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怪我人たちの静かならざる日常4
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「友利さんが忌引きで休んでいる間です。一人での作業でしたが、スムーズに進んだので、自分一人の方が効率が良いと課長に報告したのです」
「だろうなあ」
「怒らないのですか?」
「だって足を引っ張るやつがいないじゃん。桐生さん一人の方がデスクワークは早いだろ。教えながらとか、時間かかるもんな」
ましてややる気がなく、何かと言えば桐生さんに押し付けていたのだから、当然だ。
「ま、当然の考えだよな。でも、課長はソレ、納得しなかっただろ。俺たち組ませたの、あの人だし」
「応接室に呼ばれて、非常に叱られました」
「本気のお叱りモードじゃねえか。やっべえな」
何しろ応接室といえば、事実上のお説教部屋だ。
来客者と話をするより、個別にお叱りを受ける際に使われることの方が圧倒的に多いため、ほとんどの職員が嫌っている。
「妻子を亡くしたばかりの同僚に対して言うことではないと。そんな考えの人間は病院で働かせておけない、他に行けと感情的に怒鳴られました」
眼に浮かぶようだ。
うちの課長はおとなしそうに見えて、意外と人情派だからな。
そしてふと、気づいた。
忌引きの間、課で集めた見舞金を届けてくれたのは桐生さんだ。見舞いの品にプロテインなんてすげえ選択してくれたのだが、それも自分が欲しいものを選べと言われたからと話していた。それはつまり、課長が仕向けたと言うことだろう。
課長の思惑通り、私たちはあの日をきっかけに関係性が変わったところはある。とはいえ、まさかプロテイン持ってくるなんて、課長も思わなかっただろう。
「叱られている間、結城事務局長のお言葉が目に入りました」
「『人々の痛みと苦しみを軽減させるため、責務を全うする』って、額に入ってるアレな」
「お恥ずかしいことですが……その時までずっと、そこに書かれている人々とは『患者』のことだと思っていました」
中庭にいるクロネコは、我関せずと言った顔で毛づくろいをしている。
あの猫が桐生さんには結城事務局長に見えるのだとしたら、今、どんな顔をしているのだろう。
「わかるよ。ここ病院だしさ。ふつうは、患者のって思うじゃん」
「そうですね」
桐生さんも中庭を見ていた。
猫はあくびをしてわき腹を舐めている。
さっきも舐めていたところだ。こちらのことなど気にしていないそぶりで、気にしているのバレバレだぞ。
「でもそれを『人々の』と言ってるってことは、患者だけではなくスタッフも含まれているんだってことか」
「はい」
私は毛づくろいし続けているクロネコから、真剣な顔で頷いている桐生さんに視線を戻した。
「これ、俺の意見。もしかしたらなんだけどさ。結城事務局長はそこに、患者の家族も含んでるのかもな」
「家族、ですか?」
「結城事務局長の奥さん、病院がなかったから移動中に亡くなったんだろ? すっげえ悔しかっただろうなって思うし、苦しかっただろうって思うよ」
「そうですね」
「だからさ。結城事務局長本人が、助けて欲しいと思ってたんじゃないかな。自分が救われたかったんだよ。きっとな」
「そう、なのですか……?」
おうおう、珍しいな。目を丸くして。
桐生さんがこんな風に表情を出すことはあまりない。
よほど意外だったらしい。
だが、意外というなら、お互い様だ。
どう考えても私と結城事務局長が似ているところなどない。家族を亡くした境遇は似ているのかもしれないが、私は仕事ができないし、桐生さんに頼ってばかりだ。
とはいえ、ダメなやつだと思われているよりはずっと良かった。
「分かんねえよ。あくまでも俺の意見な。俺はそうだってだけ。ま、俺にはクロネコにしか見えねえけど。桐生さんには違って見えるんだろ? 本人に聞いてみりゃいいじゃん」
中庭にいるクロネコは、素知らぬ顔で毛づくろいをしている。
