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怪我人たちの静かならざる日常5
しおりを挟む子供が柵を越えて中庭に入り込んできた。
4歳か5歳くらいの男の子だ。
男の子は、私たちが見ている目の前で、窓の外側のサッシに何かをおいている。
桐生さんが立ち上がった。
「そこは立ち入り禁止です」
いやいやいやいや、桐生さん、今それ言ったら逃げちゃうだろ。
案の定、男の子はビクッと身をすくめた後で身を翻した。ガラス越しとはいえ声は聞こえる。
「止まってください」
無理だって。止まるわけねえだろ。
男の子は一目散に走っていく。
「どうするよ」
「追います」
「マジで?」
私たちは怪我人なので、朝のランニングは禁止されている。
走るつもりか、桐生さん。
「学生の頃は3000メートルの選手でした。障害物走も得意です」
そういうことじゃねえよ。
「自分の肩はどうなんだっつー話だろうがっ!」
だが桐生さんに私の言葉は届いていなかったらしい。素早い動きでカフェを出てしまった。もちろん、先日接触事故が起きかけた出入り口付近では一時停止を忘れない。
そういうところは立派だけど、マジで待って。
お店的に食いかけのパスタはどうすんだよ。
「ああクソっ」
私も後に続く。
実は結構年上なことが判明した美人のバリスタさんに「すみません、戻ってくるんでとっといてください!」と声だけかけて、正面玄関を出るなり駆け出した。
ああ、すげえ迷惑な客だ。
これじゃあ、次にホットドック頼んだ時はソースが控えめなんじゃないか?
常連なんだから少しでもいい客でいたいという、私の見栄を分かって欲しい。
桐生さんはぐんぐんスピードを上げていく。
病院の広大な駐車場の外側を子供が走っていくのを見て、桐生さんは職員用の駐車場に駆け込んだ。止まっている車の間を突っ切っていく。
職員用だから開院時間中は出入りがないのをいい事に、桐生さんはスピードを緩めない。
というか、肩!
本当に大丈夫なのか。
私も走るのは早い方だと思っていたが、とても桐生さんには追いつけない。
革靴でどうやってそんなに早く走れるんだよ。
「ああくそっ……、マジ……はえぇ、なっ!」
桐生さんに追いつこうと思ったら最短ルートを選ばないと無理だ。
入院患者用駐車エリアとの仕切りにしだれサクラの並木ーー今の季節でよかった。葉もほとんど落ちているじゃないか。
追いついてやる。
デスクワークはまるっきりかなわないが、こういうところでも役立たずじゃ癪に触るからな。
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