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109.向けられた悪意
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私が狼狽えていると、再び公爵と目が合った。
そして公爵は私の姿を眺めながら、再び口を開く。
「噂で貴女のことは聞いておりましたが、実際にお会いしてみると予想よりも随分と貧そ……、華奢な方なんですね」
(今、貧相って言おうとした……?)
公爵は愛想の良い笑みを振りまきながら話を進めていくが、私は変な引っかかりを感じて僅かに顔を歪ませた。
「ご挨拶がまだでしたね。私はクラウス・ハウラーと申します。アイロスの父であり、現国王の弟に当たります。これでも筆頭貴族の内の一つに数えられているので、当然ご存知かとは思いますが」
「……っ、ハウラー公爵様。以後、お見知りおきを……」
公爵の威圧的な雰囲気を感じ取り私は委縮してしまうが、なんとかその場を取り繕うように笑顔を浮かべて挨拶を返した。
相変わらず公爵は愛想笑いを浮かべているが、目が笑っていないことに気付くと、ぞくりと背筋に戦慄が走る。
先程の引っかかりは決して間違いではない。
この男は、私に敵意を向けている。
それが分かると急に怖くなり、私の体はカタカタと小さく震え始めた。
(この人、怖い……)
「父上、挨拶はもう宜しいですよね。俺達は先を急いでいるので失礼します。エミリー、行くぞ」
「は、はいっ!」
アイロスの声でハッと我に返り、歩き出そうとすると「待て」と公爵に呼び止められた。
私達は同時に男の方に視線を向けた。
「まだ何か?」
「……本当に平凡な娘だ。何故、殿下はこんな下流貴族の娘を選ばれたのか理解に苦しむな。シルヴィアのような華も全く感じられない。こんな場違いな人間が、同じ土俵に上がっていると考えるだけで忌々しく思えて来る」
アイロスが苛立った声を上げると、公爵は驚くべき言葉を次々と口に出し始めた。
私は驚きの余り固まっていた。
「……父上、今の発言はザシャ様に対する非難と受け取りますが、まだ続けるおつもりですか? それならば当然、覚悟もされているのですよね」
アイロスは敬語を使っているが、普段よりも低く聞こえる声質からは苛立っていることがはっきりと伝わってくる。
護衛の対象である私を庇おうとしているよりは、公爵にただならぬ敵意を向けているように思えてしまうのは気のせいなのだろうか。
普段から彼は口が悪いが、こんな風に感じたのは初めてだ。
彼の態度全てから、嫌悪感が滲み出ているように感じた。
「くだらない。どうせ、殿下がこのような令嬢に熱を上げておられるのは、一時的な気の迷いだろう。町娘のような令嬢が物珍しく見えて、火遊びでもしたくなったのではないのか?」
「そんな言い方、酷い……」
公爵は呆れたように肩を竦め、私のことを嘲るかのような視線で見下ろし言葉を吐き捨てた。
私はショックから、顔を顰めて思わず本音を声に出してしまう。
(これが本性……?)
