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Stop me!
それぞれの夜
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しばらく俺もリビングにいたんだけど、2人を見るのがそのうち苦痛になって来た。
「……灰咲さん、俺、先に風呂入って寝るから」
「――ああ、お休み」
「お休みなさーい」
まだ九時半を回ったところだ。風呂から出てもせいぜい十時だろう。
一瞬、灰咲さんは怪訝な顔をしたけど、そのまま流した。多分、俺が不貞腐れているのに気付いているんだろう。
朱里さんは楽しそうに手を振りながらの挨拶だ。……コノヤロウ。
出来るだけゆっくり湯船に浸かって風呂から出た。そしてそのまま寝室へと向かう。
ベッドに入って大人しく眼を閉じた。
……分かってるんだ、本当に。
灰咲さんが俺をここに置いてくれてるのは単に、俺の酷い状況に同情してくれたからだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
俺の気持ちが落ち着いて、自立できるめどが立てばここから出て行かなきゃならないってことも、俺はちゃんと理解している。
深呼吸をして目を閉じた。
もしかしたらもう、俺はその自立の時期に来ているんじゃないのか?
俺の得意と言えることはせいぜい料理くらいだから、どこかの飲食店で働かせてもらえば多分大丈夫だ。
――明日、朝起きたら一番に……、この家を出よう。
だけど……、灰咲さんのバカ……。
未練たらたらな俺は、心の中で灰咲さんを罵りながら眠りの淵へと落ちて行った。
【灰咲視点】
俺と朱里との話が全く見えないせいか、最初は剥れていた尚哉が、そのうち大人しくなりすぎていて少し心配になった。
「ねえ、そろそろ寝ない? 私も眠くなっちゃった」
「ああ、そうだな。ちょっと待ってろ」
こないだちょうど新品の布団を買ったばかりだ。
買っていて良かったというべきなのかは分からないけど(無ければ朱里は泊めていない)、俺はしまい込んでいた新品の布団を引っ張り出してリビングへと持って来た。
「外に適当な部屋は無いから、ここで寝てくれ」
「……シングルなのね」
「当たり前だろ。予備の布団だ。あるだけ有難いと思え。じゃあな、おやす……」
「ちょっと待って、龍! あなたはどこで寝るのよ?」
「ああ? 決まってんだろ。普通に自分の寝室で寝る」
「……尚哉君は?」
「同じ寝室に決まってんだろ」
「…………」
あ?
なに剥れた表情してんだ、こいつ。
「じゃあな、お休み」
「……お休みなさい」
戸締りを確認してから寝室に入った。
尚哉は、布団を顎のあたりまで引き寄せて、もう眠っているようだ。
「…………」
顔を覗き込んで見てみると、嫌な夢でも見ているのか顔を歪ませながら何かをむにゃむにゃと呟いている。
「……ばかぁ」
バカ?
誰かと喧嘩でもする夢を見ているのか?
ジッと見ていても起きる気配はない。
……本当に、初めて出会った時に比べるとずいぶん可愛らしくなったもんだ。こうして見ていると、素顔の尚哉がどれだけ素直で愛らしいのかがよくわかる。
もちろんあの頃も、大丈夫かと心配するほど危なっかしくて放っておけなかったのだけど……。
暗い中、さらに顔を近づけて尚哉の顔をじっと見る。
……見ている内になんだか、愛しすぎて切ないような妙な気持ちになってきてしまった。
ふわふわと額を覆う尚哉の柔らかそうな髪。そっと顔を寄せて尚哉の額に口付けた。
「…………」
……なにやってんだ、俺。
口元を手で覆ってため息を吐いた。
――これは間違いない感情だ。
俺はこいつを愛しいと思うし、守ってやらなきゃと思っている。
そのためには俺は、どんな努力でもするだろう。
――お休み、尚哉
心の中でそう呟いて、俺もそろそろ眠ろうと自分のベッドへと向かった。
「……灰咲さん、俺、先に風呂入って寝るから」
「――ああ、お休み」
「お休みなさーい」
まだ九時半を回ったところだ。風呂から出てもせいぜい十時だろう。
一瞬、灰咲さんは怪訝な顔をしたけど、そのまま流した。多分、俺が不貞腐れているのに気付いているんだろう。
朱里さんは楽しそうに手を振りながらの挨拶だ。……コノヤロウ。
出来るだけゆっくり湯船に浸かって風呂から出た。そしてそのまま寝室へと向かう。
ベッドに入って大人しく眼を閉じた。
……分かってるんだ、本当に。
灰咲さんが俺をここに置いてくれてるのは単に、俺の酷い状況に同情してくれたからだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
俺の気持ちが落ち着いて、自立できるめどが立てばここから出て行かなきゃならないってことも、俺はちゃんと理解している。
深呼吸をして目を閉じた。
もしかしたらもう、俺はその自立の時期に来ているんじゃないのか?
俺の得意と言えることはせいぜい料理くらいだから、どこかの飲食店で働かせてもらえば多分大丈夫だ。
――明日、朝起きたら一番に……、この家を出よう。
だけど……、灰咲さんのバカ……。
未練たらたらな俺は、心の中で灰咲さんを罵りながら眠りの淵へと落ちて行った。
【灰咲視点】
俺と朱里との話が全く見えないせいか、最初は剥れていた尚哉が、そのうち大人しくなりすぎていて少し心配になった。
「ねえ、そろそろ寝ない? 私も眠くなっちゃった」
「ああ、そうだな。ちょっと待ってろ」
こないだちょうど新品の布団を買ったばかりだ。
買っていて良かったというべきなのかは分からないけど(無ければ朱里は泊めていない)、俺はしまい込んでいた新品の布団を引っ張り出してリビングへと持って来た。
「外に適当な部屋は無いから、ここで寝てくれ」
「……シングルなのね」
「当たり前だろ。予備の布団だ。あるだけ有難いと思え。じゃあな、おやす……」
「ちょっと待って、龍! あなたはどこで寝るのよ?」
「ああ? 決まってんだろ。普通に自分の寝室で寝る」
「……尚哉君は?」
「同じ寝室に決まってんだろ」
「…………」
あ?
なに剥れた表情してんだ、こいつ。
「じゃあな、お休み」
「……お休みなさい」
戸締りを確認してから寝室に入った。
尚哉は、布団を顎のあたりまで引き寄せて、もう眠っているようだ。
「…………」
顔を覗き込んで見てみると、嫌な夢でも見ているのか顔を歪ませながら何かをむにゃむにゃと呟いている。
「……ばかぁ」
バカ?
誰かと喧嘩でもする夢を見ているのか?
ジッと見ていても起きる気配はない。
……本当に、初めて出会った時に比べるとずいぶん可愛らしくなったもんだ。こうして見ていると、素顔の尚哉がどれだけ素直で愛らしいのかがよくわかる。
もちろんあの頃も、大丈夫かと心配するほど危なっかしくて放っておけなかったのだけど……。
暗い中、さらに顔を近づけて尚哉の顔をじっと見る。
……見ている内になんだか、愛しすぎて切ないような妙な気持ちになってきてしまった。
ふわふわと額を覆う尚哉の柔らかそうな髪。そっと顔を寄せて尚哉の額に口付けた。
「…………」
……なにやってんだ、俺。
口元を手で覆ってため息を吐いた。
――これは間違いない感情だ。
俺はこいつを愛しいと思うし、守ってやらなきゃと思っている。
そのためには俺は、どんな努力でもするだろう。
――お休み、尚哉
心の中でそう呟いて、俺もそろそろ眠ろうと自分のベッドへと向かった。
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