとする必要はないわ。君の強みに集中すればいいのよ」


　場所は火山だった。その名は「マグマクレスト」と呼ばれ、溶岩が流れる危険な地形で知られている。その暑さは通常の山とは比べものにならないほどで、まるで炎の中を歩いているような感覚だ。

　リリアさんが指摘した魔物は、「ラヴァゴーレム」という名で呼ばれている。その姿はまさにゴーレムのようで、溶岩をまとった岩石の体を持ち、その動きは重厚かつ強力なものであることが予想される。

「マグマクレスト……そこは火山で、溶岩が流れる危険な場所なんですね。そして、ラヴァゴーレム……溶岩をまとった魔物か。これは、かなりの挑戦になりそうだ」

　僕は心の中でつぶやく。

　この任務は単なる挑戦を超えて、僕にとっては大きな試練になることが明らかだ。しかし、リリアさんの話によると、七海さんを含むクラスメイトたちがすでにこの火山で苦戦しているという。これはただの個人的な挑戦ではなく、仲間を救うための任務でもある。


　リリアさんの楽観的な言葉に、僕は内心で疑念を抱く。確かに、死にはしないと言われるけれど、それでも心配の気持ちは消えない。この火山、マグマクレストはただの火山ではなく、溶岩が流れる危険な場所。僕は慎重にならざるを得ない。

「大丈夫、大丈夫。死にはしないから！」

　リリアさんは何度もそう繰り返すが、僕の心の不安は簡単には払拭されない。でも、僕はここで一カ月以上を過ごし、この世界のことをかなり理解できるようになっていた。スキルの影響もあり、得た知識は他の誰にも負けないと思う。これが、今回の任務での大きなアドバンテージになるはずだ。

　クラスメイトたちとの交流が一切ないのは、確かに悲しいことだ。

「だぁぁぁぁぁ……」

　僕は心の中で嘆く。しかし、それは今は置いておくとして、七海さんは見た限りでは非常に実力がありそうだった。他のクラスメイトもそれなりの実力があると感じる。それなのに、なぜ彼らは苦戦しているのか？

「どうしてだろう……？」

　僕は思う。きっと、何か予期せぬ事態が起こっているのだろう。それが何であれ、僕は今、彼らを助けるために行動を起こさなければならない。