婚約者が好きなのは妹だと告げたら、王子が本気で迫ってきて逃げられなくなりました

Rila

文字の大きさ
20 / 36
連載

28.私は選ばれた①-sideニコル-

しおりを挟む
 私の名前はニコル。
 教会の入口の横で、ひっそりと毛布に包まれた状態で置かれているのを見つけられた、それが私だ。
 私は生まれてすぐに捨てられた。
 だから本当の両親には一度も会った事が無いし、名前や顔すら分からない。
 その後、私は孤児院へと送られ、8年間そこでの生活を送っていた。
 私に『ニコル』と名前を与えてくれたのはシスターだった。

 孤児院には私みたいな家の無い子供が数十人いて、教会に贈られる貴族からの寄付金で生活が成り立っている。
 その為最低限の食事と、薄汚い大部屋で眠っている。
 昼間は孤児院の掃除をしたり、栽培した野菜を市場に売りに行ったり、あとは私よりも小さい子供のお世話をしたりして過ごしている。
 決して満足出来るような暮らしでは無かったが、まだ幼い私には働き口も無いし他に行く当てなどなく、仕方が無いことだと諦めていた。
 もう少し大きくなれば冒険者になったり、外での仕事を見つけることが出来るようになり、今よりはましな生活が送れるはずだ。
 だからもう少しの辛抱だと自分に言い聞かせ耐えていた。

 そして月に数回、綺麗に着飾った貴族達がやって来ては、甘いお菓子や果物などを配ってくれる。
 私も当然お菓子などを貰えることを楽しみにしていたが、いつか私もあんな風に高価な服装を身に付けてみたいと、心の中で妄想なんかして一人で楽しんでいた。


 ***


 そんなある日の事、私はシスターに呼ばれた。
 呼ばれた部屋に入ると、最近たまに見かける貴族の夫妻の姿がそこにはあった。

 私は何だろう?と不思議そうに顔を傾けると、不意に夫人と視線が合った。
 ドキッとして視線を泳がせていると、夫人は私に向けて優しそうに微笑み、更にドキドキしてしまう。


「ニコル、貴女に良い知らせよ。こちらのプラーム夫妻が、貴女の事を養子にしたいとおっしゃっているの」
「……え?」

 突然の言葉に私の頭は追い付いて行かなかった。

 だけど過去にもここにいた孤児の中から、貴族に養子として引き取られて行く者の姿を目にしたことがあった。
 そして今回は私が選ばれたんだと徐々に実感が沸き上がっていく。

(わたし、貴族になれるの? 憧れている綺麗なお洋服とか、着れるの?)

 そう思うに連れて私の中ではいくつかの感情が生まれていく。
 この窮屈な生活から抜け出せるという安堵感、ずっと憧れていた貴族の生活を送ることが出来る期待。
 だけどそれと比例する様に私なんかがやって行けるのだろうかという不安も大きかった。
 色々な感情が入り混じり、私は不安にも似た困惑した表情を浮かべていたのかもしれない。

 そんな事を考えていると、夫人が私の目の前まで歩いて来た。
 私の前に到着すると、身を屈めて私と同じ視線になる様に、床に膝を付き、そっと私の頬に綺麗な手を添えた。
 体は細く、少し病的にやつれているように見えるが、それでも私の瞳には綺麗な人のように映って見えた。
 そしてそんな人に触れられていることにドキドキしてしまう。

「そんな困ったような顔はしなくて平気よ。突然こんなことを言われたら驚くわよね。だけど、私の娘になってはくれないかしら…?あなたのこと、大切にするって誓うわ」

 夫人は真直ぐに私の瞳を見つめていた。
 その瞳はひどく優しくて、穏やかな表情に見えていたが、どことなく哀愁を漂わせるような雰囲気を感じた。

「……わたしで、いいんですか?」

 私はその言葉を聞いて一度唾を飲み込むと、震えた声で問い返した。

「ええ、あなたがいいの」

 夫人は私の震えている手を優しく包み込む様に握ると、小さく微笑んだ。
 その手から伝わって来る夫人の体温を感じると、感情が昂り私の目からは熱いものがぽろぽろと零れて落ちていった。

 私は今まで誰にも必要とされたことなんて無かった。
 生まれてすぐに捨てられて、これから先も孤児の私の事など求めてくれる人なんて誰一人いないと諦めていたからだ。
 だからこんな風に私を選んでくれて、私を必要としてくれる人が一人でもいると知った瞬間、本当に嬉しくて涙が止まらなかった。

(わたし、生きてて良かった……)

 大袈裟かも知れないが、その時は本気でそう思った。


 その時の私は本当にそれが嬉しかった。
 だけど貴族の暮らしに慣れていくに連れて、その時感じた気持ちは徐々に薄れて良く。
 そして私は欲に溺れ、生まれた頃から何もかもを持っていた姉のアリーセに対して激しく嫉妬心を抱く事となる。

 この時の感謝の気持ちを持ち続けていれば、私はあんなにも堕ちていく事は無かったのかもしれない。
 全ての始まりはアリーセの婚約者であるルシアノと出会ったあの日だ。

 私は初めてルシアノを見た瞬間、彼に一目惚れをしてしまった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

【書籍化】番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました

降魔 鬼灯
恋愛
 コミカライズ化決定しました。 ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。  幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。  月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。    お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。    しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。 よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう! 誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は? 全十話。一日2回更新 完結済  コミカライズ化に伴いタイトルを『憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜』から『番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました』に変更しています。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。