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第二章:私の心を掻き乱さないでくださいっ!
52.悩ませるもの②
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人通りのない廊下に出ると私は勢い良く振り返り、エルネストのことをムッとした顔つきで睨み付けた。
しかしそんな表情を見せても、エルネストは一切戸惑った様子など見せることはなかった。
「どういうつもりですか?あんな場所でからかうなんて酷いですっ!」
「……からかう?」
「エルネスト様だって、私と変な噂が立ったら困るんじゃないんですか?」
「昨日、結構思い切った行動に出たつもりでいたけど、フェリシアにはあれでも足りなかったようだな」
私の質問を聞くと、エルネストは目を細め考えたように小さく呟いた。
そして鋭い視線を向けられ、ビクッとした私は後ろに一歩後退る。
エルネストは私に視線を向けながら、一歩前進し距離を詰めてくる。
「……な、なんですか?」
何歩か後ろに下がったところで、背中に壁がぶつかった。
私が視線を壁の方にチラッと向けた瞬間、横に手が伸びてきて逃げ道を塞がれる。
「本当にフェリシアは鈍感だな。だけど、私としては好都合だ。これからは遠慮無く口説き落とせるからな」
「……っ!?」
エルネストは私の額にそっと口付けた。
突然のことに私は目を見開き固まっていると、エルネストの口元が耳の方へと移動する。
「耳までこんなに真っ赤にさせて、可愛い」
「ひぁっ、やっ……」
耳元に吐息を吹きかけれて、逃れようと顔を傾けた。
すると息がかかるほどの距離にエルネストの綺麗な顔があり、心臓が止まるかと思った。
「君の反応は一々可愛すぎだ。私を喜ばせようとしてくれているの?もっと追いつめて困らせたくなるな」
「……っ」
エルネストの大きな掌が私の頬に触れる。
真っ直ぐに瞳を捉えられると吸い込まれそうになり、目を逸らすことが出来なくなる。
「抵抗しないってことは、こんな風に迫られたり、触れられたりしても嫌では無いと受け取るよ」
「……っ、ちょっと待ってくださいっ」
「なに?」
「これってからかってるんじゃ……」
私が戸惑いながら答えると、エルネストは困ったように笑った。
そして「はぁ……」と深くため息を漏らした。
「少し意地悪し過ぎたせいで、誤解を生ませてしまった様だな。私は好きでもない人間に触れたりなんてしない。距離を縮めたいと思ったのは、もっと君のことを知りたかったからだ。昨日も言ったけど、友人の立場で満足するつもりはないからな」
「……で、でも」
私が困惑した顔で答えようとすると、エルネストは私の手に触れ顔の前へと持ち上げた。
そして目の前で私の指にそっと口付ける。
突然こんなことをされて、全身沸騰するかのように体温が上昇していく。
「私にとってフェリシアは特別な存在だ。他の誰よりも、な。今はそれだけ伝えておくよ。残念だけど、そろそろ教室に戻らないとな」
「…………」
エルネストは名残惜しそうに私の手を解放すると、壁に添えている手も剥がした。
私がぼーっとした状態でその場に立ち尽くしていると、エルネストはクスッと小さく笑った。
「歩けないのなら手を貸そうか?」
そう言って私の前に手を差し出してきた。
私は思いっきり首を横に振った。
恥ずかしすぎて、手を伸ばすことなんて出来なかったからだ。
「そんなにあからさまに否定されると寂しいな」
「ち、違っ、これは……。……っ、ごめんなさい」
言葉とは裏腹に、エルネストの表情はどこか愉しそうに見えた。
それでも私は慌てるように謝ってしまう。
今の私に余裕なんてなかったからだ。
「いつまでもそこにいたら本当に遅刻するぞ。行こう」
「は、はいっ……」
エルネストに言われて、私は歩き出した。
並ぶようにして暫く歩いていると、エルネストは顔を私の方に傾け話し始めた。
「昨日の答え、放課後になったら聞かせて」
「え?」
「忘れたは無しだからな。その時に正解も教えてあげる」
「……っ」
エルネストの言葉にドキッとし、困惑した表情を見せてしまう。
(どうしよう……。なんて答えればいいの?)
