婚約者が好きなのは妹だと告げたら、王子が本気で迫ってきて逃げられなくなりました

Rila

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29.私は選ばれた②-sideニコル-

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 私はあの話を聞いた翌日に伯爵家へと連れて行かれた。
 迎えに来てくれたのは伯爵のみで、夫人の姿はそこには無かった。
 なんでも私の部屋の用意や、迎える準備に張り切っていると告げられた。
 そしてそこで、今回養子を取ることになった経緯を聞かされる。

「ニコル、君には聞いておいてもらいたいことがあるんだ」

 伯爵はどこか切なげな表情を浮かべ、そう話を切り出して来た。

 今から2年ほど前に娘を突然事故で失くした事、その事が原因で妻が精神的に病んで部屋に閉じ籠り気味になってしまった過去を聞かされた。
 あの時見た夫人の切な気な表情の意味が分かった気がした。

 そして伯爵は続ける。

「今回君を養子に迎え入れる事で、妻の心は良い方向に癒え始めてきている。たまにおかしなことを言ったり、亡くなった娘と重ねて見てしまう事もあるかもしれない。だけど、その時は気付かないふりをしてやり過ごして欲しい」

 伯爵の表情を見ていれば、本気で夫人の心配をしていることは分かる。
 そして、私を養子に迎え入れた本当の目的を知った。
 私は亡くなったその娘の身代わりとして、この屋敷に招き入れられた存在だと言うことを――。

 貴族が養子を迎え入れる理由なんて大体理由は決まっている。
 子供を授かることが出来なかった時か、今回のこの夫妻の様に身代わりにする為。
 他にも理由はあるだろうが、多くはこの二つだろう。


「分かりました……」
「最初からこんな変なお願いをしてしまいすまないね。それから、君は今日から私達の娘だ。だから何かあれば遠慮なく言ってくれ。私達は家族になったのだから、気を遣う必要なんてないからね」

 伯爵は優しい口調でそう告げた。

 貴族は少し怖い存在だとどこかで思っていたが、私を引き取ってくれたこのプラーム夫妻は二人共優しそうだ。
 他に二人の子供がいるそうだが、こんなに優しい夫妻の間に生まれた子供ならきっと優しいに違いない、と勝手に思い込み一人でほっとしていた。

 しかし後で知ることになるのだが、兄となるヨハンは騎士になる為の寄宿学校に行っている為不在とのこと。
 そしてもう一人の子供であるアリーセは、亡くなった双子の片割れらしい。

(とりあえずアリーセって子と仲良くすればいいのよね。うん、大丈夫。きっと上手くやれるわ)



 ***


 屋敷に到着すると、夫人とアリーセが出迎えてくれた。
 しかしアリーセはずっと俯いていて、私と顔を中々合わせてくれない。
 そこで私はアリーセの傍に近付き顔を覗き込んだ。

「……アリーセ様、わたしニコルと言います。よろしくお願いしますっ!」
「ひぁっ! い、いきなり驚かせないでっ!!」

 私が至近距離で挨拶をすると、アリーセはびくっと体を震わせ、驚いた勢いで床にぺたんと座り込んでしまった。

「だ、大丈夫ですか? ご、ごめんなさいっ……」
「……っ……」

 私は慌ててアリーセの前に手を差し伸べるも、アリーセは戸惑った顔をして一人で立ち上がり、伯爵の後ろに逃げ込んでしまった。

「全くこの子は。妹になるニコルにちゃんと挨拶くらい返しなさい」

 夫人は呆れた様子でアリーセの事を叱っていた。

「……まあまあ、アリーは人見知りな所があるからね。誰に対してもいつもこうなんだ。だから今日の所は多めに見てやってくれ」
「貴方はアリーには甘いんだから……」

 そんな会話が暫く続き挨拶を終えた後、私は夫人……、いや、今日から母になる人に連れられて廊下を歩いていた。
 来た時から感じていたが、屋敷は立派な作りで、外には大きな庭園もある。
 貴族の屋敷に入るのは初めてなので比較は出来ないが、この時の私は見るもの全てに驚かされていた気がする。

「ここが今日からあなたの部屋になる場所よ。一応揃えられるだけ揃えてみたけど、足りないものは後日用意するわ」
「……っ」

 私は部屋の入口に立ったまま、ぽかんと口を開けていた。

(ここが……、今日からわたしの部屋?)

