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第六章:名もなき毒

反保_6-3

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「邪魔する気?」

 反保が有栖の横に並ぶと、彼女は飛田にそう問いかけた。その声には力が入っており、返答次第では排除する気概が伝わってくる。
 一方で反保も考えていた。

 ――もし彼が邪魔をするなら、僕が相手をすべきだ。

 棚神選手のもとにむかうのは早ければ早いほど良い。そうなると身体能力的に有栖が適している。飛田を引き止め、有栖を動けるようにするのが得策だ、と反保は判断した。

「先輩、ここは――」

 反保がこそりと有栖に話しかけたときだ。

「――――だ」
「え?」
「ここを先に進んで、右手の階段を降りて真っ直ぐ行ったところにある階段を降りて更に先だ。それで棚神選手の控室に最短で行ける」

 飛田は左の人差し指を立てて、話しながら動かす。

「……協力してくれるのか?」

 反保は困惑していた。邪魔をしてくるだろうと考えていた相手が真逆の行動をしているのだからその反応は解らないでもない。

「信じられるの? その情報は」
「信じる信じないは任せる。でも、急いだ方がいいんじゃないのか?」

 有栖の疑惑の眼差しと声に対しても、彼は感情を波立てることなく応える。

「先輩、信じましょう」

 反保は有栖にそう言った。

「根拠は?」
「邪魔をしたいのなら、ここで話すより人員を用いて封鎖すればいい。それをせずこのような言葉による惑わし方には違和感があるかと」
「そうね」
「それに……彼はこれまで自身の正義に対しては真摯だった。そこは変わっていないと信じたい」
「……解った」

 反保を尊重し、有栖は頷く。

「行くなら急げ。ヤングヒーローの二人も人払いのような動きをしていた。彼等も何かに気づいている。障害となり得るぞ」
「解った、恩にきる」

 そう言って、有栖は駆け出し、飛田の横を通り過ぎる。反保も続き、彼の横を通るときに、

「ありがとう」

 そう言葉にすると、飛田は振り向かず手をひらひらと動かして答えた。
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