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第一章:私の婚約者を奪おうとしないでくださいっ!
22.信じられない心
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「あの、申し訳ありません。気分が優れなくて……」
私は眉を寄せて、か細い声で答えた。
この場から逃げるために思いついた口実だが、気分が悪いのは強ち間違ってはいない気がする。
寝不足も相まって、先程から頭がくらくらする。
「大丈夫か?……って顔色が真っ青じゃ無いか。直ぐに医者の手配を……」
「だ、大丈夫です。部屋で大人しく休んでいれば、きっと良くなるかと。今日は少し疲れてしまって……」
父は私の顔色を見るなり慌て始めたので、心配させないように直ぐに返した。
「そうか。それならば部屋に戻って休んでいなさい。オクレール侯爵、この話はまた後日改めてにして頂いても構わないだろうか」
「折角お越し頂いたのに申し訳ありません」
「勿論だ。こちらのことは気にしなくていい。フェリシア嬢の体調の方が大事だからな。こんな日に訪れてしまって済まなかったね」
こんなにも心配されてしまうと、嘘をついたことに罪悪感を覚えてしまう。
(ごめんなさい……)
「シア、部屋まで僕が連れて行くよ」
突然頼んでもいないのにロジェは立ち上がり、私の方へと近づいてきた。
しゃがみ込み、私の顔を心配そうに覗き込んで来る。
優しい態度をとられると胸の奥がもやもやして、何とも言えない気持ちになっていく。
(今更、優しくなんてされたくないのに……)
「だ、大丈夫……」
「そんなに具合が悪そうなのに放ってなんておけないよ。シアの部屋まで連れて行くよ」
旗から見たら、ロジェは気遣いの出来る優しい婚約者に見えるのかもしれない。
しかし、今はその姿すらも疑惑の目で見てしまう。
「こんな時くらい甘えてくれると嬉しいな。お願いだ。部屋まで連れて行かせて」
「……あ、ありがと」
とりあえず適当に答えた。
一番避けたかった相手だが、この状況で断ってしまえば二人から変に思われる可能性が高い。
私がここで拒絶したら、その理由を聞かれるかもしれない。
今は説明する気力も残っていないので、仕方なくロジェに部屋まで送って貰うことにした。
(最悪……。だけど早く部屋で休みたいし、我慢するしかないよね)
「シア、いこう。辛かったら僕に掴まっても構わないからね」
「大丈夫」
私は否定の意味を込めてそう答えた。
ロジェになんて触りたくない。
先程までミレーユが抱きついていた、この腕になんて触れたくなかった。
あんなことがなければ、誰よりも大好きな手だったのに。
***
私達は並んで廊下を歩いていた。
私は元々話す事なんて無かったし、ロジェも気まずいのか何も言ってこない。
この沈黙が更に空気を重くさせる。
「シア、怒ってる?」
不意にロジェが話しかけてきた。
私はその場に立ち止まった。
そんなことをわざわざ聞いて来るロジェに腹が立った。
「……怒ってるに決まってるじゃない。急に来て、どういうつもり?」
「ごめん。どうしてもシアを失いたくなかったんだ。早くしないと取り返しがつかなくなる気がして。だけど具合が悪いだなんて思わなかった。本当に、ごめん……」
ロジェは泣きそうな顔で何度も謝って来た。
そんな顔をされると胸が苦しくなるけど、私の気持ちが変わるわけでは無い。
「私、もうロジェの言葉なんて信じない」
「え?」
「信じて裏切られるのはもう沢山。私の気持ちを少しも考えてくれないロジェなんていらない。婚約は、無かったこと、に……」
喋っていると激しい目眩に襲われ、視界がぐらぐらと揺れ始めた。
(あ、あれ……?)