 綺麗な淡いピンク色の壁紙が張られた部屋には、高価そうな家具が多数並べられている。
 奥には天蓋付きの大きなベッドまで見える。

「服も既製品にはなるけどニコルのサイズに合うものを用意しておいたわ。使用人達には湯浴みの準備をさせているから、まずはそこからね」
「……す、すごい……」

 私は呆気に取られる様に声を漏らした。

「ふふっ、今日からあなたは私の娘で伯爵令嬢になるのだから当然のことよ。この生活に慣れるまでには少し時間がかかるかと思うけど、私も協力するから一緒に頑張っていきましょうね」
「は、はい。お、お母様と……、呼んでも良いのでしょうか?」

 私が動揺しながら答えると、母は驚いたような顔を一瞬見せた後、私の事をぎゅっと抱きしめた。

「ええ、そうよ。今日からニコルは私の可愛い娘。だからそう呼んでくれると嬉しいわ」
「はい、お母様っ……」

 私は抱きしめ返す様にぎゅっと母の背中に腕を巻き付けた。

 血の繋がりはないけど、今日からこの人が私の母親だ。
 ずっと一人ぼっちだった私に家族が出来て、そして生活も一変した。


 ***


 姉であるアリーセの部屋は隣に位置していた。
 私は早くアリーセと仲良くなりたくて、しょっちゅうアリーセの部屋へと勝手に出入りしていた。
 しかし勝手に扉を開けて入って行くといつも怒られる。
 どうやらノックをして、返事を待ってから入らなければいけないと言うルールがあるらしい。
 だけど私はそんな事には慣れていなくて、いつも忘れて勝手に入って行ってしまう。


「アリーセ様、今使用人さんから焼き菓子を貰ったんですが、良かったら一緒に食べませんか?」
「……っ! いきなり入って来ないでっ……!」

 私が笑顔でアリーセの部屋の扉を開けると、怒声が響いた。
 怒っていると言うよりは、焦っている声に近いのかもしれない。

「あ、ノックするの忘れてしまいました。ごめんなさいっ」
「……っ、お菓子はあなたが一人で食べれば良いわ。私は要らないから出て行ってっ」

「で、でも、これすごく美味しそうよ? 本当にわたし一人で食べていいの?」
「……っ……」

 私がしょんぼりとした顔をしていると、アリーセは戸惑った表情を見せながらも「お菓子を食べるだけよ」と言って私を部屋の中に招き入れてくれた。

(ふっ、アリーセ様は押しに弱いのよね。本気で嫌がってる様には見えないし、態度が分かりやすいって言うか……)

「ありがとうございますっ」

 私は笑顔で答えると、中央にあるソファーの方へと進んで行く。

「ささっ、アリーセ様もこちらに座って一緒に食べましょっ」
「う、うん……」

 出会った頃のアリーセは私を避けている様に見えたが、最近は少し押せば受け入れてくれることが多くなった気がする。
 強引に仲良くなろう作戦が功を奏したと言ったところだろうか。


「あの、ニコル……」
「はい?」

「私は一応ニコルの姉だから、その……アリーセ様っていう呼び方はそろそろやめて欲しい、……かも」
「それじゃあ、お姉様って呼んでもいいですか?」

 アリーセはもじもじした態度でそんな事を言って来たので、私は少し考えた後に『お姉様』と呼んでみた。
 するとアリーセは照れた様に僅かに頬を赤く染めていた。

(あ、顔が赤くなってる。そう呼んで欲しいのかな?ほんと分かりやすい人だな……)

「……っ、いいわ。ニコルは私の妹だし、許すわっ!」
「ふふっ、じゃあ今日からお姉様って呼びますね。アリーセお姉様」


 私達の距離が縮まるのにはそう時間はかからなそうだ。
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