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してはいけないこと
叱られるということ
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「とにかく!」
バン!と手で傍にあるテーブルを叩いて、サングラスを掛けた灰咲さんが俺を見た。
「二度とこんなことをしたら、ただじゃ済まさんからな!」
「信じて無いの……?」
怖い雰囲気を崩そうとしない灰咲さんに、泣きたくなる。涙目で見つめる俺に、灰咲さんはため息を零して俺を見た。
「信じる信じないの話じゃない。俺はお前がその金をもらって来たってことが気に食わないんだ」
「…………」
灰咲さんの言葉に、俺は自分の心の裏にあったさもしい気持ちに気づいてしまった。
あの時、確かに無理やり金を握らされたとはいえ、それを受け取ってしまったのは俺が真剣に拒否していなかったからだ。
もちろんあの男と遊んで金を貰おうなんて思ってはいなかったけど、口止め料だとか慰謝料だとか言われて、俺の気持ちがぐらついたのは確かだった。
「ご……、ごめんなさい」
情けない。
灰咲さんはきっと、俺のそんな弱い気持ちを怒ったんだ。
本気で人生をやり直したいのなら、もっと強い気持ちになれと。潔いほど清廉潔白でないと、他の人たちも信用してくれないとそう思っているんだろう。
唇を噛んで俯いた。
灰咲さんを信用してくれないと詰る権利なんて俺には無いのに……。
くしゃり。
頭を撫でられる感覚にハッとした。
俯いてうなだれる俺を、灰咲さんが宥めてくれている。
「わかりゃいい、わかりゃ」
ぐしゃぐしゃと無造作に俺の髪をかき混ぜながら諭すように話すその声は、穏やかで優しい静かなものだった。
キュウッ……。
叱られたのに、俺の心はどういう訳か、甘酸っぱいような切ないような妙な感覚に陥っている。
本当に、灰咲さんには俺にとって初めての気持ちをたくさん味わわせてもらっているような気がする。
叱られることが嬉しいという気持ちに繋がるものだなんて、今の今まで俺は経験したことすらなかったんだ。
☆☆☆☆☆☆☆
「こんにちはー、相模家具店です」
「はい」
日曜の午後、灰咲さんの仕事がひと段落した頃、大きなトラックに乗った家具屋がやって来た。
灰咲さんが、そそくさと玄関に向かう。
家具屋って……。なんだろう?
リビングから様子を窺っていたら、灰咲さんが大きな段ボールをちょっと重そうに持って来た。
「灰咲さん、何それ?」
「ん? ああ、言ってなかったか。ベッドだ。寝室にもう一つベッドが置けるなと思って。夏は良いけど冬になったらフローリングの上に布団を敷くのは冷えるだろうからさ」
「…………」
もしかして俺のため?
俺……、ずっとここに居ても良いって、そう思ってもいいの?
最初の日は、それこそ灰咲さんがソファで寝てくれたけど、その後はしまい込んでいた布団を引っ張り出して寝室に布団を敷いて寝ていた。
だけどこの家には和室が一部屋も無いので、やっぱりベッドがあった方がしっくりくるんだろう。
ベッドは、そう高いものでは無いと言っていたけど、俺は相場が分からないからどのくらいの金額なのかは分からないけど……。
それは組み立て式だったので、2人で添えられていた用紙を見ながら作業した。凄く簡単で、十五分もかからないうちにベッドは完成した。
「一応予備に、もう一組くらい布団も買っておくかな……」
そんな事を呟いてから一週間ほど経った頃、家に一組の布団が届いた。
俺は気が付かなかったけど、どうやらネットで買い物を済ませていたようだ。
――だけどこの、布団を購入するという灰咲さんの気まぐれが、後に俺を苛立たせる原因に繋がることになろうとは、この時は誰も予測することすら出来なかったのである。
バン!と手で傍にあるテーブルを叩いて、サングラスを掛けた灰咲さんが俺を見た。
「二度とこんなことをしたら、ただじゃ済まさんからな!」
「信じて無いの……?」
怖い雰囲気を崩そうとしない灰咲さんに、泣きたくなる。涙目で見つめる俺に、灰咲さんはため息を零して俺を見た。
「信じる信じないの話じゃない。俺はお前がその金をもらって来たってことが気に食わないんだ」
「…………」
灰咲さんの言葉に、俺は自分の心の裏にあったさもしい気持ちに気づいてしまった。
あの時、確かに無理やり金を握らされたとはいえ、それを受け取ってしまったのは俺が真剣に拒否していなかったからだ。
もちろんあの男と遊んで金を貰おうなんて思ってはいなかったけど、口止め料だとか慰謝料だとか言われて、俺の気持ちがぐらついたのは確かだった。
「ご……、ごめんなさい」
情けない。
灰咲さんはきっと、俺のそんな弱い気持ちを怒ったんだ。
本気で人生をやり直したいのなら、もっと強い気持ちになれと。潔いほど清廉潔白でないと、他の人たちも信用してくれないとそう思っているんだろう。
唇を噛んで俯いた。
灰咲さんを信用してくれないと詰る権利なんて俺には無いのに……。
くしゃり。
頭を撫でられる感覚にハッとした。
俯いてうなだれる俺を、灰咲さんが宥めてくれている。
「わかりゃいい、わかりゃ」
ぐしゃぐしゃと無造作に俺の髪をかき混ぜながら諭すように話すその声は、穏やかで優しい静かなものだった。
キュウッ……。
叱られたのに、俺の心はどういう訳か、甘酸っぱいような切ないような妙な感覚に陥っている。
本当に、灰咲さんには俺にとって初めての気持ちをたくさん味わわせてもらっているような気がする。
叱られることが嬉しいという気持ちに繋がるものだなんて、今の今まで俺は経験したことすらなかったんだ。
☆☆☆☆☆☆☆
「こんにちはー、相模家具店です」
「はい」
日曜の午後、灰咲さんの仕事がひと段落した頃、大きなトラックに乗った家具屋がやって来た。
灰咲さんが、そそくさと玄関に向かう。
家具屋って……。なんだろう?
リビングから様子を窺っていたら、灰咲さんが大きな段ボールをちょっと重そうに持って来た。
「灰咲さん、何それ?」
「ん? ああ、言ってなかったか。ベッドだ。寝室にもう一つベッドが置けるなと思って。夏は良いけど冬になったらフローリングの上に布団を敷くのは冷えるだろうからさ」
「…………」
もしかして俺のため?
俺……、ずっとここに居ても良いって、そう思ってもいいの?
最初の日は、それこそ灰咲さんがソファで寝てくれたけど、その後はしまい込んでいた布団を引っ張り出して寝室に布団を敷いて寝ていた。
だけどこの家には和室が一部屋も無いので、やっぱりベッドがあった方がしっくりくるんだろう。
ベッドは、そう高いものでは無いと言っていたけど、俺は相場が分からないからどのくらいの金額なのかは分からないけど……。
それは組み立て式だったので、2人で添えられていた用紙を見ながら作業した。凄く簡単で、十五分もかからないうちにベッドは完成した。
「一応予備に、もう一組くらい布団も買っておくかな……」
そんな事を呟いてから一週間ほど経った頃、家に一組の布団が届いた。
俺は気が付かなかったけど、どうやらネットで買い物を済ませていたようだ。
――だけどこの、布団を購入するという灰咲さんの気まぐれが、後に俺を苛立たせる原因に繋がることになろうとは、この時は誰も予測することすら出来なかったのである。
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