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第一章:聖女から冒険者へ

33.魔法都市ジースへ

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 私達は無事に旧坑道を抜けることが出来て、そこから二時間程歩いたところで魔法都市ジースの入口へと到着した。
 今日は天候があまり良く無かった為、残念ながら叶わなかったが、晴れていれば外からでも天空に浮かぶジースの街を眺めることが可能だと聞く。

 ジースの入口は神殿の様な建物の中にあった。
 冒険証を提示して中に入ると、中心には転送装置が置かれていた。

「これが転送装置……?」

 中心は円のように丸くなっていて、その周りを囲むようにクリスタルが並びゆっくりと回転している。
 クリスタルは青色でキラキラと輝いていた。
 これだけでも私の好奇心は掻き立てられる。

(すごく綺麗……)

「ルナは転送装置を見るのは初めてだったな」
「うん」

 イザナの言葉に、私は嬉しそうに頷いた。
 そして中心まで移動すると、円の中に入る。
 私は落ち着きがなさそうに辺りをきょろきょろと見渡していた。

「ここから天空まで一瞬で転送されるわ。怖い事なんて何もないから安心してね。それじゃあ行くわよ」

 ソフィアが横に置かれている台の上に手を添えると床が光始めた。
 私が驚いていると辺りは眩しい位の光に包まれ、私は目を開けていることが出来なくなりぎゅっと強く瞑ってしまう。

「ルナ、着いたよ。歩けるか?」
「え……? もう着いたの!?」

 隣から優しいイザナの声が聞こえて来て私はゆっくりと瞳を開くと、先程と同じような円の中に立っていた。
 本当に一瞬のことで私は戸惑ってしまう。
 イザナはそんな私の反応を微笑ましく眺めながら、手を取ってくれて歩き出した。

 内部は先程と大して変わらなかったけど、外に出た瞬間風景は一変した。
 中央にある島が、空の上に浮かんでいるではないか。
 恐らく中央だけではない。

 街の周りには薄っすらと雲がかかっていて、街全てが空の上に浮かんでいるのだろう。
 周囲に視線を巡らせると、多くの建物が密集しているように見える。
 そして一際目立っている中央に浮かぶ島には、城のような大きな建物が構えていた。
 更に奥に視線を向けて見ると、街をすっぽりと取り囲むように透明のドームがかけられているようだ。
 恐らく外敵からこの街を守るためのバリアのようなものなのだろう。

(……すごい)

 私は初めて目にする光景全てに圧倒され、言葉を出すことを忘れてしまう程に見入っていた。

「驚くよな」
「……う、浮いてるよっ! 街が浮いてるっ!!」

 耳に入って来たイザナの言葉に、私は何度も首を縦に振った。
 私は予想以上の衝撃に、興奮気味に答えてしまう。

「ふふっ、初めて来たら皆驚くわ。まさに今のルナさんみたいにね」
「久々に来たけど、相変わらず人が多いなー」

 ゼロは辺りを見渡しながら呟いた。

「ここは魔術師の聖地だからね。それに魔術関係の物なら大体ここに来れば揃うから、各地から人が集まってくるのよ」

 私はソフィアの説明を関心しながら聞いていた。
 魔術師の聖地と言うのも、この光景を見れば簡単に納得出来てしまう。

「とりあえず、ルナさんはこの街は初めてみたいだから街を案内しよっか?」
「お、お願いしますっ!」

 それからソフィアにこの街を案内してもらった。
 色んな場所に小さな転送装置があり、それらを使うと移動が楽に出来るようだが、街の中は入り組んでいる場所が多く存在しているので迷ってしまいそうだ。

「とりあえず一通り説明したけど、今日は沢山歩いたし疲れたわよね?」
「ああ、そうだな。今日は移動を多くしたからルナも疲れているだろうし、私達は宿屋を探してゆっくりするよ」

 ソフィアはおすすめの宿屋を紹介してくれて、私達は暫くそこに滞在することになった。
 今日は歩き疲れたのでギルドには明日行くことにした。

「ソフィアはここには泊まらないのか?」
「ええ、私は別の所に用意してあるわ。それと、一度戻って来たことを報告しておきたいから、今日はここで解散にしましょうか」

「ああ、分かったよ。ソフィア、今日は案内ありがとう。本当に助かったよ」
「ふふっ、いいのよ。私達の仲じゃない。それじゃあ、皆さん。ゆっくり休んでね」

「ありがとな!」
「ソフィアさん、ありがとうございます」

 私達はソフィアに挨拶をすると、彼女は去って行った。


 ***


 宿泊する部屋の中に入ると、私の足元がふらついた。
 なんだか体が怠い気がする。
 今日は沢山歩いたから疲れてしまったのだろうか。

「ルナ、大丈夫か?」
「うん、ちょっと疲れちゃったみたい」

 すぐにイザナが支えてくれて、私は転ばずにすんだ。
 イザナは心配そうに私の顔を覗き込んできた。

「顔が赤いな。息も少し荒いようだし、熱があるんじゃないか?」
「寒いから風邪引いちゃったのかな?」

 私はへらっと笑うと、イザナはそのまま私のことを横向きに抱き上げた。

「無理をするな。体調が悪いなら我慢しないで言ってくれていいんだよ。ルナはすぐ我慢しようとするからな」
「……っ、ごめんなさいっ」

 私が謝ると、彼は「謝らなくていいよ」と優しい声で言った。
 そして私をベッドまで運んでくれた。

「ルナはここで休んでいて。後で色々買って来るよ」
「イザナ、ありがとう……」

 イザナは心配そうな顔で私のことを見つめると、頬を優しく撫でてくれた。
 それが擽ったくて、それでいてどこか嬉しかった。

「今日は疲れたんじゃないか? こんなに沢山歩いたのは久々だからな。ルナはこのまま少し寝ていいよ」
「うん……、そうするね」

 ベッドに横になると、重力で体が沈んで行くような気がして、一気に力が抜けて行くようだ。
 それが気持ち良くて、だけど少し怠く感じて、私はゆっくりと目を閉じだ。

 私が眠るまでイザナは傍にいてくれて、私の髪を優しく撫でてくれた。
 それがとても心地良くて、気付けば深い眠りの底へと落ちていった。
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