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Stop me!

俺の知らない灰咲さん

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腹立たしいことに朱里さんは自分が言いたいことだけを言った後、手伝いもせずにリビングへと戻った。俺が野菜を切ったり炒めたりしている間中、2人の話し声や、時には笑い声も聞こえてきたりして俺の神経を逆なでする。

だいたい灰咲さんも灰咲さんなんだ。
ちょっと美人だからって、甘すぎるんじゃないの?

「……ご飯、出来たよ」
「ああ。じゃあ、運んでくれ」
「じゃあ、私も手伝うわ」

朱里さんがそう言って、出来た料理を運んでくれた。
……とは言っても、彼女の手伝いの意図ははっきりしていた。テーブルに並べる時、しっかり自分の物を灰咲さんの隣に置いていたから。

「じゃあ、いただきます」
「いただきます」

パクリと野菜炒めの玉ねぎとピーマンを口に放り込み、朱里さんがパチッと目を見開いた。

「あら、ヤダ。美味しいじゃない、これ。ねえ、龍?」
「ああ。尚哉は料理も掃除もうまいぞ」
「そっかー。だから傍に置いてるのね」

そういいながら、チラリと朱里さんが俺を見た。まるで、それ以外にあんたの価値は無いのよ?と言われているみたいでムッとする。

「それにしても、龍。あんた最近築山に戻って来ないわよね? たまには酒井さんの家にも寄りなさいよ。あんなに世話になったんだから」

「……そのうちな」

築山?
酒井さん?
俺の知らない言葉ばかりが流れている。
相変わらずのサングラスだからその表情は分からないけど、灰咲さんはどことなく懐かしい顔をしているような気がした。

俺の胸にチクリと刺さる小さな棘。
悔しいけど、灰咲さんと朱里さんの間には俺の知らない過去がいっぱい詰まっていて、それが2人の仲の良さを示しているような気がした。

……そういえば朱里さんが来てからの灰咲さん、俺のことなんてまるで忘れてるみたいだ。だって、ちっともこっちに関心を向けてくれないんだもの……。

ほぼ無言でご飯を食べ終わった俺は、そのまま食器を片付けた。


……朱里さんがこのままここに居着くことになったら、出て行かなきゃならないのは俺の方なのかもしれない。

洗い物を終えてリビングに戻ると、灰咲さんと朱里さんが楽しそうに、俺の知らない話をまだ続けていた。
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