捨てられたので、私はもうあなたたちに用はありません

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司祭の訪問

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再生院の庭に、冬の風が吹き抜けた。
木々の葉はほとんど落ち、枝の先に残る白い光だけが揺れている。

セレスティアは、子どもたちの授業を終えた後、
廊下を歩いていた。
その先に、見慣れた姿が立っている。

黒衣の老司祭。
白髪を隠しもせず、疲れ切った顔に皺を刻んでいた。

彼女の足が止まる。
「……あなた。」

司祭は、深く頭を下げた。
「クロフォード殿。
 いえ……“光の母”と呼ぶべきでしょうか。」

「その呼び方はやめてください。」
セレスティアの声は、静かでありながら冷たい響きを持っていた。

司祭はゆっくりと顔を上げた。
「あなたが、沈黙の病を起こしているのでは――
 そう言う者たちが増えています。」

「ええ、聞いています。」

「私も……夢で見たのです。」
「夢を?」
「はい。あなたが微笑んでおられた。
 それは優しく、そして……恐ろしい笑みでした。」

セレスティアは黙って司祭を見つめた。
その沈黙に耐えられず、司祭は震える声で続けた。

「私があなたを断罪した日のことを覚えていますか?
 “沈黙は罪だ”と。
 ……あの時、私は間違っていた。」

セレスティアの表情にわずかな陰が差す。
「あなたは間違っていません。
 ただ、“沈黙”を恐れていたのです。」

司祭は唇を噛んだ。
「もし、この現象が神の御業ではないとしたら……
 あなたは、いったい何者なのですか?」

セレスティアは答えない。
代わりに、机の上に置かれた聖書を手に取り、
そっと開いた。

そこに記された言葉を、指先でなぞる。

“神は光を造り、闇に名を与えた。”

彼女は静かに言った。
「神は、光だけを造ったわけではありません。
 闇にも意味を与えたのです。
 人はそれを“裁き”と呼ぶけれど――
 本当は、“気づき”なの。」

司祭の目が揺れる。
「……では、この沈黙の病も“気づき”だと?」

セレスティアはゆっくりと本を閉じた。
「言葉を軽くした者が、声を失う。
 それは神の怒りではなく、“自分自身の反響”です。
 人は、真実を恐れるときに沈黙する。
 ――私は、その鏡でしかない。」

司祭は一歩下がった。
その目には、恐怖と敬意が入り混じっていた。

「あなたは……神を越えた。」

セレスティアはわずかに笑った。
「越えてなどいません。
 ただ、神が沈黙したから、私が代わりに微笑むだけ。」

風が窓を鳴らし、白い光が彼女の頬を照らす。
その微笑みは、限りなく穏やかで――
けれど、限りなく冷たい。

司祭の膝が震えた。
「あなたは……何を望むのですか?」

セレスティアは目を伏せたまま、囁く。

「――沈黙が、終わらないこと。」

その瞬間、外の鐘が鳴り響いた。
だが、不思議なことに――音が届かない。
まるで、この部屋だけが世界から切り離されたように。

司祭は立ち尽くし、
祈りの言葉を口にしようとした。
だが、声が出なかった。

セレスティアはゆっくりと近づき、彼の肩に手を置いた。
「あなたは、もう赦されているわ。」

その言葉に、司祭の頬を涙が伝う。
それでも声は出なかった。

セレスティアはそっと微笑む。
「赦しとは、沈黙を受け入れること。
 そして、恐れずに生きること。」

その夜。
司祭は教会に戻り、蝋燭を灯した。
震える手で祈りを捧げようとするが、
やはり声は出なかった。

代わりに、彼は震える指で紙に書いた。

『沈黙の女神は、赦しではなく――裁きそのもの。』

書き終えると、彼は筆を落とし、膝をついた。
その瞳には涙が光り、
微かに、微笑みが浮かんでいた。

まるで、女神と同じ微笑みを。
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