8 / 66
第一章:私の婚約者を奪おうとしないでくださいっ!
8.王子の別の一面
しおりを挟む
私はエルネストに連れられるまま、廊下を並んで歩いていた。
普段は訪れたことの無い棟だったので、落ち着きの無い様子で辺りをきょろきょろと見渡していた。
「どうした?」
私の態度に気付いたエルネストが訪ねてくる。
「あの、どちらに向かっているのでしょうか」
「学園内に設けられている応接間だな。王族や高位貴族にはこういった部屋が個別に与えられているんだ。無論、この部屋には姉上も入って来ないから安心してくれ」
「そう、なんですね……」
私は未だに握られているエルネストの手に視線を向けた。
先程からこれの所為で私の緊張は解けないままだ。
「悪いな。この手は部屋に着くまでは解放しないよ」
「……っ!?」
「ぷっ、そんなに驚いた顔をして、本当に君は分かりやい反応をするんだな。だけど悪く思わないで欲しい。こうでもしない限り、君は直ぐに逃げようとするだろう?」
「……っ」
エルネストの言うとおりだったため、私の体はピクッと小さく反応した。
私の態度を見てエルネストはクスクスとおかしそうに笑っていた。
「少し話しをするだけだ。そんなに怖そうな顔で構えなくても平気だよ。……ここだな、着いたよ」
***
エルネストの足がピタッと止まると、扉をゆっくりと開いた。
内部は割と広々としていて、中央には寛げそうなふんわりとしたソファーが置かれている。
窓も大きいので日差しがいっぱいに入って来る。
そしてここは最上階なので、内部の様子を外から覗き見されることもなさそうだ。
「フェリシア嬢、入ってくれ」
「お、お邪魔します……」
私は緊張しながら応接間に一歩足を踏み入れた。
すると部屋の奥にいる、常駐していそうな執事と目が合いドキッとしてしまう。
「グラン、彼女はフェリシア・アルシェ嬢だ。私とは同級生であり友人だ。彼女にお茶を用意してもらえるか?」
「エルネスト様がご友人を連れて来られるなんて始めての事ですね。はい、今すぐにご用意いたします。フェリシア様、そちらのソファーにかけてお待ちください」
執事は私に向けてにっこりと愛想のいい笑顔で答えた。
エルネストが私の紹介をしてくれたおかげで、私は小さく頭を下げるだけだった。
そして「こっちにどうぞ」とエルネストに案内され、ソファーに腰かけた。
「この執事はグラン。幼い頃から私の身の回りの世話を任せている執事だ」
「優しそうな方なんですね」
私は執事を見てぽろっと漏らした。
「そうか?フェリシア嬢にはそのような姿に見えるんだな。だけどグランは使用人達の間では、それはそれは恐れられている存在らしいぞ」
「ええ!?そ、そうなんですか?」
私はその話を聞いて驚いた反応を見せると、思わずグランのことを二度見してしまった。
(全くそんな風には見えないけど。人って外見だけじゃ分からないんだ)
「ぷっ、くくっ……」
「……?」
私がそんなことを考えていると、前方から笑い声が僅かに聞こえてきた。
対面して座っているエルネストの方に視線を向けると、必死に笑いを耐えている様子だ。
「全く、エルネスト様は人が悪い。フェリシア様が驚いていますよ」
「ああ、悪い」
(もしかして、からかわれた!?)
「間違ってはないだろう?お前は使用人達の中ではボスのような存在だからな」
「ボス……」
私はつられるようにぼそりと呟いた。
王子であるエルネストの口から『ボス』なんて言葉が出てきたのが意外すぎて、面白くてつい吹き出してしまった。
「ふふっ」
そんな私の姿を見て二人もにこやかな表情を浮かべていた。
「フェリシア嬢、次からグランのことはボスと呼んで構わないよ」
「え……」
「エルネスト様、お戯れはその辺に。フェリシア様が困っておられますよ」
「そうか?先程までは楽しそうに笑っていたようだが?」
「あ……、ついおかしくなってしまって。も、申し訳ありませんっ」
私は失礼な態度を取ってしまったことに気付き、慌てるように謝った。
「気にしなくていい。面白いものを見れて私も満足しているからな。このグランを戸惑わせたフェリシア嬢は大したものだ」
「……っ」
今までエルネストに対しては少し怖いという印象を持っていた。
それは王族という地位があったからだろう。
だけど目の前にいる彼は執事をからかい、楽しそうに笑っている。
人間味を感じることが出来て、どことなく私はほっとしていた。
そんなやり取りをしていると、お茶の準備が出来てテーブルの上に並べてくれた。
それに加えて可愛らしい形の焼き菓子まで用意してくれたようだ。
「まずはお茶でも飲んで、一息つこうか」
「はいっ、いただきます」
私はカップを手に取り、一口喉に流し込んだ。
するとハーブの爽やかな香りが鼻から抜けて「はぁ」と、小さく息を吐くと強ばった体から余計な力が抜けていくようだ。
飲みやすい温度にあたためられているので、二口、三口と喉に流していく。
「すごく美味しいお茶です」
「気に入ってもらえたようで良かったよ。グラン、彼女におかわりを用意してやってくれ」
あっという間に飲み干してしまうと、直ぐにグランがお茶を注いでくれた。
「ありがとうございますっ」
「お菓子の方も宜しければお召し上がりくださいね」
その後私はお菓子にも手を付けて、美味しそうにパクパクと食べ始めてしまった。
本来の目的を完全に忘れ、一時の楽しいお茶の時間を堪能していた。
その頃には緊張が完全に消え失せ、リラックスした状態に変化していた。
エルネストの気さくな一面を見れたことも大きく影響していたのだと思う。
エルネストはその時を見計らい、話しを切り出した。
