異世界に飛ばされたおっさんは何処へ行く?

シ・ガレット

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12巻

12-3

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「実は、プロック様とエンガードご夫妻が、取り急ぎ相談したい事があるそうです」

 プロックは、タクマの商会の相談役を務めている人物である。一方、バート・エンガードとリアス・エンガードの夫妻は元商人で、今は学校など、タクマの仕事を手伝ってくれていた。
 プロック達が三人揃ってやって来た、それも直接会って話したいという事は、込み入った相談なのだろう。タクマはそう考えつつ言う。

「そうか……じゃあ、謁見が終わったらその足で……」

 そこでタクマはふと、ある事を思いつく。

(そうだ、毒見役について、プロックに相談すればいいのか! 彼なら口も堅いし、元商業ギルドの長だから信用もある!)

 タクマは立ち上がると、アークスと共に、早速コラルの所へ向う事にした。


 コラルは屋敷の一階で食事をしていた。

「どうしたのだ? そんなに急いで」
「毒味役について、ちょっとアテが思い浮かびまして……」

 タクマがそう言うと、コラルは注意した。

「そうか。タクマ殿が言うくらいだから、口の堅い者なのだろう。だが、その者にとっても重要な判断だろうから、無理強いはいかんぞ」
「もちろんです。しっかりと話をしてこようと思います」
「分かった。今から行くのだろう?」

 タクマがコラルに向かって頷くと、タクマに代わってアークスが言う。

「プロック様とエンガード様は、商業ギルドの会議室にいるそうです。私もご一緒します」

 タクマはコラルに頭を下げる。

「では、コラル様。俺とアークスで交渉に行ってきます」
「ああ、慎重にな」

 コラルに家族達を任せ、タクマはアークスと共に、空間跳躍でトーランへ移動した。





 3 打診


 タクマ達はすぐにプロック達の待つ商業ギルドへ向かう。
 ギルドに到着すると、受付の女性が話しかけてきた。

「これは、タクマ様。プロック様とエンガードご夫妻から伺っております。どうぞこちらへ」

 プロックは、タクマがいつ来てもいいように受付に話を通していた。
 受付の女性に案内されて、タクマとアークスは会議室へ向かう。
 受付の女性が、会議室のドアをノックする。

「プロック様、タクマ様がお越しです」

 すると、部屋の中からプロックの声が響く。

「おお、こんなに早く来てくれるとは。入ってくれ」

 タクマとアークスは会議室へ入る。
 そこには、プロックとエンガード夫妻が和やかな雰囲気でソファに座っていた。
 プロックとエンガード夫妻も、事情を知っているタクマでなければ気付かない程度かもしれないが、数年ほど若返っているように見えた。彼らも結婚式に参列していたため、若返りの影響が出たのだ。

(ほんの少しだけど若返りの影響が出ているみたいだ。ならその理由を説明するのと一緒に、毒見役のお願いをしてみるか)

 タクマがそんな事を考えていると、ナビが反応した。

(マスター、人柄からいっても、プロックさん達に頼むのはいい選択だと思います。ですが、おそらくこの三人には、若返りたいという望みはないのではありませんか? 皆さん、いい年の取り方をされていますから……)

 タクマはナビの言葉に納得する。彼らはタクマの商会を運営するようになってから、本当にいきいきとしていた。
 タクマとナビがそんな風に念話ねんわをしていると、プロックが言う。