「今日は一日中、そのことに頭を悩まされていそうだな」
「……誰のせいだと!」
隣から愉しげな声が響き、私はムッとした顔で言い返してしまう。
エルネストは満足そうな顔でこちらを見つめていた。
「どうして、そんなに嬉しそうな顔をしているんですか?」
「そんな顔に見える?」
完全にからかわれているような気分だ。
以前からエルネストは時折意地悪な姿を見せていたが、今日はその中でも特にそう感じた。
「フェリシアが私のことを考えて悩んでくれているのだと思うと、嬉しいなって感じただけだ。だけど、フェリシアにだけ悩ませてしまうのは申し訳ないから、私も今日はずっと君のことを考えておくことにするよ」
「……っ!」
エルネストは嬉しそうな顔で答えた。
耐えられなくなった私は、咄嗟に顔を逆側に向けてしまう。
バクバクと鳴り響く鼓動と、体の奥底から沸き立ってくる熱に呑み込まれどうにかなってしまいそうだ。
恥ずかしくてこの場から逃げ出したい。
だけどエルネストは追い打ちをかけるように私の手を掴んできた。
「……っ!?」
「俯いて歩くのは危ないぞ」
突然手を握られ顔を戻すと、再びエルネストと目が合ってしまう。
私はどうしていいのか分からなくなり、泣き出してしまいそうな顔を見せた。
「少し困らせてしまったようだな。ちゃんと前を向いて歩くのであれば、この手を解放してあげるよ」
私が小さく頷くと、少し残念そうな顔を浮かべながらエルネストは掴んでる掌を剥がした。
エルネストの体温が離れていくと、少し寂しさを感じてしまう。
私は掌をぎゅっと握りしめた。
胸の奥が熱くなり、エルネストの傍にいると自分が自分でなくなってしまうようでなんだか怖い。
こんなこと、今までに無かった感情だ。
(どうしよう……。私、エルネスト様のこと、好きになっちゃったのかな)
しかしそんな表情を見せても、エルネストは一切戸惑った様子など見せることはなかった。
「どういうつもりですか?あんな場所でからかうなんて酷いですっ!」
「……からかう?」
「エルネスト様だって、私と変な噂が立ったら困るんじゃないんですか?」
「昨日、結構思い切った行動に出たつもりでいたけど、フェリシアにはあれでも足りなかったようだな」
私の質問を聞くと、エルネストは目を細め考えたように小さく呟いた。
そして鋭い視線を向けられ、ビクッとした私は後ろに一歩後退る。
エルネストは私に視線を向けながら、一歩前進し距離を詰めてくる。
「……な、なんですか?」
何歩か後ろに下がったところで、背中に壁がぶつかった。
私が視線を壁の方にチラッと向けた瞬間、横に手が伸びてきて逃げ道を塞がれる。
「本当にフェリシアは鈍感だな。だけど、私としては好都合だ。これからは遠慮無く口説き落とせるからな」
「……っ!?」
エルネストは私の額にそっと口付けた。
突然のことに私は目を見開き固まっていると、エルネストの口元が耳の方へと移動する。
「耳までこんなに真っ赤にさせて、可愛い」
「ひぁっ、やっ……」
耳元に吐息を吹きかけれて、逃れようと顔を傾けた。
すると息がかかるほどの距離にエルネストの綺麗な顔があり、心臓が止まるかと思った。
「君の反応は一々可愛すぎだ。私を喜ばせようとしてくれているの?もっと追いつめて困らせたくなるな」
「……っ」
エルネストの大きな掌が私の頬に触れる。
真っ直ぐに瞳を捉えられると吸い込まれそうになり、目を逸らすことが出来なくなる。
「抵抗しないってことは、こんな風に迫られたり、触れられたりしても嫌では無いと受け取るよ」
「……っ、ちょっと待ってくださいっ」
「なに?」
「これってからかってるんじゃ……」
私が戸惑いながら答えると、エルネストは困ったように笑った。
そして「はぁ……」と深くため息を漏らした。
