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10.特別
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翌日、私はいつものように学園に来ていた。
そして隣には見慣れてたルーカスの姿がある。
彼が私の隣に立っていると思うと、それだけで学園生活が華やかに思えてくる。
ルーカスに出会えたことで、最悪だった学園生活がこんなにも楽しいものへと変わったのだから。
(恋人がいる人って、皆こんな気分なのかな……)
そう思うと少しだけ羨ましく思えてきてしまう。
私たちは本物の恋人同士ではない。
目的が遂げられたら離れなくてはならない。そういう関係だ。
私が登校して間もなくすると、ルーカスが教室まで顔を出してくれる。
普段よりも少し早起きになったが、彼と過ごす朝のひとときの時間は、私にとっては楽しみの一つになっていた。だから苦に感じたことなんてない。
毎日こうやって彼が私に会いに来てくれるおかげで、私たちが恋人同士であることも周知されてきているようだ。
私が一人で過ごす時間も減ったため、ローゼマリーや、攻略対象者たちから絡まれる機会も殆どなくなり、平穏な学園生活がやっと送れるようになっていた。
本当に彼には感謝しなければならない。
(……やっぱり、どう見ても別人だよね)
私がルーカスの横顔を眺めていると、その視線に気づいたのか彼がこちらへと顔を向けた。
突然目が合いドキッと心臓が飛び跳ね、私は反射的に視線を逸らしてしまった。
「……ミア? どうした?」
「ううん、何でもないよっ」
私は笑いながら誤魔化すと、ルーカスは「そうか」とだけ答え、それ以上は聞いてくることはなかった。
きっといつものように照れているだけだと思われたに違いない。
「あのっ、ルーカス様」
「……どうした?」
「やっぱり顔を見られるのは嫌ですか?」
「え?」
私は再び視線を彼に戻し、何気なく問いかける。
ルーカスは自分のことを冴えない顔だと言っていたが、私には優しそうな顔に見えた。
それに決して、酷い顔をしているというわけでもない。
表情が見えないまま話すのは、彼の感情が読み取れないから不安になる時がある。
それに、一番の理由はルーカスの色んな表情を私は見てみたいのだと思う。
彼のことをもっと知りたい。
「私、やっぱりルーカス様と目を合わせてお話したいです」
「…………」
私がそう答えると、ルーカスは黙ってしまった。
(やっぱり、嫌だったのかな)
「いきなりこんなこと言って困らせちゃいましたよね。ごめんなさ……」
「そう、だよな。でも俺、ずっとこの髪型を通してきたから、最初はミアの前だけでも構わないか?」
私が謝ろうとすると、彼の声が重なった。
彼の雰囲気からして怒っている様子もなさそうだ。
「も、もちろんですっ!」
私は嬉しそうな声を上げ、はにかみながら答えた。
(やった……! 言って良かった)
込み上げてくる嬉しさを必死に胸の中で抑えてはいるが、もしかしたら顔に出ているのかもしれない。
「そんなに俺の顔が見たいか?」
「はい、見たいですっ。……もっとルーカス様の色々な一面を知りたいので。それに今までルーカス様と色々お話してきたけど、声を聞いている限り無表情だなんて私には思えませんっ。嬉しそうな声だったり、優しそうな声だったり、その時々で聞こえかたも全然違ってました。だったら、表情だって違うと思います。私はそんな色んなルーカス様の姿を見てみたい」
もし本当に無表情と言うのならば、私が引き出してみたいとさえ思った。
私がはしゃぐように一方的に喋り続けていると、不意にルーカスに抱きしめられた。
ふわりと空気が揺れて、彼の優しい匂いに包まれる。
「……っ! ルーカス、様?」
私は突然のことに驚いて声を上げた。
「ミアは本当に可愛いことばかり言うな。俺を喜ばせる才能がある」
「……っ!」
ルーカスは私の耳元で小さく囁いた。私にだけ聞こえる声量で。
私の体温は徐々に上がって行き、胸の音もうるさいくらいにバクバクと激しく鳴っている。
「体が火照っているように感じるけど、もしかして照れているのか?」
「……っ、だ、誰のせいだと!」
私はルーカスの胸に額を押し付け、顔を隠したまま文句を言った。
「今のミアの表情こそ、見てみたいが」
「……か、からかわないでっ」
ルーカスは息を吹きかけるように、私の耳元で意地悪そうに囁く。
私は思わずビクッと体を震わせてしまい、消えそうな小さな声で呟いた。
からかわれて悔しいけど、ルーカスに抱きしめられることは嫌ではない。
「……ミア、そろそろ教室に戻ったほうがいいんじゃないか? ギリギリまでこうしていたいのなら、別に構わないけど」
「……っ!!」
私はどうやら無意識でルーカスにぎゅうっと抱き着いていたようだ。
恥ずかしくなり、慌てるようにぱっと彼の体から離れた。
(私、どさくさに紛れて何してるの……!)
