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前世の記憶は突然に。
察しのいい人は……割と好感が持てますよ?
しおりを挟むこの新しいトイレは、瞬く間に村中に広がった。みんなトイレに困っていたのだ。
お父さんは、私の発案だし、技術を教えることについての対価をどうするかと聞いてきたけど、私は別して対価は欲しくなかったし、むしろどんどん広まって、みんなの生活が向上する方が最終的にいいことだと思ったので、できる謝礼をもらえば十分ってことにした。
使えるものにしたのはお父さんだし。
ほかの村から噂を聞きつけてやってきた大工さんたちにも、技術を独占しないように、できるだけ広めるようにお願いして、作り方を教えて行った。
村長さんや神父さん、村の人たちにめちゃくちゃ褒められたり感謝されたりしたのはちょっと恥ずかしかったけど、世の中がいい方向へ向かうのはいいことだと思うのです。
トイレにいたく感動したという奥様の呼びかけで、村長さんのおうちに家族で招かれて、晩御飯をごちそうになった。
出されたものはうちよりちょっと豪華だった。
ナンかなとも思ったけど、昔おばあちゃんちで食べた小麦粉を溶いて焼いたノリ焼きみたいなものと、森イノシシのステーキ、塩と香味野菜で味付けしたミルクスープ。
村長さんちにはリトルモゥと言う野牛を家畜化した牛が数頭とコッカと言うこれまたにわとりみたいなのがいるので、玉子焼きも。
とても美味。うちにもほしいけど、家畜は飼育が大変だからね……雑草くらいじゃ牛は飼えない。
おいしいご飯を頂いたあとは、子供は子供でまとまって遊び、お母さんは奥さんと料理や家事の話、村長さんとお父さんが村のことを色々話していた。
領主の男爵がちょっとアレな人で、開拓村の開発というか、環境整備に全く興味がないらしく、なかなか運営は難しいって村長さんは渋い顔。
「ハイ! 村長さんに質問です!!」
右手を上げて、自己主張。大人の話に割り込もうとする私を、お母さんがたしなめようとしたけど、村長さんは面白いものを見た、みたいな顔で私の発言を許してくれた。
「なんでこの村、水路ないの?」
素朴な疑問ですよ。
すぐそこに川が流れているとはいえ、水汲みは大変な作業だ。
私が水まきをしているけれど、夏場は足りない日もあって水を運んでいる人は結構いる。
水路を付けたらもっと生活は楽になる。
うちは私がバカスカ水を生み出せるから別として、ほかのおうちはみんな大変そうなのだ。
村長さんのうちだって、家畜もいるし大変だろう。ここの土地、水の保水力ないし。
「……スイロ?」
村長さんもお父さんも、眉間にしわが寄って怪訝そうな顔。え、もしかして、ここには水路と言う概念そのものがない?
「えーっと……ね」
食器を移動して、テーブルにそれなりのスペースを開け、指先に水をまとって、テーブルに図を描く。
鉛筆っぽいものはお父さんが使ってるのを見かけたが、辺境ではあれも手に入りにくい高級品扱いだ。
「ここに川が流れててー このあたりに家があってー 畑でー 森でー 山」
にょろにょろの川、△と□で家、wで畑、木を書いて森、大きな三角で山。
「このあたりからー このあたりにー 水の道を付けたら、水汲み楽だよ? 水を引くの」
川の上流から『つ』みたいな感じで水で線を引いて、家と畑の間を降りて、また川にもどる。
「川の水を、引く?」
「幅はね、そんな広くなくて、大人がぴょんって渡れるくらいの溝を掘って、水を流すの。んで、使わなかった水はそのまままた川に戻るの。最初は大変だから細い水路で、水が足りないようなら、幅を広げたらいいと思うし、こう、家の間にも細い水路を付けてもいいと思う。村長さんちの前の広場に水場を作るとか」
「なんでこんな湾曲してるんだ?」
「んー こう、まっすぐに水を引くと、大雨とかで水かさが増した時、水路にドバーって水が入ってくるから、川に横向きにプスってかんじで、入り口にしないとダメなの。戻る方は別にこんなんじゃなくてまっすぐでもいいかもしれないけど、このあたり、土がカサカサだから、うまく水がゆっくり流れるようにしないとダメだと思う。たぶん」
「……リリ、それは誰の知識だ?」
「……」
真面目な顔の村長さん。ススーっと視線を逸らす。さぁ? 誰の知識かなー ちょっと調子乗っちゃったなー……
「まあいい。やっぱりお前は面白い子供だな。これからも何か思いついたら教えてくれ。とりあえずスイロ……水路、な。これから畑が忙しくなる。作業は秋口からだな。どこに引くかはじっくり考えるか」
私のあからさまなごまかしを、村長さんはスルーしてくれた。
うん、うちの村長さんは賢い村長さんですね。
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