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5.予想以上にドキドキしてしまう

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 翌日から私たちは恋人同士に見えるように、学園では極力一緒にいることになった。
 登校して暫くすると教室にルーカスがやって来る。

「ミア、おはよう」
「おはようございますっ、ルーカス様」

 彼は優しい声で挨拶をすると、自然な感じで私の手に触れる。
 けれど、突然手を握られた私は驚いて顔を上げた。
 僅かに頬に熱が灯り、体が火照っていくのが自分でも良く分かる。

(手を触れられただけで動揺してしまうなんてだめなのに……、恥ずかしいっ!)

 これは演技であるため、私たちが仲のいい恋人であるように見せなくてはならない。
 しかし、私がこんなにもがちがちに緊張していては、それが台無しになってしまう。
 
(これは演技……! そう演技なのっ! ルーカス様のように私もちゃんと演じないと……)

 そう自分に強く言い聞かせても、やはり羞恥を抱いてしまう。
 私は周りの顔を見る余裕がなく、あえなく俯いてしまった。

「手を握っただけなのに、今日も顔が真っ赤だ。本当に素直で愛らしいな、ミアは」

 ルーカスは私の耳元で不意に囁く。
 耳に彼の熱のかかった吐息が触れて、私はびくっと体を震わせた。

「ミア、少しいいかな?」
「はい」

 私が小さく頷くとルーカスは「じゃあ、行こうか」と言って、私の手を引いて歩き出す。
 ルーカスの掌は少しひんやりと感じた。
 きっと、体温が低いのだろう。
 私はそんなことを考えて、別のところに意識を向けようと必死だった。

 私たちはそのまま廊下へと向かった。

 ***

「ミア、顔を上げて? ここならあまり生徒も通らないし、照れるフリをしなくても大丈夫だよ」
「え? 振り……?」

 私はぽかんとした表情のまま顔を上げる。

「もしかして、本気で照れていたのか?」
「……っ!」

 私がその言葉を聞いて恥ずかしそうにしていると、ルーカスは可笑しそうにクスクス笑い始めて、さらに羞恥が強まっていく。

「ミアは嘘を付けないんだね。そういうところ、素直でいいと思うよ」
「……っ、からかわないでくださいっ!」

 私は恥ずかしそうに顔を上げてルーカスをムッと睨んだ。
 すると廊下を歩く生徒とすれ違いざまに視線が合ってしまい、再び恥ずかしくなってしまう。

「ミア、こっちにおいで」

 そんな私の態度に気づいた彼はそう声を掛けると、私を壁側に寄せた。
 ルーカスは細身だけど身長は高いので、重なるように並んでいれば私の姿は周りからは隠れるのだろう。
 そんな気遣いをしてくれる彼に、思わず胸がときめいてしまいそうになる。

「ミアはずっと恥ずかしそうにしていたから、それどころではなさそうだったけど、教室では割と視線集めていたよ、俺たち。ミアが初々しい姿を見せてくれたおかげで、俺たちの関係はある程度伝わったんじゃないかな」
「それはっ、いきなりルーカス様が手を握るからっ!」

「急に俺に恋人のフリを頼んできたくらいだから、切羽詰まっていたんだろう? だからこれくらいやったほうがいいかと思ったんだけど」
「たしかにそうだけど……」

 ただ喋っているよりは、手を触れていたほうがより親しく見えるのは納得できる。
 だけど思った以上に私は動揺し過ぎてしまう。
 ルーカスに触れられると、それだけで私の鼓動は高鳴ってしまうのだ。
 恐らく異性に触れられる経験がほぼないから、慣れていないだけなのだとは思うけど。

(私からお願いしたくせに、こんなに動揺しちゃうなんて……)

 彼に対して、少し申し訳なさを感じてしまう。
 一日も早く、彼に触れられることへの耐性をつけなければと心の中で決意した。
 そんなことを話していると、予鈴が校内に鳴り響く。

「もうこんな時間か。俺はそろそろ戻るけど、昼休みは一緒に過ごそう」
「はいっ! あの、私、今日お昼ご飯作ってきたんです。こんなことに巻き込んでしまったので、なにかお礼できることはないかなって思ったら、これくらいしか浮かばなくて」

 私が慌てて答えるとルーカスはふっと小さく笑った。

「俺のために作ってきてくれたのか? すごく嬉しいよ。昼休みを楽しみにしてるな」

 ルーカスは優しい口調で答えると、私の額にそっと口づけた。
 ふわりとした感覚はあったが、それがなにかすぐには理解できなかった。

「じゃあ、また昼休みにな」

 ルーカスはそう言うと自分の教室へと戻って行った。
 彼がいなくなった後、私は慌てて額に手を当てる。

(今、ここには誰もいないのに、なんで……)

 顔の奥からじわじわと熱が籠っていくのを感じる。
 今はフリをしなくてもいいのに、彼は私の額にそっと口付けた。
 まるで本当の恋人みたいだと、錯覚してしまいそうになる。

「あ、私も戻らなきゃ……!」

 その後、私も教室に戻ろうとすると扉の前にいたオリヴァーと視線が合った。
 私はすぐに視線を下に向けて通り過ぎようとする。

「……君って、ああいう男が好みなんだな」

 すれ違い際に私の耳にそんな声が響いてきた。

「そうですけど、悪いですか?」

 私はオリヴァーを一瞥すると、さらっと流すように答えて教室の中へと入った。
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