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現代から不思議の国へ:少女時代
冷たい壁の向こうに
明美はくたりと壁に寄りかかった。
突然、牢獄に入れられてから3日、さっき尋問が終わった。女性だからか、血筋のせいか暴力は振るわれなかった。けどなんか疲れてくったりする。「若い女性だから」という理由で私には一人部屋が与えられていた。けれど本来は男10人が収容される部屋だから、16歳の小柄な女の子1人には無駄に広かった。
「なぜこの国に来たのか」
「なぜ親はいないのか」
「家族は権力者なのか」
「どこで自身の祖先を知ったのか」
「デイヴィス王朝についてどう思っているのか」
何で今更聞かれるのか分からなかった。けれど疑われないよう言葉を選びながら、なるべく正直に答えた。
「ルーツがそちらにあると聞き、ご先祖様の故郷を見たいと思ったからです」
「父は私が3歳の頃に亡くなりました。母とはその頃から疎遠でした」
「家族に政治家はおりません」
「死んだ祖母に聞きました」
「王朝については何も聞いていないので、分かりません」
祖母については前も「死んだ」って言ったから変えない方がいいと思った。それ以外について追求が入ってしまった。
「なぜ幼い頃から母親と疎遠なのか」
「なぜ1年の滞在でそれほど言葉が流暢なのか」
すごく個人的なことを聞いてきた。尋問だからそんなもんか。
「父が亡くなった半年後に母が再婚しました。継父が4歳の私を私を長期留学に出したからです」
「語学については10年間で何ケ国語かを努力して習得したため、コツを掴んでいるからです」
小さい頃はいつの間にか習得していたけど、10歳になるちょっと前くらいから頑張らないとちゃんと習得できなくなった。
その後も「他国であらかじめ学んでいたのでは?」と聞かれた。何度も何度もなぜこの国に来たのかを聞かれた。もしかするとスパイの疑いを掛けられているのかも。
外国人だから当たり前、家系のせいで怪しまれるのも当たり前。どう考えても怪しいもん。ただ私は祖国が欲しかった。日本人からは私はハーフだからイギリス側の人間だった。イギリスでは日本人として見られていた、イギリス国籍は持っていてもイギリスのパスポートは失効していたから当たり前かもしれないけど。最近では混血児をハーフでなくダブルと呼ぶ向きもあるらしいけれど、私は本当にただのハーフだった。
普通は8歳を過ぎてから1年滞在しているだけで言語は習得できない。でも私には出来る。単語と発音を覚えられたら、文法を覚えればいい。文法は他の言語と似ていることが分かれば出来る。4歳の頃から10年、各国を回されていた私には出来る。努力もせず楽に語学習得したいだけの留学生には分からない。スパイの容疑が掛けられても、味方してくれる人はいない。「不気味」と言われたから、持ち前の顔を活かして愛嬌を振りまいた。そうすると人からの印象は良くなった。けれどスパイという冤罪を晴らしてくれるほど、力になってくれる人はいない。やっぱり本音で話している話していないって分かるのかな?
私は膝を抱え込んだ。寒いなぁ。冷たい床に座り込むだけの2月は寒いなぁ。寒くて寒くて寒くて骨にまで沁みる。ハァと胸いっぱいの白い息を吐いた。思いの外、大きかった白い息の塊に目を瞬かせていると、また誰かが来た。ぎゅっとペンダントを握った。このペンダントをくれたお母さんの顔が浮かんだ。もう自白して楽になればいいのかもしれないけど、嫌だ。正直に言えばスパイということになる。スパイに課せられる刑は国によるけど最悪、一族郎党死刑。ギロチン? 毒殺? 絞首刑? 冷たい床の上で身体が震え、かじかんだ手を擦り合わせた。そうなればもう日本にもイギリスにも帰れない。
ドアが開いた。ぎゅっと目を瞑りペンダントを握りしめた。また兵隊だった。
「来い」
私は黙ってついて行った。私の選択肢はいくつもない。狭い通路を抜けた先にはさっきの尋問官。横柄に大の字で座っている。威圧感を与えるには充分!
怖い、と思いながらドアにより掛かるように立っていると、尋問官は「お前に関する証言が1件だけ入った」と言った。尋問官は1枚の紙を開いた。私は目を凝らして読んだ。
「エリザベス様がそのようなことをなさるはずがございません。お嬢様が疑われている現状は、私の目が行き届かなかったためでございます。このフリーダの不徳に他なりません」
フリーダ?
それからどうやって部屋に戻ったのか分からない。気がついた時には頭がグルグルするまま座り込んでいた。よく分からないまま渦は少しずつ何かを宿し、少しずつ胸に温かさが灯った。
どうしてフリーダが証言をしてくれたんだろう? 証拠も何もない、証言だなんて言えないけど。フリーダはただ半年一緒にいただけの人。なんでスパイ疑惑が掛かっている私に味方してくれたの?