そしてルーカスから離れた瞬間、ここが廊下だったということを思い出す。
朝の登校の時間は、この廊下を通る生徒たちがいるというのに。
それすらも忘れてしまっていたようだ。
「ミアのおかげで、俺たちが仲の良い恋人同士だって噂がまた広まるな」
ルーカスは楽しそうな口調で話していた。
「私って、もしかして演技上手いのかな」
「演技? どう見ても本気で照れていたくせに」
私が誤魔化そうとすると、ルーカスに即突っ込まれた。
彼に言い当てられてしまい、私が困っていると不意に名前を呼ばれる。
「ミア、ちょっとこっちを向いて」
「……え?」
私が顔を上げた瞬間、額になにか温かいものが触れた。
「仕上げだ。これで完璧だろう」
「……っ!!」
今額に触れたものがルーカスの唇だったことに気づくのには、時間はかからなかった。
私の顔は見るみるうちに赤く染まっていく。
「本当に、ミアは素直な反応をする」
ルーカスはどこか満足そうに呟き、自分の前髪を掻き上げた。
「いじめてばかりも可哀そうだから、好きなだけ俺の顔を見ていいよ。特別なミアのお願いならば、聞いてやらないとな」
「……っ」
目の前に現れたルーカスの顔は無表情なんかじゃなかった。
私を見つめるその表情は優しく微笑んでいて、眩し過ぎるくらいだった。
私は息をするのも忘れるくらい、ドキドキしていた。
彼に『特別』と言われたことが、すごく嬉しい。
こんな時に、そんなことを言うなんてずるいとさえ感じた。
そして隣には見慣れてたルーカスの姿がある。
彼が私の隣に立っていると思うと、それだけで学園生活が華やかに思えてくる。
ルーカスに出会えたことで、最悪だった学園生活がこんなにも楽しいものへと変わったのだから。
(恋人がいる人って、皆こんな気分なのかな……)
そう思うと少しだけ羨ましく思えてきてしまう。
私たちは本物の恋人同士ではない。
目的が遂げられたら離れなくてはならない。そういう関係だ。
私が登校して間もなくすると、ルーカスが教室まで顔を出してくれる。
普段よりも少し早起きになったが、彼と過ごす朝のひとときの時間は、私にとっては楽しみの一つになっていた。だから苦に感じたことなんてない。
毎日こうやって彼が私に会いに来てくれるおかげで、私たちが恋人同士であることも周知されてきているようだ。
私が一人で過ごす時間も減ったため、ローゼマリーや、攻略対象者たちから絡まれる機会も殆どなくなり、平穏な学園生活がやっと送れるようになっていた。
本当に彼には感謝しなければならない。
(……やっぱり、どう見ても別人だよね)
私がルーカスの横顔を眺めていると、その視線に気づいたのか彼がこちらへと顔を向けた。
突然目が合いドキッと心臓が飛び跳ね、私は反射的に視線を逸らしてしまった。
「……ミア? どうした?」
「ううん、何でもないよっ」
私は笑いながら誤魔化すと、ルーカスは「そうか」とだけ答え、それ以上は聞いてくることはなかった。
きっといつものように照れているだけだと思われたに違いない。
「あのっ、ルーカス様」
「……どうした?」
「やっぱり顔を見られるのは嫌ですか?」
「え?」
私は再び視線を彼に戻し、何気なく問いかける。
ルーカスは自分のことを冴えない顔だと言っていたが、私には優しそうな顔に見えた。
それに決して、酷い顔をしているというわけでもない。
表情が見えないまま話すのは、彼の感情が読み取れないから不安になる時がある。
それに、一番の理由はルーカスの色んな表情を私は見てみたいのだと思う。
彼のことをもっと知りたい。
「私、やっぱりルーカス様と目を合わせてお話したいです」
「…………」
私がそう答えると、ルーカスは黙ってしまった。
(やっぱり、嫌だったのかな)
「いきなりこんなこと言って困らせちゃいましたよね。ごめんなさ……」
「そう、だよな。でも俺、ずっとこの髪型を通してきたから、最初はミアの前だけでも構わないか?」
