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脱出

いつもと違う朝

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窓から明るい日差しが差し込んでいる。
これでもかという太陽の日差し攻撃に、目が覚めてしまったようだった。

いつもとは違う朝。部屋の作りは違うし、訳ありのボーイがちゃんといるかを確認に来る担当もやってこない。
のんびりとした、落ち着いた空間がここにはあった。

「夢じゃなかったんだな……」

一歩間違えると奈落の底に突き落とされるような目に合うところを、灰咲さんと出会ったことで俺は全く違う道を歩めることになったんだ。

ホウッと一つため息を吐き、壁にかかっている時計を見ると六時半を回っていた。
そんなに早すぎるわけでは無いのでベッドから起き上がり、部屋を出る。

「あ……」

リビングには、ソファに不自然に眠る灰咲さんの姿があった。

そうだよ。
1人暮らしなんだから、別に寝室があるわけじゃないのに。
ベッドが一つしかないんなら、どこに眠るんだってことを少し考えれば分かるはずなのに……。

眠る灰咲さんの顔には、サングラスは無かった。傍にあるローテーブルの上に置かれている。

……睫毛長い。
閉じているから分からないけど形も良さそうだ。
どんな瞳をしているんだろう。

目を開けた時の顔が見たくてしばらくしゃがんで待っていたんだけど、灰咲さんは一向に起きる気配が無かった。

「顔、洗いに行ってこようかな……」

洗面所に行って手を洗って、気が付いた。

俺……、歯ブラシも持ってなかった。

仕方がないからうがいだけをして、石鹸でバシャバシャと顔を洗った。昨日使って干しておいたバスタオルで顔を拭う。
一息ついて背筋を伸ばし鏡を見ると、背後に灰咲さんが立っていた。

あ、サングラス……。
チッ、素顔見そびれちゃったな。

「おはよう。早いな」
「おはようございます。……あ、すみませんでした、ベッド占領しちゃって。俺が今日からソファで寝ますから!」
「敬語」
「へ? あ、すみま……。ゴメン、気を付ける」
「……フッ。まあ、いい。ホラ、歯ブラシ。買い置きがあったから使えよ」
「あり……、ありがとう。あの、ホント、俺今日からソファで寝るから。昨日は気が付かなくてゴメン」
「いいさ。昨日は、その方が一番良いと思ったからしたまでだし。ホラ、さっさと歯磨け。後が閊えてるぞ」

「は……、うん。分かった」

歯ブラシを受け取って急いで歯を磨いた後灰咲さんに洗面所を譲り、数歩歩いて振り返った。

んー。
歯を磨きながら、サングラスはめてるー。

「……なんだ?」
「あ、いや。じゃあ俺、朝食作ってくるから」
「おう、よろしくな」

そう言って前を向いた灰咲さんは、シャコシャコと歯を磨き始めた。

まあ、いっか。そのうち素顔を見る機会もあるだろうもんな。

冷蔵庫をパカリと開けて、食材を確認。
あるのは、卵とカットわかめ。それにお味噌と……、キュウリくらいか。
男の1人暮らしだもんな。こんだけあれば大したもんかもしれない。母さんなんて、ろくなもの置いてなかったし……。

とりあえずご飯を炊こう。
なるべく早くご飯を食べれるようにと、てきぱきと準備に取り掛かった。
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