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偉いドクターとヒラ事務員の日常3
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「カエル?」
恨むぞクロネコ。
睨みつけたが、クロネコは素知らぬふりで脚を広げて毛づくろいの真っ最中だ。
いい度胸していやがる。
あいつが幽霊だろうがなんだろうが、取っ捕まえて肉球触られまくりの刑に処してやる。絶対に許さないからな。
「ねえ、これって……」
「あ、あのですね。唐突で申し訳ありませんがっ! これ、ご存じないでしょうか?」
尋ねながら、心の中で頭を抱える。
こりゃねえだろう。
いくらクロネコのせいと言っても、不自然極まりない。
ほらみろ、絹井先生、きょとーんとしているではないか。
どうする。
すぐにいい案が思い浮かばない。
よし、こういう時はあれだ。とりあえず笑っておけ。愛嬌が大事だ。
絹井先生はしばらく不審そうにしていたが、手のひらで折り紙のカエルを転がしているうちに、何か思い当たることがあったらしい。
「どうしたのこれ」
おっと。まさかこれはヒットだろうか。
ちらりと視界に入ったクロネコは「どうだ参ったか」と言わんばかりにヒゲを揺らしていたがあえて気にしないことにする。
「実は、入院している犬飼さんに渡したいと、下のカフェで親子連れから渡されまして」
「やっぱり! 犬飼さん宛てだったのね」
クロネコは絹井先生の隣に座り、得意げにしっぽでリノリウムの床を叩いた。
うわ、その得意そうな顔が腹たつ。
お前、後でササミ肉を買ってやるから覚悟しておけ。
「そうなんですよ。それでその犬飼さんに届けたいと思ってるんですが、病室が分からなくて。症状によっては事務員の私が脚を踏み入れるわけにはいきませんから、看護士さんにお願いしようかと思ってたんです」
「それは無理よ。犬飼さん、退院しちゃたんだもの」
「退院、ですか?」
知っているのだが、ここも知らないふりだ。色々話してくれるかもしれない。
ところが、話は思わぬ方向に向かってしまった。
私の名探偵ぶりはここでターンエンドらしい。あまりにもあっけない、短すぎる幕切れだった。
「そのカエルどうするつもり?」
「どうするって……いえ、捨てるわけにもいかないですし……」
「届けるの?」
そのつもりでここまできたのだ。
私が肯定すると、絹井先生は嬉しそうに微笑んだ。
「よかった。じゃあ、ほかにもお願いしたいんだけど」
ほかにも?
どういうことだと内心で首を傾げていると、絹井先生がナースセンターに向かって「犬飼さんのカエル、こっちに持ってきてもらえない?」と声をかけた。
いやあ、さすが救命の医長。一声かけるとすぐにみんなが動く。
私ではこうはいかないと思うようなスピードで看護士さんが動き、紙袋が届けられた。
「誰かに輸送してもらおうと思ってまとめてたんだけど、時間なくてね。よかったわ。庶務課さんにお願いしてもいい? 担当じゃないのは分かってるんだけど」
渡された紙袋の中には、折り紙のカエルがたくさん入っていた。
「これね。上の小児病棟から子供たちが持ってくるのよ。あと、カフェからも。退院になった患者さんが、犬飼さんが来たら渡してほしいってカフェに置いていくみたいなのね」
それはカフェも困るだろう。
「あっという間にこんなにたまっちゃって。犬飼さん、ほんと、いい人だったから。あ、連絡先、中に入ってる電カルに載ってるから」
言われてみれば、紙袋の側面に沿ってファイルが一つ入っている。機会があればすぐに輸送できるように、準備してあったのだろう。
「では、こちらお預かりします」
私は紙袋を受け取って一礼すると、3階病棟をあとにした。
だが、その時、違和感を覚えるべきだったのだ。
階段を降りる私の横を、黒い猫が静かに寄り添っていた。
恨むぞクロネコ。
睨みつけたが、クロネコは素知らぬふりで脚を広げて毛づくろいの真っ最中だ。
いい度胸していやがる。
あいつが幽霊だろうがなんだろうが、取っ捕まえて肉球触られまくりの刑に処してやる。絶対に許さないからな。
「ねえ、これって……」
「あ、あのですね。唐突で申し訳ありませんがっ! これ、ご存じないでしょうか?」
尋ねながら、心の中で頭を抱える。
こりゃねえだろう。
いくらクロネコのせいと言っても、不自然極まりない。
ほらみろ、絹井先生、きょとーんとしているではないか。
どうする。
すぐにいい案が思い浮かばない。
よし、こういう時はあれだ。とりあえず笑っておけ。愛嬌が大事だ。
絹井先生はしばらく不審そうにしていたが、手のひらで折り紙のカエルを転がしているうちに、何か思い当たることがあったらしい。
「どうしたのこれ」
おっと。まさかこれはヒットだろうか。
ちらりと視界に入ったクロネコは「どうだ参ったか」と言わんばかりにヒゲを揺らしていたがあえて気にしないことにする。
「実は、入院している犬飼さんに渡したいと、下のカフェで親子連れから渡されまして」
「やっぱり! 犬飼さん宛てだったのね」
クロネコは絹井先生の隣に座り、得意げにしっぽでリノリウムの床を叩いた。
うわ、その得意そうな顔が腹たつ。
お前、後でササミ肉を買ってやるから覚悟しておけ。
「そうなんですよ。それでその犬飼さんに届けたいと思ってるんですが、病室が分からなくて。症状によっては事務員の私が脚を踏み入れるわけにはいきませんから、看護士さんにお願いしようかと思ってたんです」
「それは無理よ。犬飼さん、退院しちゃたんだもの」
「退院、ですか?」
知っているのだが、ここも知らないふりだ。色々話してくれるかもしれない。
ところが、話は思わぬ方向に向かってしまった。
私の名探偵ぶりはここでターンエンドらしい。あまりにもあっけない、短すぎる幕切れだった。
「そのカエルどうするつもり?」
「どうするって……いえ、捨てるわけにもいかないですし……」
「届けるの?」
そのつもりでここまできたのだ。
私が肯定すると、絹井先生は嬉しそうに微笑んだ。
「よかった。じゃあ、ほかにもお願いしたいんだけど」
ほかにも?
どういうことだと内心で首を傾げていると、絹井先生がナースセンターに向かって「犬飼さんのカエル、こっちに持ってきてもらえない?」と声をかけた。
いやあ、さすが救命の医長。一声かけるとすぐにみんなが動く。
私ではこうはいかないと思うようなスピードで看護士さんが動き、紙袋が届けられた。
「誰かに輸送してもらおうと思ってまとめてたんだけど、時間なくてね。よかったわ。庶務課さんにお願いしてもいい? 担当じゃないのは分かってるんだけど」
渡された紙袋の中には、折り紙のカエルがたくさん入っていた。
「これね。上の小児病棟から子供たちが持ってくるのよ。あと、カフェからも。退院になった患者さんが、犬飼さんが来たら渡してほしいってカフェに置いていくみたいなのね」
それはカフェも困るだろう。
「あっという間にこんなにたまっちゃって。犬飼さん、ほんと、いい人だったから。あ、連絡先、中に入ってる電カルに載ってるから」
言われてみれば、紙袋の側面に沿ってファイルが一つ入っている。機会があればすぐに輸送できるように、準備してあったのだろう。
「では、こちらお預かりします」
私は紙袋を受け取って一礼すると、3階病棟をあとにした。
だが、その時、違和感を覚えるべきだったのだ。
階段を降りる私の横を、黒い猫が静かに寄り添っていた。
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