最弱引き出しの逆襲 ― クラス転移したのはいいけど裏切られたけど実は最強だった件

第9話「ロストアイル」

　約2日間の航海を経て、ついに俺はロストアイルに到着した。目の前に広がるのは、本当に小さな国だった。島を一周するのにそれほど時間はかからないだろうと思いながら、俺は新しい地への興奮を隠せなかった。

「これが異界の街か……」

　俺は船から降り立ちながらつぶやいた。
　同時に、クラスメイトたちに対する警戒心も心の隅にくすぶっていた。もし彼らがここにいたら、どんな対面になるのだろう。そんなことを考えると、少し不安になった。

　この世界に来てからすでに3ヶ月が経っていた。あの時、裏切ったクラスメイトたちは、一体何をしているのだろう？生きているのか、それとも…そんな思いが頭をよぎる。

　ロストアイルの港は活気に満ちていた。
　色々な人々が行き交い、市場では様々な商品が売られていた。しかし、俺は人ごみの中で常に周囲を警戒していた。裏切られた経験が、俺を用心深くさせていた。

「ここで新しい仲間を見つける……」

　心の中でつぶやきながら、俺はゆっくりと市場を歩き始めた。テオドールの言葉を思い出しながら、新しい出会いへの期待と、過去の裏切りによる不安が交錯した。

「まずは情報を集めよう」

　決心し、俺は市場の人々と話を始めた。彼らは親切で、この島のことや近隣の国の情報を教えてくれた。人々との会話は、徐々に俺の心を和らげていった。

　夕暮れ時、俺は海を見ながらひとり思いを馳せた。

「ここからが、本当の旅だ」

　過去の傷を乗り越え、新たな自分を見つけるため、俺はロストアイルでの一歩を踏み出した。これからの旅が、どんなものになるのか、未知への期待と不安が心を満たしていた。

　ロストアイルの港を歩きながら、俺はこの島の特色に気づき始めた。魚が豊富で、ほとんどの品物がそれに関連している。船も多く、漁業が発展していることが一目で分かった。島の人々は水系の能力を持つ者が多いようで、テオドールが言っていた通り、生まれ育った環境によって、生まれ持った能力は変化するらしい。

「さて、俺はこの小さな街で仲間を見つけたい……」

　心の中でつぶやきながら、俺は市場や港を歩き回った。男女は問わないが、心の隅では「こういう場合って、可愛い女の子がいいよな」と思ってしまう。でも、そんな都合よくいくわけがない。

　そんな風に考えていると、ふと目の前にあることに気づいた。「ん？」と声を上げると、小さな茶屋の前で、一人の少女が客引きをしていた。彼女は明るい笑顔で人々を迎え入れている。

　俺は少し立ち止まり、彼女を観察した。彼女は見た目も可愛らしく、活発そうな雰囲気があった。なんとなく、彼女に話しかけてみたいという気持ちが湧いてきた。

「あの、こんにちは……この茶屋、おすすめですか？」

　俺は少し緊張しながら彼女に声をかけた。

　彼女は笑顔で応えた。

「はい、とっても美味しいですよ！　ぜひ、入ってみてくださいね」

　彼女の返答に、俺は少し安堵した。新しい出会い、これが俺の旅の新たな一歩になるかもしれない。心の中で、テオドールの言葉を思い出しながら、俺はその茶屋に入ることに決めた。この小さな出会いが、どんな意味を持つのかはまだ分からないが、俺の心は新しい可能性に向けて開かれていた。

　彼女は「ミナ」と名乗った。明るく活発な彼女は、髪につけたカラフルなリボンが特徴的な女の子で、茶屋の看板娘らしい。佳奈を思い出させるような可愛らしさに、俺は少し心が動いた。

　俺は彼女のおすすめを頼んだが、その瞬間、重大なことに気づいた。

「あ！お金がない……」

　心の中で叫んだ。
　この世界に来てから、経済システムについて何も考えていなかった。

　しかし、もう遅かった。お茶と美味しそうなスイーツが目の前に運ばれてきた。甘い香りが漂い、久しぶりの甘いものに、俺はつい「とりあえず食べよう」と思ってしまった。

　スイーツを一口食べると、甘さが広がり、心がほっこりとした。しかし、食べながらも頭の中は「どうしよう……」という思いでいっぱいだった。引き出しから変化した物で物々交換ができればと考えたが、それもなんだか違う気がした。

「ミナさん、実はお金を……」

　俺は恥ずかしそうに彼女に言いかけた。その時、彼女はニコッと笑う。

「大丈夫ですよ。ここでは物々交換も普通に行われています！　何か交換できるものがあれば、それで結構です」

　俺は少し安堵し、引き出しから出した宝石のように変化した石を見せた。ミナの目がキラリと輝いた。

「これで大丈夫ですね！　というかこれやばくないすか？」

　俺はホッと胸を撫で下ろし、ミナと少し会話を楽しんだ。彼女の明るさが、俺の心を癒やしてくれた。ロストアイルでのこの小さな出会いが、新しい旅の始まりになるとは、まだ知る由もなかった。

　というか物々交換なんて出来たんだ……。