私が謝ろうとすると、彼の声が重なった。
彼の雰囲気からして怒っている様子もなさそうだ。
「も、もちろんですっ!」
私は嬉しそうな声を上げ、はにかみながら答えた。
(やった……! 言って良かった)
込み上げてくる嬉しさを必死に胸の中で抑えてはいるが、もしかしたら顔に出ているのかもしれない。
「そんなに俺の顔が見たいか?」
「はい、見たいですっ。……もっとルーカス様の色々な一面を知りたいので。それに今までルーカス様と色々お話してきたけど、声を聞いている限り無表情だなんて私には思えませんっ。嬉しそうな声だったり、優しそうな声だったり、その時々で聞こえかたも全然違ってました。だったら、表情だって違うと思います。私はそんな色んなルーカス様の姿を見てみたい」
もし本当に無表情と言うのならば、私が引き出してみたいとさえ思った。
私がはしゃぐように一方的に喋り続けていると、不意にルーカスに抱きしめられた。
ふわりと空気が揺れて、彼の優しい匂いに包まれる。
「……っ! ルーカス、様?」
私は突然のことに驚いて声を上げた。
「ミアは本当に可愛いことばかり言うな。俺を喜ばせる才能がある」
「……っ!」
ルーカスは私の耳元で小さく囁いた。私にだけ聞こえる声量で。
私の体温は徐々に上がって行き、胸の音もうるさいくらいにバクバクと激しく鳴っている。
「体が火照っているように感じるけど、もしかして照れているのか?」
「……っ、だ、誰のせいだと!」
私はルーカスの胸に額を押し付け、顔を隠したまま文句を言った。
「今のミアの表情こそ、見てみたいが」
「……か、からかわないでっ」
ルーカスは息を吹きかけるように、私の耳元で意地悪そうに囁く。
私は思わずビクッと体を震わせてしまい、消えそうな小さな声で呟いた。
からかわれて悔しいけど、ルーカスに抱きしめられることは嫌ではない。
「……ミア、そろそろ教室に戻ったほうがいいんじゃないか? ギリギリまでこうしていたいのなら、別に構わないけど」
「……っ!!」
私はどうやら無意識でルーカスにぎゅうっと抱き着いていたようだ。
恥ずかしくなり、慌てるようにぱっと彼の体から離れた。
(私、どさくさに紛れて何してるの……!)
そしてルーカスから離れた瞬間、ここが廊下だったということを思い出す。
朝の登校の時間は、この廊下を通る生徒たちがいるというのに。
それすらも忘れてしまっていたようだ。
「ミアのおかげで、俺たちが仲の良い恋人同士だって噂がまた広まるな」
ルーカスは楽しそうな口調で話していた。
「私って、もしかして演技上手いのかな」
「演技? どう見ても本気で照れていたくせに」
私が誤魔化そうとすると、ルーカスに即突っ込まれた。
彼に言い当てられてしまい、私が困っていると不意に名前を呼ばれる。
「ミア、ちょっとこっちを向いて」
「……え?」
私が顔を上げた瞬間、額になにか温かいものが触れた。
「仕上げだ。これで完璧だろう」
「……っ!!」
今額に触れたものがルーカスの唇だったことに気づくのには、時間はかからなかった。
私の顔は見るみるうちに赤く染まっていく。
「本当に、ミアは素直な反応をする」
ルーカスはどこか満足そうに呟き、自分の前髪を掻き上げた。
「いじめてばかりも可哀そうだから、好きなだけ俺の顔を見ていいよ。特別なミアのお願いならば、聞いてやらないとな」
「……っ」
目の前に現れたルーカスの顔は無表情なんかじゃなかった。
私を見つめるその表情は優しく微笑んでいて、眩し過ぎるくらいだった。
私は息をするのも忘れるくらい、ドキドキしていた。
彼に『特別』と言われたことが、すごく嬉しい。
こんな時に、そんなことを言うなんてずるいとさえ感じた。
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