桐生さんがクロネコをみる。
いや、結城事務局長か。
どうよ、どんな反応だと尋ねようとした時だった。
「あ」
「だろうなあ」
「怒らないのですか?」
「だって足を引っ張るやつがいないじゃん。桐生さん一人の方がデスクワークは早いだろ。教えながらとか、時間かかるもんな」
ましてややる気がなく、何かと言えば桐生さんに押し付けていたのだから、当然だ。
「ま、当然の考えだよな。でも、課長はソレ、納得しなかっただろ。俺たち組ませたの、あの人だし」
「応接室に呼ばれて、非常に叱られました」
「本気のお叱りモードじゃねえか。やっべえな」
何しろ応接室といえば、事実上のお説教部屋だ。
来客者と話をするより、個別にお叱りを受ける際に使われることの方が圧倒的に多いため、ほとんどの職員が嫌っている。
「妻子を亡くしたばかりの同僚に対して言うことではないと。そんな考えの人間は病院で働かせておけない、他に行けと感情的に怒鳴られました」
眼に浮かぶようだ。
うちの課長はおとなしそうに見えて、意外と人情派だからな。
そしてふと、気づいた。
忌引きの間、課で集めた見舞金を届けてくれたのは桐生さんだ。見舞いの品にプロテインなんてすげえ選択してくれたのだが、それも自分が欲しいものを選べと言われたからと話していた。それはつまり、課長が仕向けたと言うことだろう。
課長の思惑通り、私たちはあの日をきっかけに関係性が変わったところはある。とはいえ、まさかプロテイン持ってくるなんて、課長も思わなかっただろう。
「叱られている間、結城事務局長のお言葉が目に入りました」
「『人々の痛みと苦しみを軽減させるため、責務を全うする』って、額に入ってるアレな」
「お恥ずかしいことですが……その時までずっと、そこに書かれている人々とは『患者』のことだと思っていました」
中庭にいるクロネコは、我関せずと言った顔で毛づくろいをしている。
あの猫が桐生さんには結城事務局長に見えるのだとしたら、今、どんな顔をしているのだろう。
「わかるよ。ここ病院だしさ。ふつうは、患者のって思うじゃん」
「そうですね」
桐生さんも中庭を見ていた。
猫はあくびをしてわき腹を舐めている。
さっきも舐めていたところだ。こちらのことなど気にしていないそぶりで、気にしているのバレバレだぞ。
「でもそれを『人々の』と言ってるってことは、患者だけではなくスタッフも含まれているんだってことか」
「はい」
私は毛づくろいし続けているクロネコから、真剣な顔で頷いている桐生さんに視線を戻した。
「これ、俺の意見。もしかしたらなんだけどさ。結城事務局長はそこに、患者の家族も含んでるのかもな」
「家族、ですか?」
「結城事務局長の奥さん、病院がなかったから移動中に亡くなったんだろ? すっげえ悔しかっただろうなって思うし、苦しかっただろうって思うよ」
「そうですね」
「だからさ。結城事務局長本人が、助けて欲しいと思ってたんじゃないかな。自分が救われたかったんだよ。きっとな」
「そう、なのですか……?」
おうおう、珍しいな。目を丸くして。
桐生さんがこんな風に表情を出すことはあまりない。
よほど意外だったらしい。
だが、意外というなら、お互い様だ。
どう考えても私と結城事務局長が似ているところなどない。家族を亡くした境遇は似ているのかもしれないが、私は仕事ができないし、桐生さんに頼ってばかりだ。
とはいえ、ダメなやつだと思われているよりはずっと良かった。
「分かんねえよ。あくまでも俺の意見な。俺はそうだってだけ。ま、俺にはクロネコにしか見えねえけど。桐生さんには違って見えるんだろ? 本人に聞いてみりゃいいじゃん」
中庭にいるクロネコは、素知らぬ顔で毛づくろいをしている。
桐生さんがクロネコをみる。
いや、結城事務局長か。
どうよ、どんな反応だと尋ねようとした時だった。
「あ」
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