終焉の守護騎士

主道 学

文字の大きさ
36 / 81
第七章

9-1

しおりを挟む
 うん??
 どうして?
 あ、そうか!

 きっと、二人共ヒッツガル師匠の本当の魔法の力を知っているからなのだろう。

 うーん……。
 さすが、ヒッツガル師匠。
 怖いくらいに頼もしい。
 でも、ヒッツガル師匠の魔方向音痴はまだ治っていないんだろうなあ。
 
 うん??
 サンポアスティ国との戦いで怪我をした場合は??
 
「あ、そうだ! 通小町も来てくれ。大方、狙いはお前もこの国の資源なんだろ」
「ウッキー! その通りだが。だが、違う。私はこの国そのものが欲しいんだ! それと、鬼窪。私に命令するな!」
「じゃあ、ここへ残るのはヒッツガル師匠とブルードラゴンだね。そして、サンポアスティ国に偵察に行くのは……そういえば、マルガリータ。箒はちゃんと飛ぶのか? 重くないかな? こっちはガーネットと通小町と俺とで三人でいくんだし」
「大丈夫よ。魔法が使えるのは私だけじゃないわ。ほら、この人もいるんだし」
「ふふふふふふ……この秀才に不可能はない」
「え……? 通小町も箒で空を飛べるのか?」
「ああ。だが、鬼窪は絶対に乗せないからな」
「……」

 窓の外から本格的に朝日が昇って来た。会議が終わり。みんなが出ていくと、ソーニャがヒッツガル師匠と少し話があるといい軍会議室に残った。

 サンポアスティ国。
 一体。どんなところだろう?
 それに、ここラピス城へどこまで進軍しているのだろう?

 帰り際に石扉の近くで、オニクボが俺の顔を覗いて急にニッと笑った。だが、目は決して笑っていなかった。
 
「鬼窪くん。お前、これでマジでいいと思ってるのか?」
「え? いや……??? まさか!」
「あっはーー、いや。違うぜ。俺様たち黒の骸盗賊団は、この戦争がひと段落するまで西の草原で燻っていてやるぜ。その方が安心だろ」

 オニクボは口笛を吹いて、正門側の石階段の方へ帰って行った。
 一体。オニクボは何を考えているだろう?
 さっぱりだよ。

「ふう、オニクボ相手だと緊張するなあ」
 
 そして、今度は通小町が俺を呼び止めた。

「うん??」
「鬼窪。さっきの話の続きだが……。実際はまったく違っていたかもな。私の推測だが、いつもあいつの隣にいて庇っていたんだろ鬼窪は……。だから、猪野間とかにモテていたのは、秋野じゃなくて、鬼窪の方だったのかもな」
「へ……え……そんな……まさかなあ……」

 眩しい朝日が通小町の意地悪そうな顔を照らした。

 徹夜続きの昨日が終わり、今日が始まった。
 強国に挟まれた俺たちには、昨日も明日もないんだ。
 気持ちのいい風が吹く日だった。 
 ところが、前が見えにくいくらい霧が立ち込めていた。
 しばらくして、小雨も降りだしてきた。
 確か南方のサンポアスティ国って、雨が大干ばつで降らなくなったって言われているんだった。

 俺はサンポアスティ国の気持ちがさっぱりわからなかった。

 グレード・シャインライン国から資源を奪うとか、食料を奪うとか、そうじゃないだろう。侵略して奪って、一体何が残るんだ。

 午前中はさすがに眠いので、みんなで仮眠を取り朝食を摂ると、さあ、出発だ。

「鬼窪くん。じゃ、行くわよ。早く乗りなさい」
「鬼窪。こっちには絶対乗るな」

 霧を運ぶ風が強くなってきた。
 橋の上で、マルガリータの大きな箒には俺が乗り、隣の通小町はマルガリータのと比べると幾らか小さい箒に跨り、そこにガーネットが乗った。

「飛んで!」
「飛べー!」

 二人の掛け声で猛スピードで二つの箒が、遥か南へと飛んだ。
 だけれど、通小町はフラフラと、まるで箒が酔っているかのような飛び方だった。でも、通小町の後ろに乗っているガーネットは意外に涼しい顔だった。
 
「あ! 濃霧で視界が悪いから偵察の意味ないかも!!」
「ふふふふふふ……今頃、気が付いたか、私は目星は付いている。さあ、私について来い!」

 マルガリータはやっぱりどこか抜けていた。けれども、通小町はフラフラとしながら、海と山のあるここから南西部の一点に向かう。そこには……ああ。ソーニャも連れてくれば良かったんだ。と、思うほど、見事な海と緑に囲まれた城と城下町があった。 

 グレード・シャインライン国の本国だ。

 そこは白一色で統一されている建造物の国だった。広大な国土を保有しているだけあって、中央にある王城も周囲を囲む幾重もの城壁。その城壁に挟まる形のたくさんの城下町も光が宿るほどの乳白色の建物ばかりだった。
 
「ここが……俺が今まで守っていた国……」
「そうよ……ここがグレード・シャインライン国の本国。王城には今は誰もいないけどね」

 かなりの高度を、飛んでいる箒の前に座るマルガリータはこちらに向かって、ニッコリ微笑んだ。
 
 その隣へフラフラと今も酔っ払い運転をする箒が近づいてきた。

「ふふふふふふ……あれが私の国……私の国……」
「なあ、鬼窪? この聖女様は、さっきから何を言ってるんだ?」

 酔ったような飛び方の箒で、空を飛んでいる通小町の後ろに座ったガーネットが通小町を不思議がる。

「ああ、気にしないでいいよ。そういう奴なんだよ」
「そうか……」
「ウッキーー! この秀才をーーー!! ……それより、攻めてくるぞ。サンポアスティ国がここを真っ先に」
「どういう意味だ?」

 俺の問いに、通小町は分厚いメガネを少しずり上げて、ニンマリとした。 

「ふふふふふふ……そうか……わからないか。鬼窪にはわかないよな。だが、マルガリータならわかるだろう。まずはラピス城よりも本国を攻めて、補給物資を絶ってラピス城を消耗戦に追い込むんだよ。つまり弱めていくんだ。鬼窪。戦いっていうのは、常にイージス理論が通用するんだ。相手を何らかの形で弱体化できれば、弱い勢力でも勝てるんだ」

 俺はムッとして反論をする。

「なんで? 女王のグレード・バニッシュ・スターがあるじゃないか?」
「いや、それは関係ないんだ」
「へ??」

 通小町は度の強そうなメガネを掛け直して、チッチッチっと、顔の辺りで人差し指を左右に振る。

 俺は首を傾げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

生まれ変わったら飛べない鳥でした。~ドラゴンのはずなのに~

イチイ アキラ
ファンタジー
生まれ変わったら飛べない鳥――ペンギンでした。 ドラゴンとして生まれ変わったらしいのにどうみてもペンギンな、ドラゴン名ジュヌヴィエーヴ。 兄姉たちが巣立っても、自分はまだ巣に残っていた。 (だって飛べないから) そんなある日、気がつけば巣の外にいた。 …人間に攫われました(?)

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

処理中です...