幽霊事務局長の穏やかな日常=大病院の平和は下っぱ事務員と霊が守ります=

藤島紫

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ヒラ事務員たちの悲しい日常1

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 私はヒラの事務員だ。
 真面目な桐生さんでさえ、今は下っ端であることに変わりはない。病院職員と言っても、公立病院である以上、わたしたちは公務員だ。どうしても年功序列になる。差が出てくるのは40くらいだろうが、今は私も桐生さんも横並びでヒラなのだ。
 いや、一応、主査捕という肩書はあるが、実質、ヒラだ。
 という事は、自分たちの思うように仕事をさせてもらえない、と言う、なかなかにつらい現状と向き合わねばならず、折り紙のカエルについての考察は、翌日に持ち越されることとなった。
 ところが、最近日課にしている出勤ランニングを終え、更衣室に行くと、桐生さんはもういなかった。

「うっそだああ」

 がらんとしている更衣室を見て、思わず声を上げてしまった。
 いつも同じ時間に庶務課のドアをくぐる桐生さんが、時間通りに動いていない。庶務課のメンバーは桐生さんの動きを時計代わりにしているくらいだ。
 更衣室の壁にある時計は電波時計だが、嘘のような気がしてくる。
 更衣室に備え付けられている内線で時間外受付にいる守衛さんに「桐生さん、今日来てますよね!」と聞いたが、出勤はいつも通りだったそうだ。
 桐生さんと机を並べて5年になるが、こんなことは初めてだ。
 何かあったのかもしれない。
 急いでシャワーを浴び、着替えを済ませると、階段を駆け上がって庶務課に向かった。
 こんな時だから今日こそは北階段! と思って更衣室を出たはずなのに、やはり今日も、駆け上がったのは中央階段だった。
 くそ、どうしてなんだ。
 舌打ちして庶務課のドアを開ける。

――いた!

 シワのないチャコールグレーのスーツと、天然パーマ。
 あれは紛れもなく、桐生さんだ。
 しかし、様子がおかしい。
 自分の椅子の横に立って、両腕を上下に揺らしている。かと思うと、まるで平泳ぎでもしているかのように両手を内から外に書き出す動きをした。
 挙句の果てに、人差し指で空気をつんつんつつきだした。
 だが、何よりもおかしいのは、その行動自体ではない。いや、その行動も十分おかしいんだが、もっと他に突っ込むべきところがある。

「桐生さん……その猫、どうしたんだよ」

 思わず声に出てしまった。
 椅子に、クロネコが座っている。もちろんそれは桐生さんの椅子だ。
 桐生さんはそのクロネコの上部で先ほどの動きを繰り返していたのだ。
 そして、クロネコがそれを面白そうに見ているという、実にシュールな光景だ。

「友利さん。おはようございます」

 こちらに気づいた桐生さんが、姿勢を正してきっちり8秒かけた見本のような挨拶をしてきた。
 もし私が日本お辞儀学会などと言うものの会長だったら、これをお手本にするようにと録画するだろう。

「いや、おはようじゃなくて」
「挨拶は全ての基本です」
「ああもう、おはよう。で、さ。その猫だよ、クロネコ! そいつ、建物の中に入れちゃやべえだろ。保健所に連れてかれるぞ」
「ねこ……」

 桐生さんは瞬きをして、椅子の上を指示した。

「猫? 友利さん、失礼ですが見えていると昨日言っていませんでしたか?」
「見えてるって」
「本当に見えていますか?」
「はあ? だから、見えてるって」
「結城事務局長が」
「クロネコが」
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