体が少しずつ少しずつ温かくなってきて……。窓を見上げると格子窓越しに鳥が飛んでいるのが見えた。
突然、牢獄に入れられてから3日、さっき尋問が終わった。女性だからか、血筋のせいか暴力は振るわれなかった。けどなんか疲れてくったりする。「若い女性だから」という理由で私には一人部屋が与えられていた。けれど本来は男10人が収容される部屋だから、16歳の小柄な女の子1人には無駄に広かった。
「なぜこの国に来たのか」
「なぜ親はいないのか」
「家族は権力者なのか」
「どこで自身の祖先を知ったのか」
「デイヴィス王朝についてどう思っているのか」
何で今更聞かれるのか分からなかった。けれど疑われないよう言葉を選びながら、なるべく正直に答えた。
「ルーツがそちらにあると聞き、ご先祖様の故郷を見たいと思ったからです」
「父は私が3歳の頃に亡くなりました。母とはその頃から疎遠でした」
「家族に政治家はおりません」
「死んだ祖母に聞きました」
「王朝については何も聞いていないので、分かりません」
祖母については前も「死んだ」って言ったから変えない方がいいと思った。それ以外について追求が入ってしまった。
「なぜ幼い頃から母親と疎遠なのか」
「なぜ1年の滞在でそれほど言葉が流暢なのか」
すごく個人的なことを聞いてきた。尋問だからそんなもんか。
「父が亡くなった半年後に母が再婚しました。継父が4歳の私を私を長期留学に出したからです」
「語学については10年間で何ケ国語かを努力して習得したため、コツを掴んでいるからです」
小さい頃はいつの間にか習得していたけど、10歳になるちょっと前くらいから頑張らないとちゃんと習得できなくなった。
その後も「他国であらかじめ学んでいたのでは?」と聞かれた。何度も何度もなぜこの国に来たのかを聞かれた。もしかするとスパイの疑いを掛けられているのかも。
外国人だから当たり前、家系のせいで怪しまれるのも当たり前。どう考えても怪しいもん。ただ私は祖国が欲しかった。日本人からは私はハーフだからイギリス側の人間だった。イギリスでは日本人として見られていた、イギリス国籍は持っていてもイギリスのパスポートは失効していたから当たり前かもしれないけど。最近では混血児をハーフでなくダブルと呼ぶ向きもあるらしいけれど、私は本当にただのハーフだった。
普通は8歳を過ぎてから1年滞在しているだけで言語は習得できない。でも私には出来る。単語と発音を覚えられたら、文法を覚えればいい。文法は他の言語と似ていることが分かれば出来る。4歳の頃から10年、各国を回されていた私には出来る。努力もせず楽に語学習得したいだけの留学生には分からない。スパイの容疑が掛けられても、味方してくれる人はいない。「不気味」と言われたから、持ち前の顔を活かして愛嬌を振りまいた。そうすると人からの印象は良くなった。けれどスパイという冤罪を晴らしてくれるほど、力になってくれる人はいない。やっぱり本音で話している話していないって分かるのかな?
私は膝を抱え込んだ。寒いなぁ。冷たい床に座り込むだけの2月は寒いなぁ。寒くて寒くて寒くて骨にまで沁みる。ハァと胸いっぱいの白い息を吐いた。思いの外、大きかった白い息の塊に目を瞬かせていると、また誰かが来た。ぎゅっとペンダントを握った。このペンダントをくれたお母さんの顔が浮かんだ。もう自白して楽になればいいのかもしれないけど、嫌だ。正直に言えばスパイということになる。スパイに課せられる刑は国によるけど最悪、一族郎党死刑。ギロチン? 毒殺? 絞首刑? 冷たい床の上で身体が震え、かじかんだ手を擦り合わせた。そうなればもう日本にもイギリスにも帰れない。
ドアが開いた。ぎゅっと目を瞑りペンダントを握りしめた。また兵隊だった。
「来い」
私は黙ってついて行った。私の選択肢はいくつもない。狭い通路を抜けた先にはさっきの尋問官。横柄に大の字で座っている。威圧感を与えるには充分!
怖い、と思いながらドアにより掛かるように立っていると、尋問官は「お前に関する証言が1件だけ入った」と言った。尋問官は1枚の紙を開いた。私は目を凝らして読んだ。
「エリザベス様がそのようなことをなさるはずがございません。お嬢様が疑われている現状は、私の目が行き届かなかったためでございます。このフリーダの不徳に他なりません」
フリーダ?
それからどうやって部屋に戻ったのか分からない。気がついた時には頭がグルグルするまま座り込んでいた。よく分からないまま渦は少しずつ何かを宿し、少しずつ胸に温かさが灯った。
どうしてフリーダが証言をしてくれたんだろう? 証拠も何もない、証言だなんて言えないけど。フリーダはただ半年一緒にいただけの人。なんでスパイ疑惑が掛かっている私に味方してくれたの?
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