奇跡と言う名のフォトグラファー

青木 森

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続章_66

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 そして現在―――
 手術室扉の前で無事に処置が終わる事を、ただひたすら祈る様な面持ちで待つ、ハヤテ、ヒカリ、サクラ。
 そこへ、
「東君!」
 血の気の引いた顔色をした四十代と思われる女性が、同年代の男性を伴い、駆け寄って来た。
「おばさん!」
 跳ねる様に立ち上がるハヤテ。
 二人はツバサの両親である。
 父親とは初対面なのか、取り急いだ様な会釈を小さくかわすと、
 ツバサの母親は、
「東君、ツバサは、ウチのツバサは大丈夫なのぉ!?」
「す、すみません……まだ分かりません……」
 五人が不安気な表情で『手術中』と表示された赤ランプを見上げると、
「「「「「!」」」」」
 表示がスッと暗くなり、処置が終わった事を知らせ、扉が開いた。
 同時に執刀医が姿を現し、駆け寄るツバサの両親。
「先生! ウチの娘は大丈夫なんですか!」
「ツバサは! ツバサは!!」
「親御さんですか? 先ずは落ち着いて下さい。大丈夫です」
 その言葉に、ホッと安堵するツバサの両親とハヤテ達。
「しかしお嬢さんは運が良い」
「「え?」」
「日頃から服の下に、タブレットやキーボードを隠し持っていたのですか? それが刃物の進行を食い止めていました。傷は思いのほか浅く済んでましたよ」
 小さな笑顔を向け合うツバサの両親。
 やがてストレッチャーに乗せられたツバサが手術室から出て来て、ツバサの両親はハヤテ達に会釈をすると、眠り続けるツバサと共に一般病床へ去って行った。
 責任を感じ、見送る事しか出来ないハヤテ。ツバサの両親達一行の姿が見えなくなると、
 ガァン!
「クソがァ!」
 怒り任せに壁を殴りつけた。
「ハーくん、自分を傷つけないでおくれぇ!」
 背後から抱き付くヒカリ。
 ハヤテは悔し気に奥歯を噛み鳴らし、
「分かってる! 分かってる……。でもアイツの、雷鳴に浮かび上がったアイツの口元は、笑ってやがったんだ! 傷ついて横たわるツバサを見下ろしてぇ!」
 かつてない怒りを見せるハヤテに、サクラは言葉を選びながら、
「ハヤテくん……犯人の顔は……?」
「クッ……」
 うつむき、無念そうに首を横に振るハヤテ。
「そうなんだ……」
 悲し気にうつむくサクラであったが、ハヤテはグッと怒りに満ちた顔を上げ、
「犯人は、黄先生を襲った奴と多分同じだ」
「ハーくん、どうしてそう言えるんだい?」
 ヒカリがハヤテの顔を覗き込むと、
「一瞬だったが、レインコートの下にウチの学校の制服が見えた」
「え!?」
「もしかしてそれって!」
「あぁ、間違いない。アレは男子の制服だ」
 気持ちを落ち着け、ツバサの病室を訪れるハヤテ達。
 父親から丁寧に面会は断られたものの、一週間ほどで退院出来る話を聞かされ、この日は一先ずそれぞれの帰路に着いた。

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