婚約者が好きなのは妹だと告げたら、王子が本気で迫ってきて逃げられなくなりました

Rila

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31.私は選ばれた④-sideニコル-

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 以前お父様が言っていた言葉の意味はこの屋敷に来てから直ぐに分かった。
 お母様は異常なまでに私には優しい。
 理由はただ一つ、私を死んだ娘に重ねて見ているということだ。
 お母様の瞳には私ではなく、この世から突然消えてしまった亡き娘の姿が映っているのだろう。

「ニコル、あなたは何色が好き?」
「私が好きな色はブルー……「あら、ピンク?ふふっ、そうよね。昔からあなたは淡いピンクが好きだったものね」

 私が答えようとすると、お母様は微笑みながら言葉を重ねた。
 この場合私の返答を遮る様に、と言った様が正しいのかもしれない。

「…………」
「ニコル? ……どうしたの?」

 私が戸惑った顔で固まっていると、お母様はずいっと顔を近づけ問いかけてくる。

 確かに表情は微笑んでいる様に見えるのだが、その目は全く笑っていない。
 そして送られてくる視線はいやに鋭く、その瞳が肯定する事を強く訴えているように見えて背筋に悪寒が走る。

(……この人、こわい……)

 そう感じたが、そのまま言葉に出すことなんて出来ない。

「い、いえ。私が好きな色はピンクです」
「ふふっ、そうよね。あなたには可愛らしいピンクがお似合いよ。今度一緒にお買い物に行きましょ」

 私は平常心を必死に保ちながら、震えない様に声を絞り出していた。
 お母様はそんな私の心情には気付くことも無く、明るい声で話を進めて行く。

「はい、楽しみにしてますっ……」

 最初はその態度に戸惑ってしまったが、お父様の言葉を思い出して笑って誤魔化し、なんとかその場をやり過ごすことが出来た。

 私が微笑むとお母様は嬉しそうな顔をして、私の好きな物をなんだって買い与えてくれる。
 だから私はいつしかこんな風に考えるようになっていった。
 私はお母様の望む娘を演じよう、上手く出来ればその報酬を受け取ることが出来る、と。
 その方が割り切って考える事が出来て私自身も楽だと感じたからだ。
 幼いながらも逆らっても良い事など何一つないと、分かっていたのだろう。

 それからの私はとにかく贅に溺れるような生活を送っていた。
 憧れていた高価なドレスも数えられないくらい沢山買って貰ったし、キラキラと光り輝く宝飾品だって沢山持っている。
 折角なら素敵なドレスに負けない様に、自分自身を磨いてもっと美しくなりたいと思うようになり、毎日数時間かけて体と髪の手入れを使用人達にしてもらうようになった。
 気持ちの良いマッサージを施され、心と体から余分な力を抜くことが出来る至福な一時だった。

(こんなに気持ちが良くて、綺麗になれるなんて最高ね。やっぱり貴族って素敵だわ……)


 ***


 そして貴族になったからには、それなりの教養とマナーを身に付けなければならないそうだ。
 最初は家庭教師を雇ってもらっていたのだが、教え方が下手過ぎだったり退屈過ぎて全くやる気が出ない。
 私がクビにしたり、向こうから勝手に辞めていったりすることが何度も続き、その間に何人も人間が入れ替わっていった。
 私は孤児だったので教育なんて受けたことは無かったし、読み書きすら出来ない酷い有様だった。
 それでもなんとか読み書きくらいまでは出来るようになっていった。

 そこで次は優秀なお姉様に白羽の矢が向けられたのだが、お姉様は確かに勉強は出来る。
 しかしお姉様の教え方はお世辞にも上手いとは到底言えないものだった。

「お姉様、言ってる意味が全く分かりません!」
「……っ!!」

 お姉様は自習は得意だが、人に教えることに関しては家庭教師以下だった。
 だけどそのおかげで次はルシ様に見てもらえることになった。
 別に狙ってそうしていたわけではなかったのだが、結果的には一番望んだものになった。
 そしてルシ様の教え方は他の誰よりも分かりやすかった。