「タクマ商会長、よく来てくれたのう。まずは座って一服したらどうじゃ?」

 タクマはプロックに促され、彼の隣に腰かける。

「それにしても、随分和やかな雰囲気だな。俺はてっきり、何かのトラブルで相談があるのかと思った」

 タクマはまず、彼らの用件を聞く事にした。
 タクマに振られて、プロックが口を開く。

「いやいや、トラブルではないぞ。相談というのはリュウイチ君の店についてじゃ」

 リュウイチは日本人の転移者で、今は生産職をして暮らしている。

「リュウイチ君から、食事処琥珀しょくじどころこはくの一部を借り、彼の作ったアクセサリーを売りたいと言われたのじゃが……ちょっと提案があってのう」

 プロックはそう言うと、タクマに尋ねる。

「商会長は、彼のアクセサリーを見た事があるかね?」

 それからプロックとエンガード夫妻はリュウイチの技術を絶賛していった。
 リュウイチの作品は食事処琥珀の片隅で売るにはもったいないほどの代物だそうだ。リュウイチが主に作っているのはアクセサリーなのだが、その美しさはプロック達でも今まで見た事がないレベルだという。
 プロックは更に続ける。

「しかも、リュウイチ君のアクセサリーは、ただの装飾品ではない。魔道具なのじゃ」

 リュウイチの作るアイテムには、色々な魔法が付与されている。タクマの家族達に魔法を使ってもらい、それを付与しているらしい。

「魔道具はシンプルで武骨なデザインというのが一般的じゃった。デザインがよくて機能的な魔道具は、これまでなかったのじゃ。しかし、リュウイチ君の作る魔道具は、機能を兼ね備えたうえで美しい。絶対に売れるはずじゃから、間借りせずに店舗を持った方がよいぞ」

 プロックは断言した。リュウイチのアイテムは冒険者向けから、一般向けまで多様らしい。

「というわけで、儂らはリュウイチ君に店を持たせたいと思っておる。作ったアイテムも、かなりたくさんになってきたと聞いておるのでな。商会長にできるだけ早く許可がもらいたくて、アークス殿に伝言を頼んだのじゃ」

 話を聞く限り、タクマも店を持つ事に異論はなかった。
 タクマがすぐに許可を出すと、プロックは喜んで言う。

「おお! では、早速動くとするかの」

 プロックとエンガード夫妻は、顔を見合わせて嬉しそうにした。

「そっちの要件は、以上でいいか?」

 タクマが聞くと、三人は頷く。

「そうか……じゃあ、今度は俺から三人に相談があるんだ」

 タクマは話を始めようとしたものの、どう説明していいものかと考え込んでしまう。

「んー……」

 プロック達三人は、タクマのただならない雰囲気に表情を変えた。
 プロックが言う。

「商会長。なぜ言いづらそうにしているか分からんが、黙っていても話は進まん。我らはどんな事を話しても秘密は守るぞ」

 タクマは少し気が楽になった。
 そこで神々の祝福によって、結婚式にやって来たタクマの知り合いに若返りが起きていると説明した。
 そして毒見役を誰にするかという問題についても、正直に話す。
 プロック達三人は、タクマの話を静かに聞いてくれた。
 タクマが全て話し終わると、バートが口を開いた。

「最近身体の調子がよく、まるで数年若返ったようだと話していたのですが、そういう理由があったのですね……」

 プロック達三人は自分の見た目や体調の僅かな変化に気が付いていた。タクマの説明を聞いて、ようやく合点がいった様子だ。
 プロックがタクマを見据えて言う。

「で、商会長はパミル様達にダミーの薬を飲ませるために、儂らに毒見役として本物を飲んでほしいというのじゃな?」

 タクマがすまなそうに頷くと、プロックはあっさり了承する。

「なんじゃ。そんな事か。だったら儂は構わんよ」

 エンガード夫妻も、同じように首を縦に振る。
 三人が躊躇ちゅうちょなく了承した事に、タクマは驚いた。
 固まってしまったタクマを見て、プロックは穏やかな笑みを浮かべる。

「どうしたのじゃ? そんなに驚く事かの?」
「い、いや……まさかこんなに簡単に承諾してくれると思ってなくて。今は若返ったといっても数年だけど、薬を飲んだら数十歳は若返るんだ。さすがに多少なり悩むものなんじゃないのか?」