「酷い……? ははっ、随分と欲深い令嬢だな。下流階級の令嬢が、本気で王太子の婚約者になれるとでも思っているのか? そうだとすれば笑えるな。都合の良い夢を見るのは勝手だが、後で泣きを見ることになるのはエミリー嬢、貴女になるのですよ。候補になれて良い夢を見ることが出来た。その辺で満足しておけばいいものを……」
「父上っ! 口が過ぎます。このことはザシャ様に全て報告します」
私が震えていると、アイロスは間に入り私の視界から公爵を消してくれた。
(アイロスさん……)
この場に彼がいてくれたことに、私は心底感謝していた。
「ふん、好きにすれば良い。だがな、これだけは覚えておくといい。私は力も財力もある公爵家の人間だ。男爵家の一つくらい、捻り潰すのは訳もない。欲張り過ぎると、全てを失うことになるかもしれない」
公爵の声はひどく冷血だった。
私は今、この男に脅迫されているのだろう。
アイロスのおかげで公爵の表情は見ずに済んでいるが、それでも体の震えは止まらなかった。
「これは忠告だ。エミリー嬢がまともな考えの持ち主であることを願うよ。それから、アイロス。今日はお前がシルヴィアの元に戻れるように、陛下に進言しに来たんだ。あの子の幸せを願っているのであれば、お前も正しい選択をすることだ」
「……っ」
アイロスは掌を強く握りしめたまま、何も言わなかった。
公爵は言いたいことを一方的に話し終えると、私達の前から静かに去って行った。
私は今、目の前で起きた出来事が未だに信じられず、半ば放心状態で固まっていた。
アイロスがどうなのかは分からないが、彼もまた何も言葉を発しない。
私達は暫くの間、沈黙していた。
「……エミリー、さっきの男が言ったことは気にするな。あの人は、元からああいう人間だ」
「……っ、気にしないって……。アイロスさんのお父様なんですよね?」
アイロスはゆっくりとこちらに振り返ると、低い声で呟いた。
私に気を遣って声を掛けてくれたのは分かるが、あんなに酷いことを一方的に言われて、気にしないというのは無理がある。
それに、そんなことを話すアイロス自身も、未だに怒りが冷めていないように感じる。
私には分からないが、この親子の間には何か確執のようなものがあるのかもしれない。
「お前、気にするのはそこかよ。まずは自分の心配をしろよ」
「……っ、びっくりしました。こんなこと初めてで……。私、明らかに嫌われてますよね」
正直、なんて答えたら良いのか分からなかった。
こんな体験をしたのは初めてのことだし、その相手がアイロスの父親であるのだから尚更だ。
そして、時間が経ってもすごく嫌な気持ちは無くならない。
今の私は一体どんな顔をしているのだろう。
「そうだな。だけど、安心しろ。お前は俺達が守るって約束したからな。今日のことはザシャ様にも報告しておく。こんな話をすれば、ザシャ様も黙ってはいないはずだろうし、直ぐに何かしらの対処をしくれるはずだ。それと、……嫌な思いをさせて悪かったな」
「アイロスさんの所為では……」
私は当然アイロスの所為だなんて一ミリも思っていない。
寧ろ、私のことを庇ってくれたことに感謝しているくらいだ。
彼には色々と聞きたいことはある。
だけど、きっとアイロスも嫌な思いをして気が立っているはずだから、今は何も言わない方が良いと思い、私はそれ以上何も聞かなかった。
「とりあえず、行くか」
「はい……」
アイロスの言葉で私達は再び歩き出した。
しかしあんなことがあった後なので、私達の周りに漂う空気はとても重く感じる。
お互い黙り込み、足音だけが響いている。
歩きながら、以前彼等に言われたことを思い出した。
(やっぱり、貴族って怖い人も多いのかな……)
私は今まで貴族付き合いなんて殆どしたことがなかったので、全然分からない。
だけどザシャとアイロスは、敵意を向ける貴族から私を守るために離宮に閉じ込めた。
王都に行くことも禁じられた。
最初はそこまでするのは少しやり過ぎではないかと感じていたが、その意味が今漸く分かったような気がする。
力のある権力者ならば、私のような貧乏貴族なんて簡単に消すことが可能なのだろう。
理不尽すぎて悲しいけど、これが現実なんだと思う。
だからこそ、そこまで徹底させて私のことを守ろうとしてくれている。
(貴族って怖いな……)
今までザシャの傍にいたくて、私は一生懸命作法や勉学に励んできた。
だけど王太子の婚約者になれば、社交場に出る機会も必ずやってくるだろう。
その時、私は怖がらずに上手く対応することが出来るのだろうか。
アイロスのように堂々とした態度も取れないし、ザシャのように素顔を隠すことも恐らく出来ない。
そんな私は、悪意を持った貴族から簡単に爪弾きにされてしまうのではないだろうか。
良くないことばかりが脳裏に浮かび、私の不安は大きくなっていく。
「おい」
「……っ!」
私が俯きながら歩いていると、頭上からアイロスの声が聞こえて来て慌てて顔を上げた。
「お前、今何を考えている?」
「え?」
「どうせ、貴族が怖いとか思っているんじゃないか?」
「……っ、なんで分かるんですかっ!?」