 私の家庭教師に任命されたルシ様は、私の部屋へと来ていた。
 本当は二人きりでも良かったのだが、お姉様も同席することになった。

 私は机の前に座り、横にはルシ様が座っていて、お姉様は中央にあるソファーに腰掛けながら静かに自習をしている。

「あ、分かりますっ! こういうことなんだ……」
「そうそう。こうやって考えていくとニコルには分かりやすいかもしれないね」

 私は目をキラキラと輝かせ思わず感動した声をあげてしまう。
 隣で私を見ているルシ様もどこか安心した様子で、優しく微笑んでいた。

(やっぱり、ルシ様ってすごいな。教え方も上手いなんて、このままルシ様に勉強見てもらいたいな……)

「ありがとうございます、さすがルシ様ですっ! お姉様とは大違い……」
「……っ…」

 私はチラッとお姉様の方に視線をやって、小さく呟いた。
 お姉様はそれに気付いたのか、ペンを持っている手の動きがぴたっと止まった様だ。

(やばっ、声に出ちゃった……)

 私は悪意があってそう言ったわけでは無い。
 思わず本音が漏れてしまったのだ。

「ニコル、そんなことは言わないであげて。アリーはあまり人に教える機会がないから不得意なだけだよ」
「お姉様、ごめんなさい……」

 苦笑いを浮かべながらルシ様がそう答えると、私はその流れでお姉様に謝った。

「別にいいわ。私はあまり人に教えたことがないから、そのやり方を良く知らないだけよっ! 私だってやり方さえ覚えたら、ルシより上手く教えられる筈よっ!」

 相変わらずお姉様は強がるような台詞を吐き、ルシ様は「ははっ……」と苦笑していた。

「私、これからもルシ様に勉強をみてもらいたいわっ! だめですか?」

 私は上目遣いで伺うようにルシ様の瞳を見つめていた。

「それは……」

 私の言葉を聞いたルシ様は少し困った表情を浮かべ、お姉様の方に視線を流していた。

「お姉様も賛成してくれますよね?」
「……ルシがいいのなら別に構わないとは思うけど。でもルシにだってやる事はあるのだから、あまり邪魔しては迷惑よ」

「うん、アリーが良いって言うのなら僕は構わないよ。週に二回程度でも構わない?元々毎週それくらいはこちらの屋敷には来ていたからね」
「嬉しいですっ! ルシ様に見て貰えるなら、私絶対に頑張れると思いますっ!」

 私は笑顔で答えた。

(やったわ! ルシ様にこれから勉強を見て貰えるなんて、嬉し過ぎるわっ……!)

 それから学園に通うようになるまで、毎週ルシ様に勉強を見て貰えることになった。
 もちろん傍にはお姉様もいるので二人きりになる機会は殆ど無かったのだが、それでもルシ様に勉強を見て貰えると言う事がすごく嬉しかった。
 その事でやる気もグンと上がり、私は目覚ましい程に知識を身に付けていった。

 頑張ればルシ様に褒めてもらえる、それが私の原動力に繋がっていったのだろう。


 ***


 そして月日は流れ、この屋敷に来てから七年が過ぎ、私は十五歳を迎えていた。
 七年も経てば貴族の生活が体に染みついて行き、孤児だったことなんて遠い過去の記憶の一部になっていた。

 成長期を迎えるとともに私は大人っぽい風貌へと変化し、特に異性からは持て囃される様になっていく。
 自分の為にしてきた自分磨きが結果的に良い方向に現れた様だ。
 ちやほやされることは嫌では無かったし、褒められる事は素直に嬉しいものだ。
 それは私の事を認めてもらえるということだから。


 私はこの春から貴族学園へと通う事になる。
 ちなみにお姉様は王立学園の方に通っている。
 王立学園は身分関係なく受験は可能だが、完全に能力主義な為、知識が乏しい私には到底通えるような場所では無かった。
 お姉様は昔から成績が良かったので、王立学園にはトップに迫る成績で合格したそうだ。

 私が通うことになる貴族学園は貴族であれば能力に関係なく入学することが出来る。
 そしてこの貴族学園にはルシ様も通っている。
 だから余計に楽しみだった。

 そしてここから私の人生はまた大きく動き始める。
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