 タクマの問いかけに、三人は声をあげて笑い出す。

「全く……商会長にも困ったものじゃ」
「ええ、その通りです」
「私達がタクマさんの申し出を受けたのには、ちゃんと理由があるわ」

 きょとんとしているタクマに、プロックが言う。

「商会長は知らぬだろうが、こんな事があったのじゃ……」

 プロックはタクマの商会の相談役に就任した時、宿や食堂を運営するメンバーと顔合わせをした。その時、タクマの家族達からこんな言葉をかけられたのだ。

「プロックさん、私達はこの商会を、家族のような組織だと思っています。商会長であるタクマさんが親、働く私達が子です。一緒にタクマさんのもとで働く者として、プロックさんも家族だと思っています。だからプロックさんも同じように、家族の一員として、私達に力を貸してくださると嬉しいです」

 プロックは笑みを浮かべる。

「あの言葉には感動したのう……共に働く者が家族だという考えは、儂にはなかった」

 タクマはそれを聞いて、心が熱くなる。
 確かにタクマは、一緒に働いている全員を家族だと考えていた。それを自分で口に出す事はなかったのだが、家族達も思いは同じであり、それをプロックに代弁してくれたのだと分かったからだ。
 プロックは続ける。

「そもそも、儂がこの商会にやって来た理由じゃが……最初は、欲のない商会長が一体どのような商売を展開していくのか興味があったからじゃ。普通商売をする者は儲けたい、成り上がりたいといった野心を持って商人となる。だが、商会長は違うじゃろう?」

 タクマが頷くのを見て、プロックも軽く頷きつつ言う。

「君が商会を興したのは、家族の自立のため、つまりは人のためじゃった。そんな商会長だからこそ儂は相談役として力を貸したいと思ったんじゃ。儂のような老人でも、助けになればと思ってな。そして相談役になった儂を、商会の皆は家族として温かく迎えてくれた」

 タクマの商会の一員となれた事が、プロックに大きな影響を与えていたのだ。

「だから儂は商会やそこで働く家族達を守るためならば、なんでもやろうと決心したんじゃ。聞いたところ、毒見役を必要としているのは、若返った家族達の秘密を守るためでもあるのじゃないか? この老体で役に立つならば、一肌脱ぐぞい」

 プロックに続くようにして、バートが言う。

「我々夫妻はタクマさんの心根に感謝しています。タクマさんはゴブリンから守ってくれたり、娘夫婦とのトラブルを解決してくれたりと、二度も救ってくれましたからね」

 バートは話しながら、タクマとの過去を思い出していた。

「実のところを言うと、最初に会った時は、あなたに畏怖いふを覚えました。もちろん感謝の気持ちはありましたが、怖さの方が勝っていたのです……どこか刹那的せつなてきな目をしていて、いつどうなってもいいといった危うさが感じられました。ですが、二度目に救ってくれた時、タクマさんは大きく変わっていました。目が全く違ってましたね。きっと家族ができたからなのでしょう」

 リアスが付け加えるように言う。

「あの時はタクマさんの優しさに救われたわ。しかも家族として湖畔に住み始めたおかげで、孫のような存在ができて……普通に暮らしていたら、想像もできなかった事だわ」

 エンガード夫妻はいつの間にか、二人して目に涙を浮かべていた。
 バートはリアスに寄り添いながら、タクマに告げる。

「タクマさんだけでなく、タクマさんの家族も、私達にとてもよくしてくれました。皆さんの役に立てるなら、毒見役になるくらいどうって事はないです」

 最後にプロックが言う。

「というわけで……我らは君の心根や、家族の温かさに感謝しておるのじゃ。何度も言うが、皆のためになるなら、喜んで協力するつもりじゃ」
「それに、若返ったらタクマさんの学校の事にも、もっと力を入れたいわ」

 リアスがそう言うと、他の二人も楽しそうな表情を浮かべた。
 三人はタクマの学校での教師役も務めている。多くの人が社会の荒波に呑み込まれないよう、知識を分け与えるのが役目だ。若返ったらより精力的に活動できるだろうと目を輝かせた。
 タクマは三人の夢を黙って聞いていた。
 すると、ナビが念話でタクマに話しかけてくる。