足元がおぼつかなくなった所為で、ふらふらとよろめいてしまう。
視界もぼやけ始め、傍にいたロジェの姿も次第に分からなくなっていく。
(あ、まずい……。もう立ってられないかも)
そう思っていると意識までも遠のいて行き、私はその場で倒れ込んでしまう。
倒れた時の衝撃を感じて顔を歪めた。
「シア!……シアっ!!」
遠くでロジェの叫ぶ声が響いているような気がする。
だけどその声はどんどん遠ざかっていく。
私の意識はそこでぷつりと途切れたようだ。
私は眉を寄せて、か細い声で答えた。
この場から逃げるために思いついた口実だが、気分が悪いのは強ち間違ってはいない気がする。
寝不足も相まって、先程から頭がくらくらする。
「大丈夫か?……って顔色が真っ青じゃ無いか。直ぐに医者の手配を……」
「だ、大丈夫です。部屋で大人しく休んでいれば、きっと良くなるかと。今日は少し疲れてしまって……」
父は私の顔色を見るなり慌て始めたので、心配させないように直ぐに返した。
「そうか。それならば部屋に戻って休んでいなさい。オクレール侯爵、この話はまた後日改めてにして頂いても構わないだろうか」
「折角お越し頂いたのに申し訳ありません」
「勿論だ。こちらのことは気にしなくていい。フェリシア嬢の体調の方が大事だからな。こんな日に訪れてしまって済まなかったね」
こんなにも心配されてしまうと、嘘をついたことに罪悪感を覚えてしまう。
(ごめんなさい……)
「シア、部屋まで僕が連れて行くよ」
突然頼んでもいないのにロジェは立ち上がり、私の方へと近づいてきた。
しゃがみ込み、私の顔を心配そうに覗き込んで来る。
優しい態度をとられると胸の奥がもやもやして、何とも言えない気持ちになっていく。
(今更、優しくなんてされたくないのに……)
「だ、大丈夫……」
「そんなに具合が悪そうなのに放ってなんておけないよ。シアの部屋まで連れて行くよ」
旗から見たら、ロジェは気遣いの出来る優しい婚約者に見えるのかもしれない。
しかし、今はその姿すらも疑惑の目で見てしまう。
「こんな時くらい甘えてくれると嬉しいな。お願いだ。部屋まで連れて行かせて」
「……あ、ありがと」
とりあえず適当に答えた。
一番避けたかった相手だが、この状況で断ってしまえば二人から変に思われる可能性が高い。
私がここで拒絶したら、その理由を聞かれるかもしれない。
今は説明する気力も残っていないので、仕方なくロジェに部屋まで送って貰うことにした。
(最悪……。だけど早く部屋で休みたいし、我慢するしかないよね)
「シア、いこう。辛かったら僕に掴まっても構わないからね」
「大丈夫」
私は否定の意味を込めてそう答えた。
ロジェになんて触りたくない。
先程までミレーユが抱きついていた、この腕になんて触れたくなかった。
あんなことがなければ、誰よりも大好きな手だったのに。
***
私達は並んで廊下を歩いていた。
私は元々話す事なんて無かったし、ロジェも気まずいのか何も言ってこない。
この沈黙が更に空気を重くさせる。
「シア、怒ってる?」
不意にロジェが話しかけてきた。
私はその場に立ち止まった。
そんなことをわざわざ聞いて来るロジェに腹が立った。
「……怒ってるに決まってるじゃない。急に来て、どういうつもり?」
「ごめん。どうしてもシアを失いたくなかったんだ。早くしないと取り返しがつかなくなる気がして。だけど具合が悪いだなんて思わなかった。本当に、ごめん……」
ロジェは泣きそうな顔で何度も謝って来た。
そんな顔をされると胸が苦しくなるけど、私の気持ちが変わるわけでは無い。
「私、もうロジェの言葉なんて信じない」
「え?」
「信じて裏切られるのはもう沢山。私の気持ちを少しも考えてくれないロジェなんていらない。婚約は、無かったこと、に……」
喋っていると激しい目眩に襲われ、視界がぐらぐらと揺れ始めた。
(あ、あれ……?)
足元がおぼつかなくなった所為で、ふらふらとよろめいてしまう。
視界もぼやけ始め、傍にいたロジェの姿も次第に分からなくなっていく。
(あ、まずい……。もう立ってられないかも)
そう思っていると意識までも遠のいて行き、私はその場で倒れ込んでしまう。
倒れた時の衝撃を感じて顔を歪めた。
「シア!……シアっ!!」
遠くでロジェの叫ぶ声が響いているような気がする。
だけどその声はどんどん遠ざかっていく。
私の意識はそこでぷつりと途切れたようだ。
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