探偵と助手の日常<短中編集>

藤島紫

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ホイップたっぷり、さくら待ちラテはいかがでしょうか。

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「俺、そっちのホイップなしの方でいいよ。それ、作りかけだったんだろ? 甘いのなら、さっき飲んだしさ」
「無用な気遣いだ」
「……まさかとは思うけど、ハイカロリーだからとか、言う?」
「カロリーではなく、今の体調に不要だからと言う方が正しい」
「……うわ、お前……その体づくり大好きなの、こう言う時くらい解除してもいいんだぞ? ほら、味を知っている方がいいと思うし」
「試作で飲んでいるから問題ない」
「そういう問題かー」
「そういう問題だ。あと、ドーナツもあるぞ」
「お前、ほんとにな……」

 テーブルの中央には、紙に包んだドーナツやクッキーが置いてある。
 カフェではあまり見かけない、ぜいたくな光景だ。
 あまりにも穏やかなひと時で、殺人事件の話をしている事を忘れてしまいそうだ。

「爾志君もどうぞ。三枝君も、食べていい」
「はい、ありがとうございます」

 爾志がクッキーに手を伸ばした。
 紗川はコーヒーを口に運び、一口飲み下すと、「ところで爾志君」とゆっくりと尋ねた。

「被害者は彼女たちが持ってきたお菓子は全て食べたと認識してよいのですね?」
「はい」

 爾志はペーパーでドーナツを包みなおしながらうなずいた。

「警察は、四人のうちの誰かが毒入りのお菓子を持ってきたと思ってるみたいです。時間を考慮するとお菓子のなかに毒が入っていた可能性が高いと言っています」
「断定していましたか?」

 紗川の問いに爾志は慌てて首を振った。

「あ、いえ。控えめに……」

 首を振る爾志に頷いた紗川は「それで?」と先を促した。

「田中さん、全部食べちゃったから、誰が持ってきたお菓子のなかに毒が入っていたのか、分からないんです」

 紗川は再び頷くと、確認だがと、前置きして問いかけた。

「通常は、食べ物を持って来る時、そのまま運ぶことはありません。ここにあるドーナツやクッキーですらそうです。まして、贈り物であれば、ラッピングされているはずです」
「はい」
「それについた付着物からは何も分からなかったのですか?」
「それが……」

 爾志はため息交じりに答える。

「全部、燃やしちゃった後なんです。動物園では、午前五時に回収してあったゴミを客が来る前に燃やすんです」
「最近は規制が厳しくなっているようですね」
「燃やすのはいわゆる産業ゴミの中の一部です。許可が下りてる藁とか木くず、紙類だけで」
「その時に燃やしてしまったから、証拠がないのですね」
「そうです」
「あと、容疑者の四人の人間関係とお人柄について伺います。彼女たちはライバル関係にありました。現に、カンガルーの人とコアラの人は口論をしていたのですよね。仲が悪かったと考えられますが……いかがですか?」
「カンガルーの人とコアラの人は、最悪でした。お互いに相手を見張りあうような感じで。ほんの少しでも、模範的じゃない行動をすると、すぐに上司に報告しに行くとか。それも、大げさに言いに行くんですよ。相手を動物園から追い出そうとしてるのがよくわかりました」
「仕事上でも、ぶつかっていたのですね」
「はい。カンガルーとコアラですからね。何かイベントがあると、一緒に活動することも多くて。ぶつかり合いにならないように周りはいつも気を遣っているようでした」
「仕事でもライバル関係にあった、という事でしょうか」
「そうですね。年も近くて、ポジションも横並びだから相手のことが気になって仕方がないんじゃないのかって、うちの父は言っていました。もし、田中さんのことがなくても、あの二人はぶつかっていたと思います。仕事の関係で」
「お二人とも、熱心な方なのですね」
「そうだと思います。あと、ショートの人と事務の人は周りに敵を作る感じじゃなかったです」
「ショートの人は料理上手という事でしたが、それを嫉まれるようなことはなかったのでしょうか」
「コアラとカンガルーの人はいつも文句ばっかり言ってました。あの人たちは何でも悪口いう人だから……」
「爾志君の耳にも入ってくるほど、ひどかったという事ですね?」
「そうです。逆に、ショートの人と事務の人は園内の評判も良くて、女癖が悪いから田中さんはやめた方がいいってみんな心配してたらしくて。でも、料理上手っていう事で、ショートの人が一番田中さんと近かったような気がします」

 三枝はメモを取りながら、首を傾げた。
 明らかに、ショートの高橋が優位ではないか。彼女にとって、そんな女癖の悪い男のどこが良かったのかはわからないが、その逆はなさそうに思える。

「ショートの人が最も先んじているように見えた、という事ですね」
「そうですね。他の人が食いついてこなかったら、とっくに付き合ってて、とっくに結婚までしていたと思いますよ」わ
「爾志君の父上はそのように言っていたのですか?」
「はい。本当は、ちゃんと決まった人がいるのに、変にモテてしまったから調子に乗ってしまってふら付いているんじゃないのかって」
「それについて、ショートの人は怒ってはいなかったのですか?」
「なんというか……他の二人は競争相手とみてなかったって言うか……引いているところがあった気がします。事務の人と仲が良かったみたいです」
「そうなのですか」
「はい。事務の人が一番年が上です。うちの父は、彼女はショートの人と仲がいいから、それに引きずられて田中さんと仲良くしていたんじゃないかって言っていました。実際に、来月に退職予定だったらしくて」
「退職を?」
「そうなんですよ。アロマショップをやるそうで。だから事務の人のことはコアラの人もカンガルーの人も敵視してなかったって言うか。仲良くしてた気がします」

 紗川は一つ頷くと、ゆっくりとコーヒーを飲んだ。
 本人が思っていたよりも甘かったのだろう。
 一瞬、顔をゆがめたが、すぐに取り戻す。

「確認させてください」

 紗川はタブレットを取り出すと、何かを検索し、その画面を表に向けたままテーブルに置いた。表示画面はPDFだろうか、横からでは読みづらい。
 長い前髪をかきあげる仕草を途中で止めたまま、紗川が目を細めた。
 そのまま視線を落とし、心地よさそうに小さく微笑む。
 それが何を示すのか、三枝は直感的に理解した。

「分かったんですか?」

 驚愕を隠せなかった。三枝は身を乗り出して紗川を見た。
 コーヒーカップを静かに置くと、紗川は仕事を終えた表情で指を組んだ。
 爾志も真剣なまなざしで紗川を見ている。

「今聞いた話で推理することが可能であるなら――見当をつけることはできます」

 懸命に推理をしている様子も、悩んでいる様子も見せぬまま、探偵はくつろいでいる。 
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