(マスター、いい人達と出会えましたね)

 ナビの言う通り、自分は人に恵まれている。そうタクマは実感していた。

(ああ。俺は幸せ者だと思うよ)

 以前まで、タクマは人と関わると面倒事に巻き込まれる事と感じていた。しかし今では人の縁が大事だと強く思っている。
 三人が快諾してくれたので、タクマは頭を下げる。

「三人とも、本当にありがとう。助かるよ」

 タクマの言葉に三人は顔を見合わせる。そして再び笑い声を響かせる。

「いいのじゃ。家族が協力するのは当然じゃろ?」
「そうですとも」
「タクマさん、頭を上げて。一家の長としての決断なのだから、気にしないで胸を張ってね」


 それから話題は、移動の相談に移った。
 毒見役をこなすためには、王都に移動する必要がある。
 三人は王都にあらかじめ宿を取り、謁見の日取りが決まるまで過ごしたいと希望した。

「商会長はこれから色々と謁見の準備をするのじゃろう? 儂らは先に王都で待っていた方が、手間をかけずに済みそうじゃと思ってな」

 プロックの提案はもっともだったが、タクマはコラルに確認を取っておいた方が無難だと考えた。

「俺は助かるけど、ちょっとコラル様に聞いてみてもいいか? 謁見の段取りが決まった時に、どうやってプロックに連絡するかも考えないといけないし」
「では話している間に、儂らは王都へ旅立つ準備をしようかのう」

 プロック達三人はソファから立ち上がると、部屋を出て荷物を取りに向かった。
 タクマは遠話のカードを取り出し、魔力を流してコラルを呼び出す。

『タクマ殿か。そちらの方はどうだった?』

 コラルが応答したので、タクマは先ほどの出来事を説明した。
 コラルは満足そうに言う。

『ふむ……プロック元ギルド長と、エンガード夫妻か。その三人ならば適役だろう。三人とも、商人として貴族達に有名な御仁ごじんだからな』

 タクマの所に来る前のプロックは、他の国にも名が知られるような商人だった。後進に地盤を譲ったあと、トーランのギルド長に収まった人物である。
 エンガード夫妻の商会も、国内では有名だった。

『彼らが毒見役なら、謁見に来た者も信用するはずだ。それに人柄もできているから、本物の若返りの秘薬を飲んだとしても、みだりに情報を広めたりする事もないだろう』

 コラルも納得できる人選だと考えている事を確かめたところで、タクマは伝える。

「毒見役が決まったので、相談です。三人は王都の宿で謁見の日まで待機したいそうです。構いませんか?」
『もちろんだ。宿については遠話を終え次第パミル様に連絡し、手配してもらおう』

 続いて、コラルはそこからの段取りについて説明する。

『三人はタクマ殿の空間跳躍で、王都にある私の屋敷に送ってくれ。そこで待機してもらい、宿が決まり次第知らせるとしよう。謁見の日取りについても、王城から宿に連絡させる』

 コラルがてきぱきと決めてくれて、タクマは安心した。
 コラルは確かめるような様子で、タクマに尋ねる。

『ちなみにタクマ殿は彼らを送ったあと、トーランの私の屋敷に戻ってくるという事で問題ないか?』
「ええ、そのつもりです。謁見の日付が決まったら、コラル様と一緒に王都に向かいたいと思っています。その方が謁見中にどのように立ち振るまうかという相談もできると思いますから」
『なるほどな、承知した』

 こうしてタクマは遠話を切り、呟く。

「さて、三人が来るまで待つか……」


 しばらくすると、扉をノックする音が響いた。
 タクマが返事をすると、大きめのかばんを肩からかけたプロック達が入ってきた。

「待たせたかのう?」
「いや、それは大丈夫だけど……随分大きい荷物だな」

 プロックは不服そうに言う。

「そこまで大きくもあるまい。最低限の身の回りのものと、謁見に着ていく礼服を取ってきたのじゃ。ここから王都に行く時は、普通もっと大荷物になるものじゃぞ」

 プロックの言う通り、彼らの荷物は王都に行くにしては本当に少ないものだった。それなのにタクマが大きいと言ったのは、自分がいつもほぼ手ぶらで王都に行っていたからだ。
 タクマはプロックの説明に納得した。