図星を付かれて私が驚いた声を上げると、アイロスは深くため息を漏らした。
「あんなものを見せられたんだから不安になるのも分かるが、貴族が全て敵というわけではない。お前に敵意を向けて来る連中はほんの一握りだ」
アイロスは私の目をじっと見ながら、落ち着きのある声で続けていく。
「エミリーは既に陛下や王妃様から受け入れられている。ということは、王家はお前の味方に付いていると言うことだ。この意味、分かるよな」
「……っ、でもっ」
アイロスは私を励まそうとしてくれているのだろうか。
だけど、私の不安はそれだけでは消えない。
あんな風に罵られて、脅されて、恐怖心を受け付けられてしまったのだから当然だ。
「でも、じゃない。王家側に付いている貴族は多い。父上は王弟だが、大した力は持っていない。ああやって大口を叩いているだけで、お前には何も手出しは出来ないはずだ。以前お前がやっていた、ハッタリってやつだな」
「…………」
そんなことを言われても、確かな安心材料にはならなかった。
私の心には今も尚、不安が付きまとい、自然と表情も曇ってしまう。
「今日は中々俺の話を認めないな。まあ、無理もないか……。この後、王妃様と会うことになるのだから、相談してみるか」
「え!?」
「不安要素は早めに摘み取っておいたほうがいいだろ」
「でも、それってアイロスさんのお父様が不敬罪とかになりませんか?」
私がついそんなことを聞いてしまうと、彼は大袈裟にため息を漏らした。
「お前、本当馬鹿だな。俺のことよりも今は自分の心配をしろよ。お前に何かあれば、ザシャ様だって悲しまれる。折角体調が良くなってきたのに、お前の所為でまた色々悩ませるのか?」
「それは困りますっ!」
アイロスは目を細めて、私を責めるように見つめてきた。
私は顔を歪め、慌てて答えた。
「困るよな。だったら、今は俺の意見に従っておけばいい」
「……はい」
結局アイロスに押し切られる形になってしまったが、本当に大丈夫なのだろうか。
父親を裏切るような行為をすれば、彼自身が咎められる可能性だってあるというのに。
どうして、アイロスは私のことをそんなにも優先してくれるのだろう。
ザシャの忠実な従者と言うことは知っているが、アイロスにとってはデメリットばかりだ。
だからこそ、そこまでしてくれる理由が私には分からなかった。
そして公爵は私の姿を眺めながら、再び口を開く。
「噂で貴女のことは聞いておりましたが、実際にお会いしてみると予想よりも随分と貧そ……、華奢な方なんですね」
(今、貧相って言おうとした……?)
公爵は愛想の良い笑みを振りまきながら話を進めていくが、私は変な引っかかりを感じて僅かに顔を歪ませた。
「ご挨拶がまだでしたね。私はクラウス・ハウラーと申します。アイロスの父であり、現国王の弟に当たります。これでも筆頭貴族の内の一つに数えられているので、当然ご存知かとは思いますが」
「……っ、ハウラー公爵様。以後、お見知りおきを……」
公爵の威圧的な雰囲気を感じ取り私は委縮してしまうが、なんとかその場を取り繕うように笑顔を浮かべて挨拶を返した。
相変わらず公爵は愛想笑いを浮かべているが、目が笑っていないことに気付くと、ぞくりと背筋に戦慄が走る。
先程の引っかかりは決して間違いではない。
この男は、私に敵意を向けている。
それが分かると急に怖くなり、私の体はカタカタと小さく震え始めた。
(この人、怖い……)
「父上、挨拶はもう宜しいですよね。俺達は先を急いでいるので失礼します。エミリー、行くぞ」
「は、はいっ!」
アイロスの声でハッと我に返り、歩き出そうとすると「待て」と公爵に呼び止められた。
私達は同時に男の方に視線を向けた。
「まだ何か?」
「……本当に平凡な娘だ。何故、殿下はこんな下流貴族の娘を選ばれたのか理解に苦しむな。シルヴィアのような華も全く感じられない。こんな場違いな人間が、同じ土俵に上がっていると考えるだけで忌々しく思えて来る」
アイロスが苛立った声を上げると、公爵は驚くべき言葉を次々と口に出し始めた。
私は驚きの余り固まっていた。
「……父上、今の発言はザシャ様に対する非難と受け取りますが、まだ続けるおつもりですか? それならば当然、覚悟もされているのですよね」
アイロスは敬語を使っているが、普段よりも低く聞こえる声質からは苛立っていることがはっきりと伝わってくる。
護衛の対象である私を庇おうとしているよりは、公爵にただならぬ敵意を向けているように思えてしまうのは気のせいなのだろうか。
普段から彼は口が悪いが、こんな風に感じたのは初めてだ。
彼の態度全てから、嫌悪感が滲み出ているように感じた。
「くだらない。どうせ、殿下がこのような令嬢に熱を上げておられるのは、一時的な気の迷いだろう。町娘のような令嬢が物珍しく見えて、火遊びでもしたくなったのではないのか?」
「そんな言い方、酷い……」
公爵は呆れたように肩を竦め、私のことを嘲るかのような視線で見下ろし言葉を吐き捨てた。
私はショックから、顔を顰めて思わず本音を声に出してしまう。
(これが本性……?)
