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プロローグ

想定外でした。(少年談

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俺は獣の死体あふれるその場を一蹴して、キールのところへ急いだ。
先ほどまでいた川が奥の方に見える。


「お、ここら辺だ。キールぅ…ってぅわ!」


川の手前に足を着けた途端、突如向けられた殺意と衝撃。
すごい油断してたところに急な衝撃。俺は軽く吹っ飛ばされた。

木に衝突する前に兎翔ラビットウィングでその木を蹴り体勢を立て直し、再び地に足をつける。
思いっきり背中から…もとい体全体で受けた衝撃の余韻でちょっと頭がくらくらした。
さっき自分が降りたところには、一匹のファンゴ。

しかも……なんかデカイ。自分の記憶にあるファンゴの倍くらいの大きさなのは気のせいだろうか。
え、なに、しかもなんか俺に向かって息荒くしてない?
WHAT?

とりあえずまた突っ込んで来られる前にその場で一番太いであろう木に飛び乗り、辺りを見渡す。


「ってか、キールは?」


そう、キール。
一応残りのダイアウルフを引き受けてた筈なんだけど、しかしなぜかデカファンゴまでいる始末。

…まさかキールに何かあったのか?

そう思った途端に背中にヒヤリとしたものが伝う。
そこら中に移動する俺の視線。でもその先にはキールは映らず。

索敵、感知魔法使わなきゃ…
そう思ってはいるのに、耳の中に心臓があるのではと思うくらい、心臓の音がうるさく聞こえる。


「……キール?」


胸が、苦しくなった。
ひゅっと息を飲む音が大きく聞こえたとき、


「何だ、呼んだか?」

「ひぎゃあ!!」


いきなり後ろから聞こえてきた声に、思わず声を上げる。
咄嗟にバランスを崩しかけた俺は急いで体勢を立て直すがそれより先に掴まれた腕。
掴んだ奴…声の聞こえた方に顔を向けた。

居た。


「…キール」


よかった、居た。
安心に頬が緩む。
のに気づいた俺はそれを隠すように、勢いよく前を向いてキールに捲し立てるように話しかけた。


「ってか一体どうしたんだよ、俺まずダイアウルフ頼んだはずなのに、倒して戻ってきたらなんかに突っ込まれて吹っ飛んでなんでファンゴまでいるのしかも結構でかいやつ!」
「いや~悪い悪い、遊んでたら一匹がファンゴの巣に飛び込んでったみたいでさー…。
 怒ったらしいファンゴが何故か荒らしたダイアウルフじゃなく俺を襲ってきたんだ。そしたらアレ、なんかいかにもボス!みたいな顔のやつ来てさー」
「へらへら笑いながら言うことか!?ってか、ダイアウルフの長的なヤツは…」
「あー…しまったファンゴから逃げるのに必死で放置してきちゃった☆」


テヘ☆
っじゃねぇぇえぇぇええぇぇぇ!!!

こんの糞馬鹿師匠…!!!
てか、放置してきたってどこに…、もしこの場にそいつまで増えたりしたら…!

なんて考えてたらしっかりフラグ回収。

殺気感じて見てみたら逆方向からやってきてるんだぜ!
キール後で覚えてろよ☆


「キール…どうやら迎えに来たみたいだよ」
「いや~ははは俺ってば動物にもモテ「はよ行って来い」…はい」


グーで殴らなかっただけいいであろう、頬をつねりながら言うとキールは苦笑しながら返事。
頬をさすりながらキールは少し放れた木に飛び移り、ダイアウルフをファンゴから遠ざけるように離れていった。

ので、ここに残されたのは俺とファンゴ(特大)さん。
どうしようか考えようとしても、ファンゴ(特大)さん本当に特大過ぎて俺の立つ木をことごとく…張り倒す?とにかく大木であろうと突進で薙ぎ倒されていく。
ちょっと興奮しすぎじゃありません?というか君痛くないの?鼻先に枝刺さってるし、帰っていただいても俺は構わないですよ?
俺に反撃の隙を与えないように?いやとりあえず感情のまま突っ込んできてるよねこれは。

あまりにも木がかわいそうなので空中に留まると俺の下をくるくると回りながらめっちゃ鼻息を荒くしている。


「え、真面目にどうしよう…」


鼻息を荒くしたファンゴさん。と俺。
ちなみに俺はというと、これ以上飛び移った木が倒れていくのを見ていて申し訳なくなり、兎跳ラビットウィングで空中にとどまっている。


「捕獲、だよなぁ…」


その場で大きな鼻をフゴフゴ鳴らし、その場で地をかいて俺に狙いを定めている。
ファンゴさんはたいそうお怒りのようだ、これじゃ軽いダメージじゃ無理だな。
興奮状態では痛みや衝撃に鈍く、気絶させるにはなかなか手間取るのだ。

しかしある程度の威力の衝撃を与えるとしても、俺手加減苦手だからどうなるか…。

はぁ、とひとつため息。

……キールめ、覚えてろ。


「とりあえず、キールの見学したいし、さっさと終わらそう。…んー…」


どうして捕まえようか考えてみる。そして脳内シミュレーション。
……ヨシ、これで行こう。
キールから軽く指示されていた、同詠唱の効果応用のもの。
一応前回は成功していたので、それで行こう。

俺は空より降りつつ、先ほどのように手のひらに集中。
集中したいので簡易詠唱で許してもらおう。


「大地の恵みよその恵みを以て我に力を貸さん…―地烈撃アースクエイク!」


言い終わり、手のひらに集中した魔力を地に放つと、俺を中心に地面に亀裂が入る。
そこに俺に向かい突進してくるファンゴ、の前方に向かうとファンゴより早く、そこに大きな穴が出来た。

亀裂が入っていたのもあり、ファンゴは穴の中へ、そしてもう一発。


「っと、強化――兎撃ラビットインパクト!」


脳天に、蹴りを喰らわす。
先ほどより使用していた兎跳ラビットウィングは足元に風の力を生み出し、地や木などを蹴り衝撃を与えることで跳躍を強化し、後にそのまま生じた風で全身もしくは足を包んでうまくすると空中に滞在できたりするのだが。
人体に通常以上の跳躍を施すほどの力を、対象に向けて放つと


―ズウゥ・・・ン…


こんなに特大のファンゴとはいえ、おそらく一撃で気絶させられる。名前のままではとても可愛らしいが恐ろしい威力だ…。
重い音をたてて、穴の中で崩れ落ちるように倒れた音が穴から漏れ出た。

俺は穴の前に立つと、改めて大きい体躯を見て口笛を鳴らす。
気絶とはいえやはりこの大きさがある。いつ起きて暴れられても困るので早めの拘束をしないと。

えっとロープ…って。


「あ」


ロープ持ってるの、キールじゃん。

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