「落ち着いたところで本題と行こうか」
普段は訪れたことの無い棟だったので、落ち着きの無い様子で辺りをきょろきょろと見渡していた。
「どうした?」
私の態度に気付いたエルネストが訪ねてくる。
「あの、どちらに向かっているのでしょうか」
「学園内に設けられている応接間だな。王族や高位貴族にはこういった部屋が個別に与えられているんだ。無論、この部屋には姉上も入って来ないから安心してくれ」
「そう、なんですね……」
私は未だに握られているエルネストの手に視線を向けた。
先程からこれの所為で私の緊張は解けないままだ。
「悪いな。この手は部屋に着くまでは解放しないよ」
「……っ!?」
「ぷっ、そんなに驚いた顔をして、本当に君は分かりやい反応をするんだな。だけど悪く思わないで欲しい。こうでもしない限り、君は直ぐに逃げようとするだろう?」
「……っ」
エルネストの言うとおりだったため、私の体はピクッと小さく反応した。
私の態度を見てエルネストはクスクスとおかしそうに笑っていた。
「少し話しをするだけだ。そんなに怖そうな顔で構えなくても平気だよ。……ここだな、着いたよ」
***
エルネストの足がピタッと止まると、扉をゆっくりと開いた。
内部は割と広々としていて、中央には寛げそうなふんわりとしたソファーが置かれている。
窓も大きいので日差しがいっぱいに入って来る。
そしてここは最上階なので、内部の様子を外から覗き見されることもなさそうだ。
「フェリシア嬢、入ってくれ」
「お、お邪魔します……」
私は緊張しながら応接間に一歩足を踏み入れた。
すると部屋の奥にいる、常駐していそうな執事と目が合いドキッとしてしまう。
「グラン、彼女はフェリシア・アルシェ嬢だ。私とは同級生であり友人だ。彼女にお茶を用意してもらえるか?」
「エルネスト様がご友人を連れて来られるなんて始めての事ですね。はい、今すぐにご用意いたします。フェリシア様、そちらのソファーにかけてお待ちください」
執事は私に向けてにっこりと愛想のいい笑顔で答えた。
エルネストが私の紹介をしてくれたおかげで、私は小さく頭を下げるだけだった。
そして「こっちにどうぞ」とエルネストに案内され、ソファーに腰かけた。
「この執事はグラン。幼い頃から私の身の回りの世話を任せている執事だ」
「優しそうな方なんですね」
私は執事を見てぽろっと漏らした。
「そうか?フェリシア嬢にはそのような姿に見えるんだな。だけどグランは使用人達の間では、それはそれは恐れられている存在らしいぞ」
「ええ!?そ、そうなんですか?」
私はその話を聞いて驚いた反応を見せると、思わずグランのことを二度見してしまった。
(全くそんな風には見えないけど。人って外見だけじゃ分からないんだ)
「ぷっ、くくっ……」
「……?」
私がそんなことを考えていると、前方から笑い声が僅かに聞こえてきた。
対面して座っているエルネストの方に視線を向けると、必死に笑いを耐えている様子だ。
「全く、エルネスト様は人が悪い。フェリシア様が驚いていますよ」
「ああ、悪い」
(もしかして、からかわれた!?)
「間違ってはないだろう?お前は使用人達の中ではボスのような存在だからな」
「ボス……」
私はつられるようにぼそりと呟いた。
王子であるエルネストの口から『ボス』なんて言葉が出てきたのが意外すぎて、面白くてつい吹き出してしまった。
「ふふっ」
そんな私の姿を見て二人もにこやかな表情を浮かべていた。
「フェリシア嬢、次からグランのことはボスと呼んで構わないよ」
「え……」
「エルネスト様、お戯れはその辺に。フェリシア様が困っておられますよ」
「そうか?先程までは楽しそうに笑っていたようだが?」
「あ……、ついおかしくなってしまって。も、申し訳ありませんっ」
私は失礼な態度を取ってしまったことに気付き、慌てるように謝った。
「気にしなくていい。面白いものを見れて私も満足しているからな。このグランを戸惑わせたフェリシア嬢は大したものだ」
「……っ」
今までエルネストに対しては少し怖いという印象を持っていた。
それは王族という地位があったからだろう。
だけど目の前にいる彼は執事をからかい、楽しそうに笑っている。
人間味を感じることが出来て、どことなく私はほっとしていた。
そんなやり取りをしていると、お茶の準備が出来てテーブルの上に並べてくれた。
それに加えて可愛らしい形の焼き菓子まで用意してくれたようだ。
「まずはお茶でも飲んで、一息つこうか」
「はいっ、いただきます」
私はカップを手に取り、一口喉に流し込んだ。
するとハーブの爽やかな香りが鼻から抜けて「はぁ」と、小さく息を吐くと強ばった体から余計な力が抜けていくようだ。
飲みやすい温度にあたためられているので、二口、三口と喉に流していく。
「すごく美味しいお茶です」
「気に入ってもらえたようで良かったよ。グラン、彼女におかわりを用意してやってくれ」
あっという間に飲み干してしまうと、直ぐにグランがお茶を注いでくれた。
「ありがとうございますっ」
「お菓子の方も宜しければお召し上がりくださいね」
その後私はお菓子にも手を付けて、美味しそうにパクパクと食べ始めてしまった。
本来の目的を完全に忘れ、一時の楽しいお茶の時間を堪能していた。
その頃には緊張が完全に消え失せ、リラックスした状態に変化していた。
エルネストの気さくな一面を見れたことも大きく影響していたのだと思う。
エルネストはその時を見計らい、話しを切り出した。
「落ち着いたところで本題と行こうか」
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる