8 / 89
現代から不思議の国へ:少女時代
冷たい壁の向こうに
しおりを挟む
明美はくたりと壁に寄りかかった。
突然、牢獄に入れられてから3日、さっき尋問が終わった。女性だからか、血筋のせいか暴力は振るわれなかった。けどなんか疲れてくったりする。「若い女性だから」という理由で私には一人部屋が与えられていた。けれど本来は男10人が収容される部屋だから、16歳の小柄な女の子1人には無駄に広かった。
「なぜこの国に来たのか」
「なぜ親はいないのか」
「家族は権力者なのか」
「どこで自身の祖先を知ったのか」
「デイヴィス王朝についてどう思っているのか」
何で今更聞かれるのか分からなかった。けれど疑われないよう言葉を選びながら、なるべく正直に答えた。
「ルーツがそちらにあると聞き、ご先祖様の故郷を見たいと思ったからです」
「父は私が3歳の頃に亡くなりました。母とはその頃から疎遠でした」
「家族に政治家はおりません」
「死んだ祖母に聞きました」
「王朝については何も聞いていないので、分かりません」
祖母については前も「死んだ」って言ったから変えない方がいいと思った。それ以外について追求が入ってしまった。
「なぜ幼い頃から母親と疎遠なのか」
「なぜ1年の滞在でそれほど言葉が流暢なのか」
すごく個人的なことを聞いてきた。尋問だからそんなもんか。
「父が亡くなった半年後に母が再婚しました。継父が4歳の私を私を長期留学に出したからです」
「語学については10年間で何ケ国語かを努力して習得したため、コツを掴んでいるからです」
小さい頃はいつの間にか習得していたけど、10歳になるちょっと前くらいから頑張らないとちゃんと習得できなくなった。
その後も「他国であらかじめ学んでいたのでは?」と聞かれた。何度も何度もなぜこの国に来たのかを聞かれた。もしかするとスパイの疑いを掛けられているのかも。
外国人だから当たり前、家系のせいで怪しまれるのも当たり前。どう考えても怪しいもん。ただ私は祖国が欲しかった。日本人からは私はハーフだからイギリス側の人間だった。イギリスでは日本人として見られていた、イギリス国籍は持っていてもイギリスのパスポートは失効していたから当たり前かもしれないけど。最近では混血児をハーフでなくダブルと呼ぶ向きもあるらしいけれど、私は本当にただのハーフだった。
普通は8歳を過ぎてから1年滞在しているだけで言語は習得できない。でも私には出来る。単語と発音を覚えられたら、文法を覚えればいい。文法は他の言語と似ていることが分かれば出来る。4歳の頃から10年、各国を回されていた私には出来る。努力もせず楽に語学習得したいだけの留学生には分からない。スパイの容疑が掛けられても、味方してくれる人はいない。「不気味」と言われたから、持ち前の顔を活かして愛嬌を振りまいた。そうすると人からの印象は良くなった。けれどスパイという冤罪を晴らしてくれるほど、力になってくれる人はいない。やっぱり本音で話している話していないって分かるのかな?
私は膝を抱え込んだ。寒いなぁ。冷たい床に座り込むだけの2月は寒いなぁ。寒くて寒くて寒くて骨にまで沁みる。ハァと胸いっぱいの白い息を吐いた。思いの外、大きかった白い息の塊に目を瞬かせていると、また誰かが来た。ぎゅっとペンダントを握った。このペンダントをくれたお母さんの顔が浮かんだ。もう自白して楽になればいいのかもしれないけど、嫌だ。正直に言えばスパイということになる。スパイに課せられる刑は国によるけど最悪、一族郎党死刑。ギロチン? 毒殺? 絞首刑? 冷たい床の上で身体が震え、かじかんだ手を擦り合わせた。そうなればもう日本にもイギリスにも帰れない。
ドアが開いた。ぎゅっと目を瞑りペンダントを握りしめた。また兵隊だった。
「来い」
私は黙ってついて行った。私の選択肢はいくつもない。狭い通路を抜けた先にはさっきの尋問官。横柄に大の字で座っている。威圧感を与えるには充分!
怖い、と思いながらドアにより掛かるように立っていると、尋問官は「お前に関する証言が1件だけ入った」と言った。尋問官は1枚の紙を開いた。私は目を凝らして読んだ。
「エリザベス様がそのようなことをなさるはずがございません。お嬢様が疑われている現状は、私の目が行き届かなかったためでございます。このフリーダの不徳に他なりません」
フリーダ?
それからどうやって部屋に戻ったのか分からない。気がついた時には頭がグルグルするまま座り込んでいた。よく分からないまま渦は少しずつ何かを宿し、少しずつ胸に温かさが灯った。
どうしてフリーダが証言をしてくれたんだろう? 証拠も何もない、証言だなんて言えないけど。フリーダはただ半年一緒にいただけの人。なんでスパイ疑惑が掛かっている私に味方してくれたの?
体が少しずつ少しずつ温かくなってきて……。窓を見上げると格子窓越しに鳥が飛んでいるのが見えた。
突然、牢獄に入れられてから3日、さっき尋問が終わった。女性だからか、血筋のせいか暴力は振るわれなかった。けどなんか疲れてくったりする。「若い女性だから」という理由で私には一人部屋が与えられていた。けれど本来は男10人が収容される部屋だから、16歳の小柄な女の子1人には無駄に広かった。
「なぜこの国に来たのか」
「なぜ親はいないのか」
「家族は権力者なのか」
「どこで自身の祖先を知ったのか」
「デイヴィス王朝についてどう思っているのか」
何で今更聞かれるのか分からなかった。けれど疑われないよう言葉を選びながら、なるべく正直に答えた。
「ルーツがそちらにあると聞き、ご先祖様の故郷を見たいと思ったからです」
「父は私が3歳の頃に亡くなりました。母とはその頃から疎遠でした」
「家族に政治家はおりません」
「死んだ祖母に聞きました」
「王朝については何も聞いていないので、分かりません」
祖母については前も「死んだ」って言ったから変えない方がいいと思った。それ以外について追求が入ってしまった。
「なぜ幼い頃から母親と疎遠なのか」
「なぜ1年の滞在でそれほど言葉が流暢なのか」
すごく個人的なことを聞いてきた。尋問だからそんなもんか。
「父が亡くなった半年後に母が再婚しました。継父が4歳の私を私を長期留学に出したからです」
「語学については10年間で何ケ国語かを努力して習得したため、コツを掴んでいるからです」
小さい頃はいつの間にか習得していたけど、10歳になるちょっと前くらいから頑張らないとちゃんと習得できなくなった。
その後も「他国であらかじめ学んでいたのでは?」と聞かれた。何度も何度もなぜこの国に来たのかを聞かれた。もしかするとスパイの疑いを掛けられているのかも。
外国人だから当たり前、家系のせいで怪しまれるのも当たり前。どう考えても怪しいもん。ただ私は祖国が欲しかった。日本人からは私はハーフだからイギリス側の人間だった。イギリスでは日本人として見られていた、イギリス国籍は持っていてもイギリスのパスポートは失効していたから当たり前かもしれないけど。最近では混血児をハーフでなくダブルと呼ぶ向きもあるらしいけれど、私は本当にただのハーフだった。
普通は8歳を過ぎてから1年滞在しているだけで言語は習得できない。でも私には出来る。単語と発音を覚えられたら、文法を覚えればいい。文法は他の言語と似ていることが分かれば出来る。4歳の頃から10年、各国を回されていた私には出来る。努力もせず楽に語学習得したいだけの留学生には分からない。スパイの容疑が掛けられても、味方してくれる人はいない。「不気味」と言われたから、持ち前の顔を活かして愛嬌を振りまいた。そうすると人からの印象は良くなった。けれどスパイという冤罪を晴らしてくれるほど、力になってくれる人はいない。やっぱり本音で話している話していないって分かるのかな?
私は膝を抱え込んだ。寒いなぁ。冷たい床に座り込むだけの2月は寒いなぁ。寒くて寒くて寒くて骨にまで沁みる。ハァと胸いっぱいの白い息を吐いた。思いの外、大きかった白い息の塊に目を瞬かせていると、また誰かが来た。ぎゅっとペンダントを握った。このペンダントをくれたお母さんの顔が浮かんだ。もう自白して楽になればいいのかもしれないけど、嫌だ。正直に言えばスパイということになる。スパイに課せられる刑は国によるけど最悪、一族郎党死刑。ギロチン? 毒殺? 絞首刑? 冷たい床の上で身体が震え、かじかんだ手を擦り合わせた。そうなればもう日本にもイギリスにも帰れない。
ドアが開いた。ぎゅっと目を瞑りペンダントを握りしめた。また兵隊だった。
「来い」
私は黙ってついて行った。私の選択肢はいくつもない。狭い通路を抜けた先にはさっきの尋問官。横柄に大の字で座っている。威圧感を与えるには充分!
怖い、と思いながらドアにより掛かるように立っていると、尋問官は「お前に関する証言が1件だけ入った」と言った。尋問官は1枚の紙を開いた。私は目を凝らして読んだ。
「エリザベス様がそのようなことをなさるはずがございません。お嬢様が疑われている現状は、私の目が行き届かなかったためでございます。このフリーダの不徳に他なりません」
フリーダ?
それからどうやって部屋に戻ったのか分からない。気がついた時には頭がグルグルするまま座り込んでいた。よく分からないまま渦は少しずつ何かを宿し、少しずつ胸に温かさが灯った。
どうしてフリーダが証言をしてくれたんだろう? 証拠も何もない、証言だなんて言えないけど。フリーダはただ半年一緒にいただけの人。なんでスパイ疑惑が掛かっている私に味方してくれたの?
体が少しずつ少しずつ温かくなってきて……。窓を見上げると格子窓越しに鳥が飛んでいるのが見えた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる