14 / 50
第二章 彼の期待と僕の覚悟
竜、降臨
しおりを挟む
特にアルトとコーラルは薫以上の衝撃を受けたらしく、愕然と口を開いたまま大きく見開いた瞳でギランを見上げていた。
「ど、どういうことなんです、コーラルさん!?」
「確かに鎖でベッドに縛り付けておいたんだが……まぁ、団長だしな。やはり効果は無かったか」
「がはははっ!そんな飴細工みたいなモンで俺様の動きを封じようなんざ甘ぇんだよ!俺様を本気で止めたきゃ、オリハルコン製の鎖でも持ってこい!」
そう笑い声を上げるギランが放った二本の鎖が、落ちた先のコーラル達の足下でじゃらりと音を立てた。いかにも頑丈そうな鎖の先端は凄まじい力によって引きちぎられており、ギランの常人離れした怪力が窺える。
唖然とする薫達に対して、まるで自分の存在感を誇示するかのように一歩一歩階段を踏み締めながら、ギランが全員の集まる一階へと降りてきた。
「団長、昨晩のことはーーー」
「まぁ待て待て、説教の前に座らせろ。アルト、目覚めに効くすっげぇ強い酒とベーコンを炙ってくれ。切り方は辞典くらい分厚くな」
「また朝からお酒ですか?いいかげん体壊しますよ」
「俺は低血圧なんだよ。酒で無理矢理体温上げねぇと頭と体が働かねぇんだ。さて……」
ギランの瞳が椅子の上で縮こまる薫を見下ろした。昨夜ほどの強い欲求のようなものは感じないが、やはり記憶が鮮明に残る翌朝では薫の反応も已む無しだろう。
「よぉ、カオルぅ。隣、邪魔するぜ」
「へっ?あ、は、はい」
てっきり何かセクハラ紛いのことでも言われるかと思った薫であったが、ギランは予想外にもおとなしく薫の隣に腰掛けた。これにはコーラル達も拍子抜けだったらしく、若干肩から力が抜けたように見えた。
それは、薫も同じであった。深く息を吐き、今のギランが彼の本当の姿なのだと自分を納得させる。
その時であった。
「よっと」
「はい?」
薫の両脇に手を差し入れ、持ち上げるギラン。腰掛けていた椅子から離れる薫であったが、彼の手によってすぐに別の場所に着陸した。
ギランの膝の上に、跨がるような体勢で。
「もう、ギランさんっ!」
「何を目くじらたててんだ?こんなもん軽いスキンシップだろうが。なぁ、カオル?」
「いや、僕も落ち着かないんですけど……」
ギランは膝の上に乗せた薫を後ろから抱き、猫でも可愛がるように頭を撫でる。やはり、彼はこのような人格者だったか。薫は納得しかけた結論を、すぐに上書きした。
「団長、彼に入れ込む気持ちはわからないでもないが、彼はまだこの環境に慣れていない。もっと繊細な扱いが必要だと思うのだが」
「相変わらず頭が固ぇ奴だな。俺様を性欲魔人か何かと思ってんのか?俺様はカオルの不安をボディトークを通して解してやろうとしただけだろうが。それになぁ……」
「はい……?」
ギランはおもむろに薫の上着の裾を掴み、薫の理解が及ばないまま唐突に捲り上げた。
ただ前を重ねただけであった上着はあっさりとその内に内包していた薫の肌をコーラル達の前に晒し、まだ人の手の及んでいない彼の柔肌は白雪のように白く、控え目に主張する二つの胸の突起は鮮やかな桜色。
一瞬、何が起こったのかわからない薫であったが、自分を見つめるながら頭を抱えるコーラル、ベーコンを火に掛けたまま固まるアルト、新聞に顔を向けつつ横目で視線を向けるヴァルツ達による三人分の視線に気付き、慌ててギランの手を払い、上着を戻した。
「なななっ、何をするんですかギランさんっ!」
「がははははっ!見たかよ、お前ら。こんな良い体してんだぞ。他の奴らが目をつける前に味わっとこうって考えるのは自然の摂理だろうが」
さすがに薫も怒ってギランの胸板を叩くのだが、そんなものが彼に堪えるはずもない。まったく意に介さないギランによって、再び撫で回されることとなった。
「いや……開き直らないで頂きたい。それに、カオルの同意もなく行為に及ぼうとするのは如何なものかと思うのだが。それではただの獣に変わりない」
「バカか、俺様を誰だと思ってやがる。抱く相手には繊細な配慮でもって柔肌に傷一つ付けねぇのが信条の俺様だぞ。あのままやってりゃ、磨き抜かれた女神も堕とす俺様のテクでその気にさせたに決まってんだろうが」
「以前、悲鳴を聞き付けた憲兵が飛び込んできた時も同じ台詞を聞いたような気がしますね……」
「それより見ろ、肉が無ぇように見えて頬も腹もぷにっぷにだぞ。ちょ、これ、マジでヤバすぎんだろ。止まんねぇぞ、おい……」
「あっ、ホントだ、凄いぷにぷに。なんだか不思議と抗えない魅惑の柔らかさですね……」
「ひゃっ、わ、や、やめて下さいーーーっ!」
薫を囲んで腹と頬の柔らかさを堪能するギランとアルト、もはや説教をするだけ無駄だと悟って肩を竦めるコーラルに、無関心を決め込むヴァルツ。
結局ギランの所業はうやむやに、朝から行われた薫を中心とした騒動は、アルトにより火に掛けたまま忘れ去られたベーコンがヤバめな黒煙を上げるまで続けられ、近所を巻き込む軽いボヤ騒ぎになったのはまた別の話ーーー
「ど、どういうことなんです、コーラルさん!?」
「確かに鎖でベッドに縛り付けておいたんだが……まぁ、団長だしな。やはり効果は無かったか」
「がはははっ!そんな飴細工みたいなモンで俺様の動きを封じようなんざ甘ぇんだよ!俺様を本気で止めたきゃ、オリハルコン製の鎖でも持ってこい!」
そう笑い声を上げるギランが放った二本の鎖が、落ちた先のコーラル達の足下でじゃらりと音を立てた。いかにも頑丈そうな鎖の先端は凄まじい力によって引きちぎられており、ギランの常人離れした怪力が窺える。
唖然とする薫達に対して、まるで自分の存在感を誇示するかのように一歩一歩階段を踏み締めながら、ギランが全員の集まる一階へと降りてきた。
「団長、昨晩のことはーーー」
「まぁ待て待て、説教の前に座らせろ。アルト、目覚めに効くすっげぇ強い酒とベーコンを炙ってくれ。切り方は辞典くらい分厚くな」
「また朝からお酒ですか?いいかげん体壊しますよ」
「俺は低血圧なんだよ。酒で無理矢理体温上げねぇと頭と体が働かねぇんだ。さて……」
ギランの瞳が椅子の上で縮こまる薫を見下ろした。昨夜ほどの強い欲求のようなものは感じないが、やはり記憶が鮮明に残る翌朝では薫の反応も已む無しだろう。
「よぉ、カオルぅ。隣、邪魔するぜ」
「へっ?あ、は、はい」
てっきり何かセクハラ紛いのことでも言われるかと思った薫であったが、ギランは予想外にもおとなしく薫の隣に腰掛けた。これにはコーラル達も拍子抜けだったらしく、若干肩から力が抜けたように見えた。
それは、薫も同じであった。深く息を吐き、今のギランが彼の本当の姿なのだと自分を納得させる。
その時であった。
「よっと」
「はい?」
薫の両脇に手を差し入れ、持ち上げるギラン。腰掛けていた椅子から離れる薫であったが、彼の手によってすぐに別の場所に着陸した。
ギランの膝の上に、跨がるような体勢で。
「もう、ギランさんっ!」
「何を目くじらたててんだ?こんなもん軽いスキンシップだろうが。なぁ、カオル?」
「いや、僕も落ち着かないんですけど……」
ギランは膝の上に乗せた薫を後ろから抱き、猫でも可愛がるように頭を撫でる。やはり、彼はこのような人格者だったか。薫は納得しかけた結論を、すぐに上書きした。
「団長、彼に入れ込む気持ちはわからないでもないが、彼はまだこの環境に慣れていない。もっと繊細な扱いが必要だと思うのだが」
「相変わらず頭が固ぇ奴だな。俺様を性欲魔人か何かと思ってんのか?俺様はカオルの不安をボディトークを通して解してやろうとしただけだろうが。それになぁ……」
「はい……?」
ギランはおもむろに薫の上着の裾を掴み、薫の理解が及ばないまま唐突に捲り上げた。
ただ前を重ねただけであった上着はあっさりとその内に内包していた薫の肌をコーラル達の前に晒し、まだ人の手の及んでいない彼の柔肌は白雪のように白く、控え目に主張する二つの胸の突起は鮮やかな桜色。
一瞬、何が起こったのかわからない薫であったが、自分を見つめるながら頭を抱えるコーラル、ベーコンを火に掛けたまま固まるアルト、新聞に顔を向けつつ横目で視線を向けるヴァルツ達による三人分の視線に気付き、慌ててギランの手を払い、上着を戻した。
「なななっ、何をするんですかギランさんっ!」
「がははははっ!見たかよ、お前ら。こんな良い体してんだぞ。他の奴らが目をつける前に味わっとこうって考えるのは自然の摂理だろうが」
さすがに薫も怒ってギランの胸板を叩くのだが、そんなものが彼に堪えるはずもない。まったく意に介さないギランによって、再び撫で回されることとなった。
「いや……開き直らないで頂きたい。それに、カオルの同意もなく行為に及ぼうとするのは如何なものかと思うのだが。それではただの獣に変わりない」
「バカか、俺様を誰だと思ってやがる。抱く相手には繊細な配慮でもって柔肌に傷一つ付けねぇのが信条の俺様だぞ。あのままやってりゃ、磨き抜かれた女神も堕とす俺様のテクでその気にさせたに決まってんだろうが」
「以前、悲鳴を聞き付けた憲兵が飛び込んできた時も同じ台詞を聞いたような気がしますね……」
「それより見ろ、肉が無ぇように見えて頬も腹もぷにっぷにだぞ。ちょ、これ、マジでヤバすぎんだろ。止まんねぇぞ、おい……」
「あっ、ホントだ、凄いぷにぷに。なんだか不思議と抗えない魅惑の柔らかさですね……」
「ひゃっ、わ、や、やめて下さいーーーっ!」
薫を囲んで腹と頬の柔らかさを堪能するギランとアルト、もはや説教をするだけ無駄だと悟って肩を竦めるコーラルに、無関心を決め込むヴァルツ。
結局ギランの所業はうやむやに、朝から行われた薫を中心とした騒動は、アルトにより火に掛けたまま忘れ去られたベーコンがヤバめな黒煙を上げるまで続けられ、近所を巻き込む軽いボヤ騒ぎになったのはまた別の話ーーー
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
206
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる