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第八章
利一の応援
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「陽太。お前、今日は弁当か?」
「え? うん、そうだけど」
「そっか。じゃあさ……」
利一は一瞬いたずらっぽい顔をして、俺を手招きし廊下へと連れだした。
「さっき紫藤に聞いたらさ、お昼は弁当を職員らと注文していて、準備室で済ませるつもりだって言ってた」
「ふうん……」
お弁当かぁ。中身はどんなんなんだろ。
栄養バランス、良いといいけど。
「だから、お前準備室でご飯食べれば?」
「え? それは、無理だろ。変に思われるよ」
「大丈夫だよ。さっき紫藤に許可取ったから。陽太が物理を教えて欲しいってぼやいてたけど、お昼休みに準備室に言っても良いかって聞いたんだ」
「えぇっ!?」
さっきのアレって、そう言う事だったのか?
……そりゃ、先生とご飯食べれるのは嬉しいけど、そんな所を他の誰かに見られたりしたら、先生に余計な迷惑をかけちゃうかもしれないじゃん。
利一はきっと俺が喜ぶだろうと思って提案してくれたんだろう。だけど、その予測に反してあまり嬉しそうな顔をしない俺に、利一は不思議そうな顔をした。
「なんだ? らしくない。緊張でもしてるのか?」
「あ、そうじゃなくて。……お昼休みに生徒に押しかけられたら、いくら優しい先生でも迷惑に思うんじゃないかなって。それに、そんなトコ女子らに見つかったら、きっと我も我もと先生の所に押し寄せちまうだろ?」
俺がそうぼやくと、利一は目を丸くした。
「お前……」
「――なんだよ」
「あー、いや。悪い。結構マジなんだな」
「…………」
確かに、マジだよ。大マジ。
今までの俺だったら、きっとそんな深くは考えないで先生の準備室に走って行ってる。
だけど順調に先生との仲を深めることが出来ている今だからこそ、余計に慎重にならなきゃって思いが強くなって来てるんだ。
今の俺にとっては、先生の迷惑にならないこと、そして俺らの仲に邪魔が入らないのが一番だから。
「う~ん、でもなあ。せっかく紫藤先生が良いって言ってくれたんだから行かなきゃ損な気がする。要はさ、準備室に入るところを誰かに見つからなければいいんだろ? 少し遠回りでもして時間置いて準備室覗いてくれば? それでもし周りに人がいるようなら教室に戻ってくればいいだろ?」
「それは、そうだけど」
何でそこまで熱心になってくれてるんだ?
一応紫藤先生は高階先生と付き合ってる事になってるから、俺の立場は勝手な片思いって事になるのに。
不思議に思ってジッと利一を見ていると、その意図に気付いたのか照れ臭そうに頭を掻いていた。
「……なんて言うかさ、陽太の気持ちが最近よくわかる気持ちになっちゃって」
「え?」
「……俺、さ。部のマネージャーに、片思いしてるんだよな」
「え、いつの間に?」
「うん。まあ……、それでさ。その子が最近……先輩と付き合ってるってことが分かってさ……、だから俺の思いが実ることは、まあ無理なわけだよ」
「利一……」
「俺は相手が先輩だからあからさまな態度は取れないし、まして横からかっさらう事も出来ないけど。……もちろんお前だって、高階先生から紫藤先生は奪えるとも思えないけどさ、でも、人を好きになるドキドキ感は味わったって構わないだろ? 思い出だって、いっぱい作りたいって思うだろ」
「……利一は、諦めちゃってるわけ? 俺に何か手伝えることは無いのか?」
「いい、いい。先輩もすごい良い人だし、尊敬してるから。あの先輩とは、揉めたくないんだ」
「そう、なんだ……。でもさ、利一。人を好きになるのは自由だよ。万が一でも、その子が利一のことを好きになってくれることがあったら、その時は頑張ってみてもいいんじゃないか? その先輩に遠慮しないで」
「そうだな……」
そう言いはしたものの、利一は少し寂しそうに笑って下を向いた。
その表情からは、いつもの前向きな利一が見いだせない。
ともかく、俺は利一の好意に感謝して、とりあえずはと弁当を持って先生の準備室へと向かっていった。
「え? うん、そうだけど」
「そっか。じゃあさ……」
利一は一瞬いたずらっぽい顔をして、俺を手招きし廊下へと連れだした。
「さっき紫藤に聞いたらさ、お昼は弁当を職員らと注文していて、準備室で済ませるつもりだって言ってた」
「ふうん……」
お弁当かぁ。中身はどんなんなんだろ。
栄養バランス、良いといいけど。
「だから、お前準備室でご飯食べれば?」
「え? それは、無理だろ。変に思われるよ」
「大丈夫だよ。さっき紫藤に許可取ったから。陽太が物理を教えて欲しいってぼやいてたけど、お昼休みに準備室に言っても良いかって聞いたんだ」
「えぇっ!?」
さっきのアレって、そう言う事だったのか?