「酷い……? ははっ、随分と欲深い令嬢だな。下流階級の令嬢が、本気で王太子の婚約者になれるとでも思っているのか? そうだとすれば笑えるな。都合の良い夢を見るのは勝手だが、後で泣きを見ることになるのはエミリー嬢、貴女になるのですよ。候補になれて良い夢を見ることが出来た。その辺で満足しておけばいいものを……」
「父上っ! 口が過ぎます。このことはザシャ様に全て報告します」
私が震えていると、アイロスは間に入り私の視界から公爵を消してくれた。
(アイロスさん……)
この場に彼がいてくれたことに、私は心底感謝していた。
「ふん、好きにすれば良い。だがな、これだけは覚えておくといい。私は力も財力もある公爵家の人間だ。男爵家の一つくらい、捻り潰すのは訳もない。欲張り過ぎると、全てを失うことになるかもしれない」
公爵の声はひどく冷血だった。
私は今、この男に脅迫されているのだろう。
アイロスのおかげで公爵の表情は見ずに済んでいるが、それでも体の震えは止まらなかった。
「これは忠告だ。エミリー嬢がまともな考えの持ち主であることを願うよ。それから、アイロス。今日はお前がシルヴィアの元に戻れるように、陛下に進言しに来たんだ。あの子の幸せを願っているのであれば、お前も正しい選択をすることだ」
「……っ」
アイロスは掌を強く握りしめたまま、何も言わなかった。
公爵は言いたいことを一方的に話し終えると、私達の前から静かに去って行った。
私は今、目の前で起きた出来事が未だに信じられず、半ば放心状態で固まっていた。
アイロスがどうなのかは分からないが、彼もまた何も言葉を発しない。
私達は暫くの間、沈黙していた。
「……エミリー、さっきの男が言ったことは気にするな。あの人は、元からああいう人間だ」
「……っ、気にしないって……。アイロスさんのお父様なんですよね?」
アイロスはゆっくりとこちらに振り返ると、低い声で呟いた。
私に気を遣って声を掛けてくれたのは分かるが、あんなに酷いことを一方的に言われて、気にしないというのは無理がある。
それに、そんなことを話すアイロス自身も、未だに怒りが冷めていないように感じる。
私には分からないが、この親子の間には何か確執のようなものがあるのかもしれない。
「お前、気にするのはそこかよ。まずは自分の心配をしろよ」
「……っ、びっくりしました。こんなこと初めてで……。私、明らかに嫌われてますよね」
正直、なんて答えたら良いのか分からなかった。
こんな体験をしたのは初めてのことだし、その相手がアイロスの父親であるのだから尚更だ。
そして、時間が経ってもすごく嫌な気持ちは無くならない。
今の私は一体どんな顔をしているのだろう。
「そうだな。だけど、安心しろ。お前は俺達が守るって約束したからな。今日のことはザシャ様にも報告しておく。こんな話をすれば、ザシャ様も黙ってはいないはずだろうし、直ぐに何かしらの対処をしくれるはずだ。それと、……嫌な思いをさせて悪かったな」
「アイロスさんの所為では……」
私は当然アイロスの所為だなんて一ミリも思っていない。
寧ろ、私のことを庇ってくれたことに感謝しているくらいだ。
彼には色々と聞きたいことはある。
だけど、きっとアイロスも嫌な思いをして気が立っているはずだから、今は何も言わない方が良いと思い、私はそれ以上何も聞かなかった。
「とりあえず、行くか」
「はい……」
アイロスの言葉で私達は再び歩き出した。
しかしあんなことがあった後なので、私達の周りに漂う空気はとても重く感じる。
お互い黙り込み、足音だけが響いている。
歩きながら、以前彼等に言われたことを思い出した。
(やっぱり、貴族って怖い人も多いのかな……)
私は今まで貴族付き合いなんて殆どしたことがなかったので、全然分からない。