「少し意地悪し過ぎたせいで、誤解を生ませてしまった様だな。私は好きでもない人間に触れたりなんてしない。距離を縮めたいと思ったのは、もっと君のことを知りたかったからだ。昨日も言ったけど、友人の立場で満足するつもりはないからな」
「……で、でも」
私が困惑した顔で答えようとすると、エルネストは私の手に触れ顔の前へと持ち上げた。
そして目の前で私の指にそっと口付ける。
突然こんなことをされて、全身沸騰するかのように体温が上昇していく。
「私にとってフェリシアは特別な存在だ。他の誰よりも、な。今はそれだけ伝えておくよ。残念だけど、そろそろ教室に戻らないとな」
「…………」
エルネストは名残惜しそうに私の手を解放すると、壁に添えている手も剥がした。
私がぼーっとした状態でその場に立ち尽くしていると、エルネストはクスッと小さく笑った。
「歩けないのなら手を貸そうか?」
そう言って私の前に手を差し出してきた。
私は思いっきり首を横に振った。
恥ずかしすぎて、手を伸ばすことなんて出来なかったからだ。
「そんなにあからさまに否定されると寂しいな」
「ち、違っ、これは……。……っ、ごめんなさい」
言葉とは裏腹に、エルネストの表情はどこか愉しそうに見えた。
それでも私は慌てるように謝ってしまう。
今の私に余裕なんてなかったからだ。
「いつまでもそこにいたら本当に遅刻するぞ。行こう」
「は、はいっ……」
エルネストに言われて、私は歩き出した。
並ぶようにして暫く歩いていると、エルネストは顔を私の方に傾け話し始めた。
「昨日の答え、放課後になったら聞かせて」
「え?」
「忘れたは無しだからな。その時に正解も教えてあげる」
「……っ」
エルネストの言葉にドキッとし、困惑した表情を見せてしまう。
(どうしよう……。なんて答えればいいの?)
「今日は一日中、そのことに頭を悩まされていそうだな」
「……誰のせいだと!」
隣から愉しげな声が響き、私はムッとした顔で言い返してしまう。
エルネストは満足そうな顔でこちらを見つめていた。
「どうして、そんなに嬉しそうな顔をしているんですか?」
「そんな顔に見える?」
完全にからかわれているような気分だ。
以前からエルネストは時折意地悪な姿を見せていたが、今日はその中でも特にそう感じた。
「フェリシアが私のことを考えて悩んでくれているのだと思うと、嬉しいなって感じただけだ。だけど、フェリシアにだけ悩ませてしまうのは申し訳ないから、私も今日はずっと君のことを考えておくことにするよ」
「……っ!」
エルネストは嬉しそうな顔で答えた。
耐えられなくなった私は、咄嗟に顔を逆側に向けてしまう。
バクバクと鳴り響く鼓動と、体の奥底から沸き立ってくる熱に呑み込まれどうにかなってしまいそうだ。
恥ずかしくてこの場から逃げ出したい。
だけどエルネストは追い打ちをかけるように私の手を掴んできた。
「……っ!?」
「俯いて歩くのは危ないぞ」
突然手を握られ顔を戻すと、再びエルネストと目が合ってしまう。
私はどうしていいのか分からなくなり、泣き出してしまいそうな顔を見せた。
「少し困らせてしまったようだな。ちゃんと前を向いて歩くのであれば、この手を解放してあげるよ」
私が小さく頷くと、少し残念そうな顔を浮かべながらエルネストは掴んでる掌を剥がした。
エルネストの体温が離れていくと、少し寂しさを感じてしまう。
私は掌をぎゅっと握りしめた。
胸の奥が熱くなり、エルネストの傍にいると自分が自分でなくなってしまうようでなんだか怖い。
こんなこと、今までに無かった感情だ。
(どうしよう……。私、エルネスト様のこと、好きになっちゃったのかな)
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