「なるほどな、礼服か……今まで礼服を持っていくとか、考えた事がなかったな」

 プロック達が会おうとしているパミルは一国の王だ。普通であれば礼服で謁見する必要がある。
 しかしタクマは誰と会う時も普段着だったので、礼服を着るという発想が抜け落ちていたのだ。
 プロックは訝しげな顔をする。

「商会長、まさかとは思うが……パミル様と会う時、いつも普段着だったりせんよな?」
「いや、まあ……」

 タクマは口ごもってしまう。
 プロックはその様子から全てを察し、深いため息を吐いた。

「はー……全く。商会長の非常識さにはびっくりじゃ。しかもそれを指摘された経験もないとは……パミル様が寛大な方だった事に感謝するしかあるまい」

 タクマは反省しながら口を開く。

「俺もうかつだったよ。今度の謁見の時は、礼服で行くようにする」
「うむ、それがいいじゃろう。以前までは個人として謁見に臨んでいたのかもしれんが、これからは商会を背負っている立場である事を忘れんようにな」

 プロックは、タクマを心配して注意を与えたところで、王都に行ったあとの事を確認する。

「宿を取る事について、コラル様には話を通したのかの?」

 タクマは三人に、コラルと話した内容を説明する。

「ああ、宿を手配してくれるそうだ。宿が決まるまでは、王都のコラル様の私邸で待機してほしいと言われた」

 プロックは段取りを理解すると、タクマに告げる。

「では、早速行こうではないか。商会長は転移魔法を使うと聞いておるぞ。儂は楽しみにしておったのじゃよ」

 プロックは子供のように目を輝かせていた。タクマの空間跳躍を体験するのを心待ちにしていたのだ。
 タクマは苦笑いを浮かべた。
 その後タクマは自分自身と三人を範囲指定し、空間跳躍を発動したのだった。



 4 戻れない!?


 一方その頃、ヴェルド達は湖畔の家にいた。
 ヴェルド、鬼子母神、伊耶那美命の三柱で、お茶を飲みながらのんびりしている。彼女達が使っている湯飲みは、リュウイチのお手製の品だ。

「はー、本当にここは静かでいいですねぇ……」
「自然の中で、空気もおいしいです」
「何より、子供達がかわいいですしね!」

 まるで自分の家にいるかのようにくつろぎながら、三柱は話を続けていた。
 そんな三柱だが、人間界にやって来るとついつい浮かれて魔力を使いすぎてしまう事が多かった。
 そのせいで結婚式のような大騒動を起こしてしまったという前科があるため、大口真神は三柱を戒めるべく、魔力を制限した人形の姿でのみ人間界に行けるようにしていた。
 そうではあったのだが、反省した三柱は問題を起こさず大人しくしていたので、今は人形という制限は取りやめになっている。
 というわけで今は三柱は人の姿を取っていたのだが、さすがにだらけすぎだと自覚している伊耶那美命が言う。

「できればここにずっといたいところですが……そろそろ帰らないとまずくないですかね?」

 鬼子母神は憂鬱ゆううつそうに返事をする。

「ええ。これ以上ここに留まりっぱなしでは、大口真神に怒られてしまうかもしれません」

 そんな二人をよそに、ヴェルドはバリバリと音を立てて煎餅せんべいを食べ始める。

「でもユキちゃんを送っていった大口真神が戻ってくるまで、しばらくかかりそうじゃないですか? もう少しゆっくりできそうですよねー」

 伊耶那美命と鬼子母神は顔を見合わせる。そして、呑気なヴェルドに厳しい表情を向けた。

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