……そりゃ、先生とご飯食べれるのは嬉しいけど、そんな所を他の誰かに見られたりしたら、先生に余計な迷惑をかけちゃうかもしれないじゃん。
利一はきっと俺が喜ぶだろうと思って提案してくれたんだろう。だけど、その予測に反してあまり嬉しそうな顔をしない俺に、利一は不思議そうな顔をした。
「なんだ? らしくない。緊張でもしてるのか?」
「あ、そうじゃなくて。……お昼休みに生徒に押しかけられたら、いくら優しい先生でも迷惑に思うんじゃないかなって。それに、そんなトコ女子らに見つかったら、きっと我も我もと先生の所に押し寄せちまうだろ?」
俺がそうぼやくと、利一は目を丸くした。
「お前……」
「――なんだよ」
「あー、いや。悪い。結構マジなんだな」
「…………」
確かに、マジだよ。大マジ。
今までの俺だったら、きっとそんな深くは考えないで先生の準備室に走って行ってる。
だけど順調に先生との仲を深めることが出来ている今だからこそ、余計に慎重にならなきゃって思いが強くなって来てるんだ。
今の俺にとっては、先生の迷惑にならないこと、そして俺らの仲に邪魔が入らないのが一番だから。
「う~ん、でもなあ。せっかく紫藤先生が良いって言ってくれたんだから行かなきゃ損な気がする。要はさ、準備室に入るところを誰かに見つからなければいいんだろ? 少し遠回りでもして時間置いて準備室覗いてくれば? それでもし周りに人がいるようなら教室に戻ってくればいいだろ?」
「それは、そうだけど」
何でそこまで熱心になってくれてるんだ?
一応紫藤先生は高階先生と付き合ってる事になってるから、俺の立場は勝手な片思いって事になるのに。
不思議に思ってジッと利一を見ていると、その意図に気付いたのか照れ臭そうに頭を掻いていた。
「……なんて言うかさ、陽太の気持ちが最近よくわかる気持ちになっちゃって」
「え?」
「……俺、さ。部のマネージャーに、片思いしてるんだよな」
「え、いつの間に?」
「うん。まあ……、それでさ。その子が最近……先輩と付き合ってるってことが分かってさ……、だから俺の思いが実ることは、まあ無理なわけだよ」
「利一……」
「俺は相手が先輩だからあからさまな態度は取れないし、まして横からかっさらう事も出来ないけど。……もちろんお前だって、高階先生から紫藤先生は奪えるとも思えないけどさ、でも、人を好きになるドキドキ感は味わったって構わないだろ? 思い出だって、いっぱい作りたいって思うだろ」
「……利一は、諦めちゃってるわけ? 俺に何か手伝えることは無いのか?」
「いい、いい。先輩もすごい良い人だし、尊敬してるから。あの先輩とは、揉めたくないんだ」
「そう、なんだ……。でもさ、利一。人を好きになるのは自由だよ。万が一でも、その子が利一のことを好きになってくれることがあったら、その時は頑張ってみてもいいんじゃないか? その先輩に遠慮しないで」
「そうだな……」
そう言いはしたものの、利一は少し寂しそうに笑って下を向いた。
その表情からは、いつもの前向きな利一が見いだせない。
ともかく、俺は利一の好意に感謝して、とりあえずはと弁当を持って先生の準備室へと向かっていった。
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