だけどザシャとアイロスは、敵意を向ける貴族から私を守るために離宮に閉じ込めた。
王都に行くことも禁じられた。
最初はそこまでするのは少しやり過ぎではないかと感じていたが、その意味が今漸く分かったような気がする。
力のある権力者ならば、私のような貧乏貴族なんて簡単に消すことが可能なのだろう。
理不尽すぎて悲しいけど、これが現実なんだと思う。
だからこそ、そこまで徹底させて私のことを守ろうとしてくれている。
(貴族って怖いな……)
今までザシャの傍にいたくて、私は一生懸命作法や勉学に励んできた。
だけど王太子の婚約者になれば、社交場に出る機会も必ずやってくるだろう。
その時、私は怖がらずに上手く対応することが出来るのだろうか。
アイロスのように堂々とした態度も取れないし、ザシャのように素顔を隠すことも恐らく出来ない。
そんな私は、悪意を持った貴族から簡単に爪弾きにされてしまうのではないだろうか。
良くないことばかりが脳裏に浮かび、私の不安は大きくなっていく。
「おい」
「……っ!」
私が俯きながら歩いていると、頭上からアイロスの声が聞こえて来て慌てて顔を上げた。
「お前、今何を考えている?」
「え?」
「どうせ、貴族が怖いとか思っているんじゃないか?」
「……っ、なんで分かるんですかっ!?」
図星を付かれて私が驚いた声を上げると、アイロスは深くため息を漏らした。
「あんなものを見せられたんだから不安になるのも分かるが、貴族が全て敵というわけではない。お前に敵意を向けて来る連中はほんの一握りだ」
アイロスは私の目をじっと見ながら、落ち着きのある声で続けていく。
「エミリーは既に陛下や王妃様から受け入れられている。ということは、王家はお前の味方に付いていると言うことだ。この意味、分かるよな」
「……っ、でもっ」
アイロスは私を励まそうとしてくれているのだろうか。
だけど、私の不安はそれだけでは消えない。
あんな風に罵られて、脅されて、恐怖心を受け付けられてしまったのだから当然だ。
「でも、じゃない。王家側に付いている貴族は多い。父上は王弟だが、大した力は持っていない。ああやって大口を叩いているだけで、お前には何も手出しは出来ないはずだ。以前お前がやっていた、ハッタリってやつだな」
「…………」
そんなことを言われても、確かな安心材料にはならなかった。
私の心には今も尚、不安が付きまとい、自然と表情も曇ってしまう。
「今日は中々俺の話を認めないな。まあ、無理もないか……。この後、王妃様と会うことになるのだから、相談してみるか」
「え!?」
「不安要素は早めに摘み取っておいたほうがいいだろ」
「でも、それってアイロスさんのお父様が不敬罪とかになりませんか?」
私がついそんなことを聞いてしまうと、彼は大袈裟にため息を漏らした。
「お前、本当馬鹿だな。俺のことよりも今は自分の心配をしろよ。お前に何かあれば、ザシャ様だって悲しまれる。折角体調が良くなってきたのに、お前の所為でまた色々悩ませるのか?」
「それは困りますっ!」
アイロスは目を細めて、私を責めるように見つめてきた。
私は顔を歪め、慌てて答えた。
「困るよな。だったら、今は俺の意見に従っておけばいい」
「……はい」
結局アイロスに押し切られる形になってしまったが、本当に大丈夫なのだろうか。
父親を裏切るような行為をすれば、彼自身が咎められる可能性だってあるというのに。
どうして、アイロスは私のことをそんなにも優先してくれるのだろう。
ザシャの忠実な従者と言うことは知っているが、アイロスにとってはデメリットばかりだ。
だからこそ、そこまでしてくれる理由が私には分からなかった。
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